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5.入院療法の有用性とステロイドの影響

入院された重症例は全員短期間で大幅に皮膚症状やかゆみが改善し、多くの方が社会生活に復帰しています。病気の性格上、皮膚症状が慢性的に経過するので日々の治療がマンネリ化しやすくなります。入院後に滑らかでかゆみのない肌が蘇ると患者さんの治療に対する積極性が生まれます。かゆみが強いと、熟睡が出来ない、疲れが取れない、集中力が出ない、日中イライラするなどの睡眠障害につながります。入院前後で睡眠に関するアンケートを取ると、大幅にこの睡眠障害は改善しています。

入院期間中に使用するステロイド外用薬が、本来の内分泌系(内因性ホルモン)にどの程度影響を及ぼしているのか調査しました。全身的な副作用を回避できる安全塗布量は、成人でⅡ群(とっても強い)が10g/日以下とされています。大橋病院に入院した21症例の平均使用量はⅡ群(とっても強い)とⅢ群(強い)合わせて12.5g/日と副作用を回避できる安全塗布量を超えています。そこで、入院時と退院時の血清のコルチゾール(副腎から分泌されるホルモン)や血漿のACTH(脳下垂体から分泌され副腎ホルモン分泌を指令するホルモン)値を測定しました。正常人に大量のステロイドを外用すると、血清のコルチゾール値は明らかに低下します。入院により使用したステロイドが、どの程度血清のコルチゾール値を低下させるかを検討いたしました。

ところが予想に反して、入院時のコルチゾール値は平均3.7μg/dlと正常値(4.0~23.2μg/dl)より低く、0.1μg/dl以下と極めて強く副腎機能が抑制されている患者さんはなんと半数以上でした。すなわち、入院前の皮膚状態の悪化に伴い、ステロイド治療をする前に副腎機能が強く抑制されていたのです。入院を要しない軽症例では抑制がかかっていないことから、副腎機能の抑制は重症度に起因するという新事実を見つけました。さらに驚くべきこととして、大量のステロイドを使用したにもかかわらず、退院時のコルチゾール値は11.5μg/dlと正常化しておりました。入院中に皮膚状態を改善するために使用したステロイドの量は、臨床効果とともに漸減し薬効ランクも落とします。このような治療法は内分泌系に及ぼす副作用は認められず、安全性の高いものと言えます。同時に測定したACTH値も同様で、入院時は低く、退院時には正常値の高さに復しておりました。入院療法は皮膚症状を劇的に改善させるばかりではなく、抑制されていた副腎・下垂体機能を大幅に正常化するという画期的なデータでした。この結果はすでに日本皮膚科学会などに発表し好評を博しており、皮膚科学会誌にも掲載されています。

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大橋病院 皮膚科

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