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日本の土壌と文化へのルーツ⑱ 食材の禁忌

 

東邦大学医学部
東洋医学研究室
田中耕一郎

漢方の配合禁忌

歴代の漢方の生薬には、配合禁忌と呼ばれる組み合わせがあり、原則禁じられてきた。十八反(じゅうはちはん)、十九畏(じゅうきゅうい)などと呼ばれている組み合わせがある。毒性が強いものも含まれている。硫黄、狼毒(ろうどく)(ジンチョウゲ科のStellera chamaejasmあるいはトウダイグサ科のEuphorbia fischeriana、E. ebracteolataの根、サトイモ科Alocasia odoraの根茎など)がある。

しかし、甘草との配合として、強力な瀉下薬である大戟、完遂、莞花といったがあり。これらは現在ではあまり使われない生薬であるために臨床上で問題になることは少ないと考えられる。

他に、藜芦(りろ)は、バイケイソウの根茎の生薬がある。催吐作用と意識障害に対する覚醒作用があり、脳血管障害による後遺症、疥癬の殺虫に用いられてきた。藜芦は毒性が強く、また保険適用外であり、臨床で通常用いることはないが、インターネットでは容易に手に入る。そして、藜芦の配合禁忌とされているのが、朝鮮人参、沙参、玄参といった補益作用があり、臨床上頻用される生薬である。また苦参といってこちらも疥癬に用いられる生薬がある。これらは知らずに共に内服してしまう可能性はあるであろう。

とはいえ、臨床上使用せざるを得ない場合もあり、問題ないのではないか?という疑問も呈せられてきた分野である。科学的検証がなされておらず、経験的なものも多いのであるが、食材に関してもそのようなものがあり、非常に参考になるところである。

以下のものは現代医学的には絶対的なものではないが、東洋医学的には経験の中が考えられてきた内容である。

漢方薬内服中の西洋薬の禁忌

漢方薬内服中に、ある西洋薬を飲んでよいかどうか、という質問が多くある。これは十分にすべてが検証されていない。そのため、漢方薬の副作用が出やすい分野において、注意すべき事項となる。甘草は体液を保持する方向に働くために、偽アルドステロン症を発症しやすい。そのため、ナトリウムやカリウムの変動を起こす降圧剤、利尿剤などとの併用が注意となる。甘草は低カリウム血症と生じやすいために、カリウム保持性の利尿剤が逆に配合されることもある。また、間質性肺炎を起こしやすいと報告のある薬剤(抗腫瘍薬、抗リウマチ薬など)が併用されている場合は、小柴胡湯や黄芩の配合された漢方薬を処方しない方がよい。ここで誤解が生じやすいのには、間質性肺炎で漢方薬を使ってはいけないのではないわけではないという点である。非薬剤性の間質性肺炎を漢方薬で治療し、奏功する例もあるため、ここでは薬剤性肺炎の防止という点のみに限定したい。後は肝障害であるが、肝硬変時のインターフェロンと小柴胡湯の併用は間質性肺炎発症のリスクが高く禁忌となっている。

妊娠中の禁忌① 毒性のある鉱物薬

非妊娠時にも慎重に使うべき薬剤はもちろん禁忌となる。今では使われることのない水銀、雄黄(砒素)がまず挙げられている。砒素は致死的な毒性があるが、微量で強壮作用があるとされていた。水銀は肌を白くする化粧として、鉛とともに江戸時代は頻用されていた。また、鉛丹(主成分:四酸化三鉛)は美白以外に鎮静作用があるために、2000年前の傷寒論では、柴胡加竜骨牡蠣湯という精神症状の鎮静の漢方約には配合されていた。現在のエキス製剤の処方として鉛丹は含まれていない。そのため当時の柴胡加竜骨牡蠣湯の精神症状への薬効は現在よりも強かったことが考えられる。

現代医学では、治療薬としては考えにくいものだが、伝統医学では鉱物薬は作用、副作用ともに強く、東西を問わず、頻用されてきた。これらは殺虫作用があり、現在でも外用として用いることは可能ではある。

妊娠中の禁忌② 瀉下薬

他に妊娠中にしないほうがよい漢方処方がある。瀉下薬がその例である。瀉下薬は身体の“気”を下げるために、“胎児も下がる”とされており、妊娠維持には避けた方がよいとされてきた。

しかし、妊娠中は便秘になりがちであり、瀉下薬を使わざるを得ない場合がある。大黄はセンノシドを含む瀉下薬であり、“活血”といい、末梢循環を改善するとされている。出来れば避けた方がよいが、しかし、大黄は、他の強力な瀉下薬に比べ作用は緩和であるため、必要であれば使用可能とされている。

一方、芒硝という鉱物薬は硫酸マグネシウムが主成分であるが、こちらは子宮収縮作用があるとされ、妊娠禁忌となっている。こちらは塩類下剤であり、腸管で吸収されない硫酸イオンが腸管内の浸透圧を上げることで腸管内に水分を集めることで腸蠕動を促すものである。乳汁分泌を止める効果もいわれており、興味深い生薬である。大黄、芒硝を含む生薬には、大承気湯、桃核承気湯、防風通聖散、通導散がある。

妊娠中の禁忌③ 活血薬 血行動態を変化させる?

