子宮頸がんとヒトパピローマウイルス(HPV)
ヒトパピローマウイルス(HPV)とはどんなウイルスですか?
ヒトパピローマウイルス(HPV)はヒトにのみ感染するウイルスで、ウイルスによる癌化の原因ウイルスとして知られています。HPVは子宮頸がんや皮膚がんの原因ウイルスとしてだけではなく、口腔癌、咽頭癌、外陰癌、肛門癌などに関わりがあることが報告されています。これらHPVが原因となる癌は、ワクチンによるがんの予防が可能になっており、HPVワクチンはすでに海外では臨床応用され接種されています。
日本においてはHPV 16型と18型に対するワクチンが、2009年10月に承認、2009年12月に発売となりました。
HPVはどのようにして感染するのですか?
HPVの感染は原則としてHPV感染者との性交渉によって起こります。コンドームの使用は感染を予防するためにある程度有効ですが、HPVは手指を介しても感染します。HPVウイルスには100種類以上あることが知られていますが、女性の生殖器関連のHPVは約40種類前後が存在すると言われています。さらにこれら女性生殖器関連のHPVのうち、子宮頸がんとの関連の程度によってハイリスクHPVとローリスクHPVに分類されています。言い換えると子宮頸癌の材料から分離されたHPV16型や18型などが癌に関連が深いタイプであり、一方6型や11型は良性腫瘍である尖圭コンジローマや子宮頸部異形成から検出されます。
しかしHPVの感染は女性にはよく見られるありふれたものであることを知っていただきたいと思います。事実、米国での研究では14歳から59歳のほぼ27%、20~24歳では45%でHPV感染が報告されています。またわが国における検討結果でもHPV感染は7~15%と言う報告があります。これらHPV感染は異形成などの病変を発症する前に大部分は消失することがわかっています。子宮頸部の前がん病変である異形成やがんにまで進展する症例は、HPVのハイリスク型が持続的に検出されることが進展する一因と考えられます。
以上に述べてきたように、ハイリスク型HPVが持続的に感染することは子宮頸癌の危険因子となります。その他にHPVに関する臨床研究の結果、セックスパートナーの数、喫煙、経口避妊薬の服用、他の性行為感染症、慢性炎症、経産回数(お産をした回数)、年齢などがHPV感染にかかわる危険因子として明らかにされています。
HPV検査をするとどんなことがわかるでしょうか?
子宮頸がん検診では、従来細胞診による1次検診が実施されています。しかし国外の報告では細胞診にHPV検査を併用することによって、検診の感度が高くなる、つまり「がんの見逃し」が減ることが明らかにされています。わが国でも同様に細胞診にHPV検査を併用すると検診の感度が高くなることが報告されています。すなわちHPV検査を検診に導入すれば感度はよくなると言えます。
また子宮頸部異形成の患者さんの中で、HPVのハイリスク型が検出される場合は検出されない場合に比べて病変が自然治癒・消失しにくいことが国外の研究で報告されています。またわが国の研究データでも国外と同様の結果がありHPV16,18,31,33,51,52,58型が陽性の症例では病変が消失せず存続しやすかったという結果が示されています。久布白は同様の検討でやはりハイリスク型HPVが陽性であった症例は子宮頸部細胞診の異常が持続しやすかったことを報告しました。
このように子宮頸部異形成でハイリスク型HPVが陽性の場合、病変が持続しやすい傾向があると考えられます。
HPVワクチンのメリットは何でしょうか?
