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ヒトヘルペスウイルスと疲労度測定

猛暑の続いた夏が終わり、ようやく秋らしい気候になりましたね。季節の変わり目のこの時期、身体には自覚しているよりも疲労が蓄積しているかもしれません。ところで、疲れが溜まっているとは感じていても、疲労感というのは主観的な感覚による部分が多く、体調を崩してから初めて気づくという人も多いですよね。
最新の検査では、唾液中のあるウイルスの量を測定することによって、疲労度を客観的に見ることができるとされています。ここで測定するウイルスとは、ヘルペスウイルスです。まずは、このウイルスについて簡単にお話したいと思います。
ヒトのヘルペスウイルスは、α、β、γの3グループに大別される8種類が発見されています。ヘルペスと聞くと特別な病気のように思われるかも知れませんが、水ぼうそうの原因も水痘・帯状疱疹ウイルスといってこのうちの一種です。また、日本人では70~80%が単純ヘルペス1型に感染しているとされ、我々にとっては非常に身近なウイルスです。
ヘルペスウイルスの特徴は、初感染増殖後にそのウイルス遺伝子が生涯保持される潜伏感染状態となり、身体の状態によって自律的に再活性化する場合がある事です。子供の頃に水ぼうそうに罹った事がある人が、年を取ってから体調を崩した時に帯状疱疹を発症する場合がこれにあたります。
さて、この身近なウイルスであるヘルペスウイルス、なかでもヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)は、知恵熱と呼ばれる突発性発疹の原因ウイルスであり、ほとんど全ての人が感染歴を有しています。このHHV-6は疲労の蓄積に伴って体の免疫力が低下するなど、宿主が危機的状況に陥ると自律的に再活性化し、他の宿主に乗り移るために、唾液の中に増加していきます。これは、ウイルスが「この身体はもうだめだ!」とあなたの身体に見切りをつけて他の安全な宿主に乗り換えようとしている状況であると考えられています。
この唾液中のウイルス量測定によって、ウイルスに見捨てられるほどの疲れが身体に溜まっているかを知ることができると報告されています。(近藤一博:医学のあゆみ,vol 228;664-668,2009)
HHV-6のウイルス量は、リアルタイムPCR法という検査によって測定されます。この検査は研究用であり健康保険が適用されませんが、検査センターにて測定が可能です。このように、現在では疲労度を、ウイルス量測定という検査で客観的評価する研究が進展しています。こういった研究や検査が注目を浴びるようになった背景には、私たちが様々なストレスにさらされ、より強く疲労を感じるようになったという環境の変化があると考えられます。
疲労は慢性化すると、病気を引き起こす要因になります。忙しい毎日の中ですが、きちんと自分の身体に向き合って疲れを溜め込まないような生活を目指したいですね。

免疫検査室 蒲生夏美