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治療に難渋する尋常性乾癬の治療

—大橋病院皮膚科では積極的に乾癬の治療を行っています—

尋常性乾癬治療の現状と問題点

欧米において乾癬の患者さんは昔から多かったのですが、日本では欧米ほど頻度の高い皮膚病とはいえませんでした。ところが、食生活の欧米化に伴い昭和40年頃から日本でも患者数は増え始め、現在推計ですが約10万人~20万人(約1000人に1人:0.1%)といわれております。好発年齢は20~50歳代で、性別は男性に多いです。乾癬の皮膚症状は、皮膚が赤く盛り上がり銀白色の鱗屑(ふけ)が多量に付着しています。好発部位は頭や肘・膝などのよく擦れる場所ですが、徐々に拡大し紅皮症状態(全身が赤くなり、病変で覆われる)に至る場合もあります。かゆみに関しては個人差があり、軽度から激しいかゆみを訴える人もいます。爪も病変が生じ、白く濁り、表面が凸凹としてきます。このような皮膚症状のほか、関節の痛み、赤み、腫れや変形、ときに発熱や全身倦怠感を訴える場合もあります。
この病気は人にうつる病気ではありませんが、見た目、痒み、関節痛などから、日常生活での支障や精神的ストレスは計り知れず、その程度は癌や心疾患などと同等という報告もあります。最近では、乾癬は全身性の炎症であり、心筋梗塞などの独立した危険因子であるとも指摘されています。

乾癬の原因

皮膚の最外層の表皮の代謝サイクルが短くなり、角化細胞が鱗屑となって剥がれ落ちます。これに炎症が加わり皮膚は赤く盛り上がってきます。正常な表皮細胞は28日サイクルですが、乾癬の場合は4~5日と極めて短く新陳代謝が病的に亢進した状態になっています。乾癬を起こす原因は今のところ完全には解明されておりませんが、遺伝的な要因の有する患者さんに外部からの何らかの要因(感染や精神的ストレス、薬剤など)が加わり、免疫異常が生じ炎症が起きることが判ってきました。
最近、このような炎症を起こす物質がいくつか判明しましたが、そのかなでTNF-αと呼ばれる生体内物質があります。TNF-αは乾癬の病変部に多量に存在し、それ自身が炎症を起こしたり、乾癬炎症を引き起こす樹状細胞を活性化したりします。さらに、IL-23という樹状細胞からヘルパーT細胞活性に作用する炎症性サイトカインやIL-17が乾癬の発症に関与することが判ってきております。

乾癬の治療

乾癬の治療は大きく、4つに分けられます。

1.外用療法

外用療法は乾癬治療の基礎となり、ビタミンD3外用薬とステロイド外用薬が主体となります。これまでは、重ね塗りなどの両者(ビタミンD3外用薬とステロイド外用薬)の併用や、薬局での混合調剤などを行っているケースがありましたが、現在では両者の配合薬が発売され、臨床効果も高く、ともに1日1回の外用で済むことから、患者さんの外用の負担が改善されてきています。当科でも急性期には配合薬を使用し、多くの患者さんで症状の改善を認めております。
1.外用療法

2.光線療法

光線療法の作用機序は、病因となる細胞が取り除かれる(アポトーシスに陥る)点と制御性T細胞の誘導などが考えられています。使用する光線の種類で2つに分類できます。
  • a. UVA(紫外線A波)を使用:
    PUVA療法:ソラレンという紫外線に敏感になる薬剤に長波長紫外線(UVA)照射を組み合わせたものです。ソラレンの使用法で、外用・内服・入浴という種類があります。
  • b. UVB(紫外線B波)を使用:
    UVB療法は、ソラレンなどの薬剤を使わず、中波長紫外線(UVB)照射を行います。311~312 nm Narrow band UVB(NBUVB)や308 nm エキシマライトもUVB療法です。
当科では、narrow band UVBによる治療を主に行っています。外来では週に1~2回、入院では週に5回の照射治療を行います。しかし、当科では小型のNBUVBの機器およびターゲット型の機器のみしかないため、全身に皮疹のある患者さんでは、全身型の機器のある病院へ御紹介させていただく場合もあります。

また、安全性の確保のため、乾癬のPUVA療法ガイドライン(日本乾癬学会PUVA 療法ガイドライン作成小委員会)では絶対禁忌と、相対禁忌が明記されています。
  • 絶対禁忌:
    1)皮膚悪性腫瘍の合併あるいは既往歴のある者、2)高発癌性リスクの(dysplastic nevus syndrome、色素性乾皮症、過去にヒ素の内服や接触歴、放射線照射歴のある者)、3)顕著な光線過敏を有する者(遺伝性光線過敏症、白皮症、ポルフィリン症、光線過敏性膠原病など)、4)妊娠中あるいは授乳中の女性。
  • 相対禁忌:
    1)10歳未満の者、2)光過敏症を有する薬剤、免疫抑制薬を服用中の者、3)白内障、光線増悪性自己免疫性水疱症(天疱瘡・類天疱瘡など)、重篤な肝・腎障害、その他の重篤な疾患を合併する者(ただし内服PUVA)、4)ソラレン過敏症、日光照射・PUVA 治療で乾癬の症状が悪化した既往を持つ者など。

