
室長 我妻 賢司
わが国では食生活の欧米化により狭心症、心筋梗塞といった動脈硬化が原因となる心臓病は増加の一途をたどっております。我々の仕事はこの狭心症、心筋梗塞をカテーテルという細い管を使って診断し治療することです。これらの検査、治療は極めて専門的な知識と技術を要することから大学病院のような教育機関では施行医がしばしば入れ替わり、施設全体として高いレベルを維持することが容易でない面がありました。
我々はこの分野に精通する6名の医師(うち5名が固定スタッフ)、専属の臨床工学技士、看護師で構成されており、経験豊富な専門スタッフによる高いレベルの診療を患者様に提供することを心がけております。
当院はわが国において心臓カテーテル検査を最も早い時期から開始した施設のひとつであります。当診療部門の前身である循環器診断センター部長を務められた故矢部喜正元教授が1977年より心臓カテーテル検査を開始し1981年にわが国で先駆的にこのカテーテル治療を始めており既に25年以上の歴史を有しております。
我々の特徴は本来大腿動脈(足の付け根)から行われる検査、治療をほとんどの患者様において橈骨動脈すなわち手首から施行することです。
カテーテル検査あるいは治療を足の付け根から行った場合、患者様は長時間の安静を強いられ、さらに術後大きな血腫(血の塊)ができ場合によっては輸血をしなければならない状態になり得ますが、手首から行えばこれらの懸念がなくなるという利点があります。
1992年にオランダの医師により初めて行われたこの手首からの治療は冠動脈インタ ーベンション治療として特に高度な技術を要することから未だ、世界的に治療の多くは大腿動脈から行われております。わが国は世界の中でも最もこの経橈骨動脈アプローチによる冠動脈インターベンション治療(Trans-Radial
coronary Intervention: TRI)が普及した国のひとつであり、現在全国でカテーテル治療の約4割がTRIで行われていると言われております。このTRIを行う、あるいは行ったことがある施設は現在冠動脈インターベンション治療を行う施設の半数以上あると考えられ、既にめずらしい治療ではないのですが実際は比較的容易な病変の治療に限ってTRIを行う施設が多くを占めております。我々は原則的にどのような複雑病変、重症冠動脈疾患でもこのTRIを行っております。
当院は東京都CCUネットワークに加盟しており急性心筋梗塞に対する緊急心臓カテーテル検査および治療を24時間体制で行っておりますが、この緊急カテーテル治療もその90%がTRIで行っております。緊急時は特に繊細な操作の必要とするTRIが困難であるケースもめずらしくありませんが強力な抗凝固療法により出血性合併症のリスクが高まる緊急カテーテルにおいてTRIを行えれば術後穿刺部出血によるトラブルが回避可能です。
現在の冠動脈治療は薬物溶出ステントの登場により、これまでの大きな問題点であった術後の再狭窄(拡張した病変が数ヶ月の期間の間に再度細くなる現象)がかなり克服された結果、より重症な患者様が外科手術ではなくカテーテル治療を選択される傾向が強くなっております。
しかしこの薬物溶出ステントも冠動脈内の目的病変に正確に留置しなければ全く意味をなしませんし治療に伴う合併症がなくなったわけでもありません。 むしろカテーテル治療の適応拡大がなされた現在、術者、施設にはより高度な技術、設備、安全管理システムが求められております。したがって我々は常に高いレベルの治療を実践できるよう日々研鑽しており、安全で高い手技成功率はもちろんのこと、これらをより患者様にやさしく提供できたらと考えております。