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心電図講座 その1

ここでは、検査内容についてもっと詳しく知りたい患者さま、および医療従事者の入門編として、生理機能検査の中でもっともポピュラーな「心電図」について説明したいと思います。なるべく解りやすく、かみ砕いて話していこうと思っていますのでよろしくお願いします。まずはじめに『心電図とはなにか?』という話から始めてみましょう。

ご存じのように心臓は、生体のポンプとして一生休むことなく収縮・拡張という活動を続けていますが、これは『心臓の機械的活動』といわれるものです。この『心臓の機械的活動』を引き起こす源になる活動があります。それは『心臓の電気的活動』とよばれるもので、心電図とはこの電気的活動を記録したものなのです。
ここで心臓を生体の電池だと考えてみてください。電池には放電(興奮状態)と充電(回復状態)というものがあり、これらの現象を機械的に波形に表したのが心電図であるともいえます。またこの放電(興奮状態)を心電図用語では『脱分極』といい、充電(回復状態)を『再分極』といいます。この言葉はこれから何回もでてくるので覚えておいてくださいね。

心臓の自動性と刺激伝導系

心臓には上記に述べた脱分極と再分極を自動的に繰り返す組織がありこれを心臓の自動能といいますが、このもっとも自動性のある場所が洞結節と呼ばれるもので、正常な心臓の興奮はここから始まるのです。そして洞結節に始まった興奮を心臓全体に伝えていく主な役割を担うものが刺激伝導系(刺激伝導繊維)とよばれているものです。刺激伝導系は『洞結節→心房内伝導繊維→房室結節→ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ繊維』の順で刺激が伝わっていきます。心電図とはこの刺激伝導系による心臓の興奮過程を波として表したものなのです。

図1は心臓と刺激伝導系、および心電図波形の関係を表したものです。つまりP波は心房の興奮(脱分極)過程を、QRS群は心室中隔と左右心室筋の興奮(脱分極)過程を表しており、T波は心室内の電気的回復(再分極)過程を表しているのです。そしてこのT波の後では、心室の活動はみられず、心臓は静止状態にあります。その為、心電図でも波のない直線が描かれます。これを基線と呼んでいます。
脱分極がおきると心臓は機械的活動として収縮を始めます。すなわちP波が出た後心房は収縮し始め、QRS群の終末点では心室が収縮し始めます。
図1

なぜ12誘導心電図なのか

心電図を記録する際、通常は12誘導心電図というものを記録するものなのですが、なぜ12通りもの誘導が必要なのでしょうか。これは一言で言えば、いままで述べてきたような心臓の電気的活動は平面的な活動ではなく立体的な活動であり、それをできるだけ正確に知るために異なる部位でいくつもの心電図をとるのだ、ということなのです。人間の体は電気の良導体ですから、体表面のどこででも心臓の電気的変化は測れます。また、心臓の電気的活勤をいろいろな方向から眺めたものを記録し、その全体を観察することによって心臓の電気的活動を立体的なものとして知ることができるというわけです。

12誘導心電図は、ご存知のように標準肢誘導(双極肢誘導:3誘導、単極肢誘導:3誘導)、胸部誘導(単極誘導:6誘導)に別れています。各誘導が心臓に対して、どういった方向で電位を見ているかを以下に示します。(図2参照)
図2

標準肢誘導

双極肢誘導

I誘導:左手と右手の電位差
II誘導:左足と右手の電位差
III誘導:左足と左手の電位差

単極肢誘導

aVR :
右肩の方向から興奮が心臓の電気的中心より近づいたり、遠ざかってゆくのを記録している

aVL :
左肩の方向から興奮が心臓の電気的中心より近づいたり、遠ざかってゆくのを記録している

aVF :
横隔膜の方向から興奮が心臓の電気的中心より近づいたり、遠ざかってゆくのを記録している

胸部誘導(V1~V6)

胸部誘導は心臓の電気的変化を水平面に投影し記録したものです。図3に心臓の水平断面図と各胸部誘導の電極位置、および心電図波形を示します。
図3
さてここで、心電図をとる際によく聞かれる疑問点についてちょっと説明しておきましょう。それは『電極を患者さまの手や足につけただけで、心臓の電気的変化がなぜ分かるのか』ということです。心臓は胸部の中央にあり手足につけられた電極とはかなり離れていますね。しかし、人間の体というのは電気の良導体ですから、体表面のどこに電極を置いても心臓の上に電極を置いたときと同様に心臓の電気的変化を感じることができるのです(心臓の電気的中心から15cm離れていれば電極はどこにおいてもよいことになります)。つまり右手電極とは心臓に対して、右上方向、左手電極とは心臓に対して左上方向、左足電極とは心臓に対して下方向についている電極と思ってください。そして図2からもわかるように標準肢誘導とは心臓を取り囲むようにして電気的変化を見ているものであり、この取り囲む三角形をアイントーフェンの三角形といいます。
図4
また、これもかなり基本的なことですが図4からわかるように、心臓の位置というのは胸郭のほぼ中央よりやや左寄りに位置しており、心臓の長軸は水平面に対して約50°の角度をもって傾いています。また、右室は体に対し、前面にあり、左室は後面にあるのが図3でもおわかりになると思います。
こうして得られた標準12誘導心電図の正常波形を図5に示します。
以上のように心電図を構成する基本的事項について、話してきましたが、少しは為になったでしょうか、『わかりづらいな』と思った方や興味ある方はお気軽に心電図室に寄ってみてください。
図5 正常心電図

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