子宮頸癌組織の90%以上でHPVが検出されています。その中でHPV16型と18型はハイリスク型HPVの代表的なものでありほぼ70%を占めると報告されています。現在、世界でHPV16型と18型をターゲットとした2価ワクチンと、HPV6、8、16、18型をターゲットとした4価ワクチンが開発されています。HPVワクチンを接種することによって、HPV16、18型の持続感染と、これらHPVに関連する細胞診異常、子宮頸部中等度~高度異形成、上皮内癌、上皮内腺癌の発症をほぼ100%予防できることが実証されています。HPVワクチンが普及した場合、国外では子宮頸癌の約70%が予防できると期待されています。
米国の予防接種に関する勧告によると、ワクチンの接種方法は2価ワクチン、4価ワクチンいずれも6ヶ月間に3回の接種が必要とされています。接種対象年齢は米国においては、9~26歳ですが、最も推奨されている年齢は11~12歳となっています。なおワクチンはHPVウイルスに対する治療効果はありませんが、HPVが一度感染しそれが消失した後の再感染を防ぐことはできるとされています。
またHPVワクチンを接種しても子宮頸がん検診は従来どおり必ず受ける必要があります。実際WHOをはじめとしてHPVワクチンが承認された国々での勧告では、子宮頸がん検診は今までどおり受けることが強調されています。現行の2価ワクチンと4価ワクチンはHPV16型と18型には有効ですが、その他のハイリスク型HPVの感染を防ぐことはできません。また世界ではHPVワクチンの予防効果は約70%程度と見積もられています。つまりワクチンの予防効果は100%ではないため、子宮頸がん検診はワクチンを受けても必要です。
日本における子宮頸がんとHPVワクチンに関する今後
久布白は、前任の大学において共同研究者らとともに子宮頸がんとHPVや液状処理細胞診に関する研究を行い現在に至っています(2006年、久布白、日本産科婦人科学会学術シンポジウムなど)。その研究では、子宮頸部の異形成患者さんのなかでハイリスク型HPVに持続感染している方は病変が進行・増悪し治療が必要になる症例が多いことを報告してきました。
子宮頸がんは20~30歳代の女性が罹患するがんの中で最も増加しています。またわが国においてもHPV予防ワクチンが発売されました。こういったことから、今日子宮頸がんは「予防できるがん」として婦人科の癌のなかで最も注目を集めているといっても過言ではありません。
今後、HPV予防ワクチンの導入・普及には産婦人科医だけでなく、小児科医との連携が必要と考えられます。一方10歳代前半の女性はもちろんのこと、その親に対して子宮頸がんとHPVに関する正しい知識の啓発が急務と言えます。子宮頸がん検診の結果、異常なしであった方も子宮頸がんやHPVについて詳しく知りたい方は、ぜひ産婦人科外来で担当医にお尋ねください。そしてわが国における子宮頸がんの診療とHPVワクチンについてぜひ知って頂きたいと思います。
HPVワクチン接種外来について
当科では平成22年4月より、子宮頸がん予防ワクチン(2価ワクチン)の接種外来を設置、開始いたしました。子宮頸がん予防ワクチンは初回および、その1ヶ月後と6ヶ月後の合計3回の接種を行います。3回接種しないと十分な予防効果が得られません。子宮頸がん予防ワクチンの接種対象者は10歳以上の女性となっておりますが、当院産婦人科での接種対象者は中学卒業後の女性となります。なお、中学就学中までは小児科での対応となりますので、当院小児科外来にお問い合わせ下さい。
東邦大学医療センター大橋病院小児科
当科では、原則として子宮頸がん検査の結果が問題ないことを確認した上で、子宮頸がん予防ワクチン接種外来の予約を行っています。子宮頸がん予防ワクチンに関する説明書を外来にてお渡ししますので内容を良くお読みください。
会社の健診やかかりつけの医院、病院などで1年以内に子宮頸がん検査を受診し、その結果などをお持ちであればご持参下さい。1年以内に子宮頸がん検査を受けていない方、および、他院での検査結果をお持ちでない方は、当院にて子宮頸がん検査を施行いたします。
子宮頸がん検査の結果が問題ないことを確認した後に、医師が1回目のワクチン接種外来の予約を行います。ワクチン接種外来は毎月第一・第三・第五木曜日の午後3時から午後4時までとさせていただきます。それ以外の日時でのワクチン接種外来の予約・ワクチン接種は行っておりません。ワクチン接種外来を予約する際に、予診表をお渡しいたします。予約後の変更に関しましては電話での応対をしておりませんのでご了承くださいますようお願い致します。なお、患者様のご希望に応じてHPV検査を受けることも可能です。
ワクチン接種の当日は、ご記入いただいた予診表を医師が確認し、問題のないことを確認した上で接種を行います。ワクチンは筋肉内注射による接種です。接種後30分は患者様の状態を把握するため、産婦人科外来の近くにてお過ごしいただきます。特に異常な症状を認めなければ、終了となります。初回の接種を行った際に、1ヶ月後、6ヶ月後のワクチン接種外来の予約を行います。ワクチン接種による副反応は説明書に記載されておりますので、記載されているような症状が強く出現した場合などには当科までお問い合わせ下さい。2回目および3回目の接種の流れは、1回目のワクチン接種外来と同様です。接種費用は1回19,000円となります。長期に渡る予約が必要となりますので、あらかじめ日程をよく調整いただけましたら幸いです。