神経鞘腫
神経鞘腫は様々な脳神経から発生しますが,ほとんどは聴神経から発生する為,以下では聴神経鞘腫について記載します。
聴神経鞘腫は原発性脳腫瘍のうち約10%を占める,比較的頻度の高い良性腫瘍です。30〜50歳台の女性に多く発症します。聴神経には蝸牛神経(聴力に関与)と前庭神経(平衡感覚に関与)の2種類があり,聴神経鞘腫の殆どは前庭神経から発生します。
症状としては,
蝸牛,前庭神経由来:耳鳴り,難聴,めまい,眼振,歩行の不安定等
小脳由来:小脳性運動失調等
続いて近接する脳神経症状として
三叉神経由来:顔面のしびれ,痛み,かみ合わせの違和感等
顔面神経由来:顔面の麻痺
外転神経由来:ものが二重に見える等
下位脳神経由来:声のかすれ,むせコミ等を引き起こす事があります。
さらに大きくなると脳脊髄液の通過障害によって,頭の中に脳脊髄液が溜まってしまう水頭症なども起こります。この場合頭痛,意識障害が起こります。
正常のMRI画像
ここが最も大事な点ですが,良性腫瘍で非常にゆっくりとしか成長しませんので,治療を急ぐ必要はありません。
【治療方法について】
外科手術による摘出
放射線治療(定位的放射線手術)
経過観察があります。
それぞれについてご説明致しますが,残念ながら現代の医学では未だ薬による治療は不可能です。
外科手術について。良性腫瘍なので全摘出できれば完治する腫瘍です。しかし並走する顔面神経は非常に弱い神経で,手術中触らなくても術後顔面神経麻痺が起こる事があります。1年くらいで改善しますが,後遺症として残る事もあります。この為脳神経外科手術の中でも難易度の高いものとなっております。
20mmを越える腫瘍では手術による顔面神経麻痺の危険性が高まって来る為,小さいうちに発見されたものを2005年春までは積極的に手術治療しておりました。我々の治療成績は良好です。
しかし2005年から少し考えを変えております。というのは長い期間手術せずに見ていると自然に小さくなってくる事があったり(10から20%位),長い期間大きくならない事が多く見られるからです。(この事は多くの脳腫瘍の治療をされている先生方も同意見です。しかしまだ教科書には記載されていません。)

現在絶対手術適応と考えているものは,大きさが30〜40mm以上で脳幹部を強く圧迫しているもの,腫瘍内出血をして急激に大きくなったもの,嚢胞を作って急激に大きくなったもの,神経線維腫症(遺伝子病)で多発しているものなどですが、大きさだけでなく年齢や個人の考え方など個々に相談しながら決定します。
放射線治療について。上記の様に手術が難しい為,約20年前から放射線手術(ガンマナイフなど)が発達してきました。当初は放射線手術における合併症も良く見られましたが,最近では外科手術をしのぐ成績が盛んに報告されており,治療の第一選択は放射線治療に徐々に置き変わっております。ただし最大の欠点は正確な組織診断がつけられない事と、ごく稀に悪性転化することです。
我々は1)にも記載したように,殆ど大きくならなかったり自然に小さくなる事が有る腫瘍ですので,症状に変化が無ければ、経過観察をして徐々に大きくなるものについて放射線手術をしております。しかし放射線手術後一過性に大きくなる事や,周囲の脳神経,脳幹部に対する放射線の影響が有る為,通常30mmまでが治療可能とされております。また嚢胞病変には効果がありません。
経過観察について。1)2)に記載したような理由で現在では経過観察している方が多くいらっしゃいます。
聴神経鞘腫の発生部位は小脳橋角部と言いますが,同部位には他に髄膜腫,神経膠腫,類皮腫,類上皮腫,クモ膜嚢胞など他の腫瘍も発生する事が有ります。殆どが良性腫瘍で,MRIでおおよその診断がつきますが,最終的には手術による組織診断でしか確定する事は不可能です。この為他の腫瘍が強く疑われる場合にはやはり手術が必要となります。
今まで述べたように,現在経過観察をしている方が多数いらっしゃいます。しかし経過観察で起こりえる弊害としては,①:腫瘍が聴神経鞘腫でなかった場合(例えば癌の転移など)に,手遅れとなることがある。②:聴神経鞘腫は稀に腫瘍内に出血をして,突発性難聴や,突然顔面神経麻痺が出現したりすることがある。等があります。この為慎重に経過観察をしなければなりません。また良性腫瘍と言えども,5年,10年という単位で見ればゆっくりと大きくなり,小脳,脳幹部を圧迫してくる可能性は高いです。そこで経過観察をしていて,比較的急速に増大する場合には手術か放射線手術をする必要があり,また急速な嚢胞形成,腫瘍内出血の場合,手術療法をする必要が生じます。




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