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新薬について

薬を変えたとき、家族が注意すること-減薬・薬を止めたとき-【當間 実名雄】

ひとは誰しも新しいことをするときには不安になるものです。例えば、自分に合っていると自分では思っている薬を、別のものに変えてみようと担当医(主治医)の先生が提案してきたときにも、患者さんは不安を感じるかもしれません。きょうは抗精神病薬の切り替えと、その際注意すべきことについてのお話です。

非定型薬の登場と従来薬からの変更

統合失調症圏の病気の治療には、従来型の「定型抗精神病薬」が1952年のクロルプロマジンの臨床応用以降、長らく用いられてきました。そしていま日本では、1996年のリスペリドンを皮切りにこれまで計6種類の新しいタイプの薬が臨床現場に登場しています。ペロスピロン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、ブロナンセリンです。これらは「非定型抗精神病薬」と呼ばれています。これらは薬効面で従来薬より優れるか少なくとも同等であり、錐体外路系副作用や過鎮静が少ないという点では明らかに好ましいとされています。錐体外路系副作用とは、パーキンソン症状やいろいろな不随意運動/不自然な姿勢で苦痛の元となるものです。
また、非定型抗精神病薬の中には液剤や口腔内崩壊錠などの「飲みやすい」バリエーションもあることから、患者さんにとっても医師にとっても重宝するものです。

いっぽう非定型薬には、体重増加(→肥満)、耐糖能異常(→糖尿病)、高コレステロール血症といった留意点も存在します。糖尿病を発症している方に処方ができるのはリスペリドン、ペロスピロン、アリピプラゾール、ブロナンセリンです。
しかしながら正しく用いればより良い効果を期待できることから、この十年来精神科医たちは積極的に定型薬から非定型薬に変えてゆく努力をしています。それを「切り替え」もしくは「置換(ちかん、おきかえ)」といいます。この際、多剤併用から単剤処方への転機になるという利点もありますし、時代の趨勢といえるでしょう。

切り替えには三通りの方法があります。
  1. 単純に、前薬から非定型薬に一回で全変更する方法(「置換」)
  2. 前薬を徐々に減らしながら同時に非定型薬を開始し徐々に増やしてゆく方法(「漸減漸増」)
  3. 前薬はそのままで非定型薬を徐々に増やす形で追加し、様子を観て前薬を徐々に減らしてゆく方法(「上乗せ漸減」)
患者さん一人ひとりの病状や治療環境にあわせて最適な方法を医師が選択します。

切り替えにともなう要注意点

さて、非定型精神病薬などへの切り替えにはご紹介したような利点がある反面、ご家族も含め、あらかじめ知っておくとよい注意点もあります。安定していたかに見える脳内バランスに少し変化が加えられることになりますから、一時的な不安定が生じるかもしれない、ということです。

これには二種類あります。症状の再燃・増悪と、前薬を減量あるいは中止することによる離脱症状です。「離脱」とは、体が前の薬を忘れられないことから生ずる体の変化、と言い換えても結構です。

まず、精神病症状の悪化・易興奮性の出現ですが、不眠、不安、怒りっぽさ、独語・空笑、思考障害などが、処方変更より少し経ってから生じることがあります。

次に離脱症状ですが、「抗コリン性離脱」や「抗ドーパミン性離脱(スーパーセンスィティヴィティ・サイコーシス)」があげられます。こちらでも前者同様に不眠・不安・不穏/興奮が出現し、症状の再燃・増悪と似て見えますが、脳の中では異なることが起こっているので対応方法とその後の経過が異なります。こちらは薬剤変更の二日以内といった急性の症状出現が多いとされています。

その他には、離脱性の錐体外路症状(アカシジア、ジスキネジア)といった体の症状が出ることがありますが、処方調整によりしだいに軽減すると思われます。

最近では頻度は少ないですが、非定型薬の開始後に急に病識がつき悲観的になったり、社会復帰を急ぎ始める場合があります。不安・焦燥感、多弁・行動活発化、希死念慮がないか、周囲の観察が必要です。入院薬剤調整や心理社会的支援でサポートします。おさまるまで数か月かかることもあります。

家族にできること

いずれの場合でもご家族に求められるのは、どのような状態がいつ(日付で)から出現したかを観察し、メモをとっておきそれを担当医に伝えることです。医師はその情報も考慮しながら病態を判断し、適切な処方内容に調整してゆきます。処方を元に戻すこともあります。定型薬が有効な病状もあるからです。

これらの不安定化を極力避けるため、前述の切り替え方法の中では2の方法がもっともよく用いられます。切り替え方法の2と3は、数週間から数か月かけてゆっくり行います。

日頃から診療は、患者さんと病院にまるっきり任せきりにするのではなく、たまにはご家族も同伴受診し、治療に関する情報を共有することをおすすめします。

強要せずに力をあわせて

患者さんの中には「病気=服薬」なのだから「服薬しない=病気は治った」だ、という独自の論理に基づき服薬を自己中断してしまう方もいらっしゃいます。非定型薬においても、薬の用量・用法・服薬終了時期などは担当医の案内通りにするのが、結局は安定確保への近道です。ご家族が服薬確認を優しくしてあげてください。

人間だれしも新しいことをするには不安や逡巡(しゅんじゅん)がつきものです。心を病んだひとは特にそうかもしれません。患者さんの中には、これまで従来薬を服用してきたけれどもいま一つ状態安定に乏しいと感じられる場合もあるでしょう。
そのようなときには、周囲もいっしょになり患者さんの不安や抵抗を理解し支えてあげながら新しい処方内容に切り替えてゆくという方法もあります。
今日は従来薬から非定型薬への切り替えについてのお話でした。

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