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大腸ステント治療について

大腸ステントとはなんでしょう?

がんの進行で大腸が閉塞すると、腸管内に便や腸液やガスなどがたまってお腹がパンパンに張り、腹痛や吐き気、嘔吐が起きて非常につらい思いをし、放置すれば全身状態が急激に悪化するだけでなく、腸が破裂して命に関わる場合もあります。従来は、こうした患者には緊急手術が行われ、一時的に人工肛門を設けることが一般的でした。しかし、人工肛門は患者さんには非常につらいだけでなく、緊急手術では術後合併症の危険性が高いことや、高齢の患者さんでは手術そのものができない場合もあります。そこで注目されるのが、筒状の金網(これをステントといいます)で閉塞部を押し広げる大腸ステントです。症状を劇的に緩和し、人工肛門を回避して生活の質(QOL)を向上させます。
当科では1993年からこの大腸ステントの開発・普及の研究を始め、2012年には当科の取り組みが評価されてついに保険が適用され、普及への取り組みが始まりました。

実際の大腸ステント

大腸ステントは直径20ミリ程度の筒形をした形状記憶合金の網で、畳むと3mm程度の細いカテーテル(外筒)に収まります。これを内視鏡の挿入部に通して肛門から入れ、閉塞箇所に達したら金網の外側のカテーテルだけを引き抜くと金網が本来の太さに戻ろうとして閉塞部を押し広げます。
実際の大腸ステント1:米国Boston Scientific社製 WallFlex™ Colonic Stent
実際の大腸ステント2:韓国TaeWoongMedical社製Niti-S™ Colonic D-type Stent

ステントの留置に要する時間は約15-20分程度、治療はほとんど無痛に近く、留置後にはすぐに快適には排ガスや排便ができ、食事もすぐに以前と同じになります。
大腸ステントの留置症例:上行結腸癌閉塞に大腸ステントを留置しました。内視鏡観察で狭窄部(癌)にステントが入っています。
腹部単純X線検査でステントの拡張と閉塞の改善を認めています。

なぜ大腸ステントを使用するのか?

閉塞症状は大腸がん患者の約1割程度にみられ、従来は緊急手術で人工肛門の造設を同時に行うことが一般的でした。人工肛門を作るのは、むくんで傷んだ腸管をつなぐと、術後に重篤な合併症である縫合不全(つなぎ目の破綻・ほつれ)を起こしやすいためです。緊急手術では大量の便による手術の汚染や、全身状態の悪い患者さんに過大な負担を強いることで術後の成績は決して良いものではありません。また、人工肛門の閉鎖には、いずれ再度の手術が必要になります。緊急手術以外に「イレウス管」と呼ばれるチューブを鼻や肛門から挿入し、大腸の内容物を排出する方法もありますが、細いイレウス管では液体やガスは出ても固い便は出ず、効果は非常に限定的です。大腸ステントではこうした問題をすべて解決する、患者さんに非常に優しい治療です。がんの切除が可能な患者さんでは、手術前にステントで閉塞症状を解消し、全身状態を改善してから切除に臨めます。また切除ができない患者さんでも人工肛門をほぼ回避でき、早急に通常な生活に戻ることができます。

大腸ステントの安全な普及を

当科では1993年以来、大腸悪性狭窄(癌)への大腸ステント留置を臨床研究として200例以上で実施しており、90%以上の患者さんで閉塞症状の解消に成功しています。転移などで治癒が望めない終末期の患者さんや、高齢で手術に耐えられない患者さんでも、体の負担を避けつつ閉塞症状を改善できる症例も多く、95%程度の成功率を収めています。

しかし、大腸ステントにも注意すべき点があります。まれに、ステントが留置できない症例や臓器に穴が開いてしまう「穿孔」、ずれてしまう「逸脱」が起きることがあり、特に「穿孔」は非常に重篤な合併症になる可能性があります。
2012年の12月には、厚生労働省は食道、胃・十二指腸、大腸のステントについて、国内で計53例の穿孔事例が発生、うち16例が死亡したとして、ステント使用の可否を慎重に検討するよう呼び掛けております。
やはり日本においてまだ新しい手技である大腸ステントを安全に普及されるには、研究や経験に基づいた安全な手技のための技術の習得が重要です。大腸ステントの導入に一番に安全への十分な配慮と、万が一のために外科と内科の協力が欠かせません。

当科では、当科教授の斉田芳久が代表世話人を務める日本消化器内視鏡学会附置/関連研究会「大腸ステント安全手技研究会」(http://colon-stent.com 会員約282人)を通じ、安全な使用法の普及を目指していく考えです。実際に世界で最も多くの症例の集計を全国で行い、日本での大腸ステントの合併症が、世界の報告の中で最も少ない成績との報告をしています。

費用は?

平成30年4月版におけるステント留置術の費用は109,200円(医科診療報酬点数は10,920点(K735-4)、大腸ステントの値段は252,000円(特定保険医療材料:157消化管用ステントセット)です。

適応と適応外(禁忌)は?

現時点での適応は、大腸の悪性狭窄です。それには、大腸癌術後の吻合部再発、転移再発、狭窄症状を伴う切除不能の大腸癌を含めた悪性疾患による狭窄(緩和治療)および、イレウス症状を呈する大腸癌での緊急手術回避目的(術前狭窄解除:BTS: Bridge to Surgery)があります。
禁忌および適応外:良性狭窄、長大または複雑な狭窄・出血や炎症を伴っているもの・肛門縁に近い下部直腸の狭窄は適応外です。どの程度の下部の直腸までを適応とするかは症例の個人差もあり明確ではありませんが、歯状線にSEMS断端がかかると苦痛・疼痛を伴う可能性が高いと思われます。また、回盲部は留置が困難であることがわかっていますので注意が必要です。

大腸ステントを希望される場合には東邦大学医療センター大橋病院の外科外来で、教授:斉田芳久または講師:榎本俊行をご指名ください。
他施設で治療中の患者さんにおかれましてはセカンドオピニオンも受け付けております。

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大橋病院 食道・胃・大腸外科

〒153-8515
東京都目黒区大橋2-22-36
TEL:03-3468-1251(代表)