3.内服療法

内服療法としては、免疫抑制作用を有するシクロスポリン(ネオーラル®)や角化異常症治療薬でビタミンA類似物質であるエトレチナート(チガソン®)、免疫調整薬であるアプレミラスト(オテズラ®)などがあります。
  • シクロスポリン:
    高い効果がありますが、血圧上昇や腎臓の障害などの副作用が起きることがあるので、服用中は定期的な検査を行います。
  • エトレチナート:
    皮膚の新陳代謝を調節する働きがあります。高い効果がありますが、皮膚や粘膜に副作用(口唇のかさつき、手足の皮むけなど)を起こすことがあります。また、男女とも服用中に子供ができると奇形が生じる危険があるので注意が必要です(服用前に同意書に記入していただきます)。内服中止後、女性で2年間、男性で6ヶ月間避妊する必要があります。
  • アプレミラスト:
    乾癬治療における世界初の経口ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害剤で、免疫を調整する薬剤です。PDE4はサイクリックAMP (cAMP)に特異的なPDEで、主に炎症性細胞に分布しています。PDE4を阻害することにより細胞内cAMP濃度を上昇させ、IL-17、TNF-α、IL-23及び他の炎症性サイトカインの産生を制御することにより炎症反応を抑制します。副作用として、悪心や下痢、頭痛などが生じる場合がありますが、腎障害は軽度で使用しやすい薬剤です。

4.生物学的製剤による治療

2010年から抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤であるインフリキシマブ(レミケード®)やアダリムマブ(ヒュミラ®)など、既に関節リウマチなどで使用されていた生物学的製剤が、乾癬に対し適用追加があり、その後、2011年抗ヒトIL-12/23 p40モノクローナル抗体製剤のウステキヌマブ(ステラーラ®)、2015年に抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤のセクキヌマブ(コセンティクス®)、2016年に抗ヒトIL-17受容体Aモノクローナル抗体製剤のブロダルマブ(ルミセフ®)と抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤のイキセキズマブ(トルツ®)が承認されています。
最近では2018年に抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体(トレムフィア®)、2019年に抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体(スキリージ®)、ペグヒト化抗ヒトTNFαモノクローナル抗体Fab’断片製剤(シムジア®),2020年に抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体(イルミア®)が承認されています。これらにより、重症乾癬における治療の選択肢が増え、皮疹が全く生じなくなる患者さんも出現しました。
生物学的製剤の適応基準

次に示す16歳以上の成人で、全身療法を考慮する重症例が対象になります。
  1. 尋常性乾癬で、既存の全身療法(光線療法や免疫抑制薬のシクロスポリン、難治性の角化異常症の治療薬のレチノイドの内服など)で十分な効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ患者。
  2. 難治性の皮疹、関節症状又は膿疱を伴う患者。
高い臨床効果の一方、免疫を抑えることによって副作用を生じて細菌性肺炎や肺結核など重篤な感染症の発現が危惧されています。そこで日本皮膚科学会では、“乾癬における生物学的製剤の使用指針および安全対策マニュアル”を作成し、その中では定期的な検査および重篤な合併症に対して迅速に呼吸器内科や放射線医と連携した対応が十分可能な施設で使用されるべきであると、記載されています。
この治療法は現在どこの施設でも行っている訳ではありません。日本皮膚科学会ホームページ(http://www.dermatol.or.jp/index.html)を検索して、生物学的製剤承認施設一覧(2021年2月24日までに全国655施設が承認)を参考にして下さい。私ども大橋病院皮膚科も生物学的製剤承認施設として認定されております。
当科で使用中の薬剤
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まとめ

乾癬は治りにくい慢性の皮膚病です。この病気で悩み、苦しんでいる患者さんは少なくありません。高い改善率のある生物学的製剤の登場により患者さんのQOLは大幅に向上してきました。現在まで重症例に用いられてきた内服薬よりも高い有用性があります。近い将来、生物学的製剤の使用法の整備や低価格化の実現などにより、本剤の注射と局所的にステロイドやビタミンD3外用薬の外用で中等症以上の症例を容易にコントロール出来る時代が訪れる日も遠くないと思います。今後医学は進歩して、さらにバージョンアップした新しい薬剤が開発・発売されることと思います。
大橋病院皮膚科の目指すものは、重症化し難治化している尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬などを早期に改善させ、快適な社会生活を安心して送れる毎日をサポートすることです。積極的な治療介入こそ、悩める乾癬患者の苦しみを取り除き、明るい笑顔をもたらしてくれるものと考えています。
現在の治療に満足出来ていない、今後に不安を抱いている、少しずつ皮膚症状が悪化し治りにくくなっている、病巣部が拡大し隠しきれない、毎日の外用治療に疲弊しているなど、いろいろと悩まれていることと存じます。気軽に当科に御相談にいらして下さい。

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大橋病院 皮膚科

〒153-8515
東京都目黒区大橋2-22-36
TEL:03-3468-1251(代表)