“活血”という概念が東洋医学にはあり、瘀血という血流停滞によって生じた病理物質を除き、末梢循環を改善するというものである。特に婦人科領域の月経の諸問題の調整には欠くことのできない生薬群である。妊娠中には子宮の血流を増加させ、子宮収縮を引き起こす可能性があるとされている。よく用いられるものの中では、桃仁、牛膝といった生薬が対象となる。牛車腎気丸、桃核承気湯といった漢方薬がある。

妊娠するためには逆に“活血”薬を非常に頻用する。臨床上は、妊娠が確認された時点でやめれば中止すれば問題はないとされている。体外受精など妊娠に向けての予定がはっきりしている場合は、その前に中止しておくとよいであろう。

妊娠中の禁忌④ 温熱薬

妊娠中は高温期が継続する。妊婦は東洋医学的には身体に“熱”を有するような状態となる。そのため、敢えて身体の熱を鼓舞するような生薬はよほど必要でなければ加えない。附子(トリカブトの根茎)、肉桂などである。しかし、これも相対的なもので体質が冷えが強いに温熱薬を使って妊娠した場合は、高温期を持続させるために使うし必要のある場合がある。妊娠前の体質を考慮して使用するかを検討する。

漢方薬内服中の食材禁忌

食忌(しょくき)として記載があるが、処方した漢方薬の方向性に矛盾しない食生活が求められる。例えば、身体が冷えやすい方(寒証)、また寒い季節には、身体を冷やす性質のある食材を食べない。逆に身体が熱がりな方(熱証)、気が上昇している場合(いらいら、めまい、頭痛など頭部の症状が多く、気逆とも呼ばれる。)は、身体を熱くする性質のある食材(辛いもの、脂っこいもの)を食べないことが必要である。

湿疹などの皮膚疾患には、伝統的に魚類、特に海老、蟹、酒、辛いものが避けるようにいわれてきた。これは辛いものは一般的に身体に熱を生じやすく、火の漢字二つで出来ている炎症というものを惹起しやすくなるとされてきた。また、皮膚疾患は特に蕁麻疹の場合で例えると急激に出現し、全身に風のように広がり、身体をかき回したかと思うと、また去っていく性質がある。これを東洋医学では“風”と呼んでいて、実際に植物とことなって、生活上運動する動物性の食材がその原因になりやすいと考えられてきた。中でも、海老、蟹という訳である。また、酒もまた身体に熱を生みやすく、血液循環が活発になつために、湿疹のもとになる病因(東洋医学的には“邪”)を全身に拡散してしまうとされていたのである。

食材の禁忌

食べ合わせと言われるもので、中国の元の時代の『飲膳正要』には、「食物相反」という章があり、牛肉と栗などが挙げられている。中国明代の薬物学書である『本草綱目』には、蟹と柿の記載があり、胃腸を冷やし、消化不良を起こすためといわれている。

日本では貝原益軒の『養生訓』では鰻と梅干、天麩羅と西瓜がある。東洋医学では一般的に脂質など消化不良の食材を服用する場合には、芳香のある発散性のあり、胃腸を温める生薬と合わせることで消化を助けることが出来るとされている。芳香があり、辛みにより胃腸を温める作用のある山椒が加えられているのはそのためである。

そのため、梅干は酸味で収斂作用があり、鰻のような油っぽいものを食するときは、山椒とは逆に消化機能を停滞させてしまう。また、西瓜は夏バテ防止の食材である。盛夏で暑気を浴びることで、発汗による体液不足、身体の熱感を取る食材である。西瓜の皮の内側の緑色部分は生薬としても用いる。この生薬の弱点は胃腸を冷やすことである。そのため、油で揚げた天麩羅を食す際に合わせると消化不良を起こしやすくなるというわけである。

また、朝鮮人参(ウコギ科)と大根を食すると、朝鮮人参の薬効が減弱するというのは伝統的に言われているが、科学的検証はされていない。東洋医学的には大根や未消化物を分解する働きがあり、人参の補気(人体のエネルギー不足を補うという概念)作用と拮抗するというものである。

種は異なるセリ科の人参(普段食卓に上がる)は、大根との食べ合わせが言われている。人参中のアスコルビナーゼが大根のビタミンCを破壊してしまうためとされている。

仏教における禁忌

仏教では、殺生を禁ずるために、動物を食することは禁じられたが、香りの強いネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ、タマネギ、タマネギなどユリ科のネギを禁止している。これらは漢方薬であり、身体を強力に温め、強壮作用を発揮するものがある。おそらく仏教では邪念、欲望をかきたてる可能性もあり、禁止されたと考えられる。これはまた別の機会にでも述べたい。

結語

東洋医学的な配合禁忌、妊娠中の禁忌や注意すべき事項、漢方薬内服中の食事の注意、食材同士の食べ合わせと、その東洋医学的な根拠について紹介した。配合禁忌に関しては、通常臨床で用いられる保険内の生薬では問題となることはないと考えられるが、現在はインターネットで自由に生薬が手に入るために、購入時にも生薬に関する配合禁忌が注意喚 起されるべきと考えられる。

東洋医学的には、生薬の薬効を減弱させてしまう組み合わせがあり、臨床上は有用な知識である。

仏教の禁食に関しては、東洋医学的には食材とその強壮作用が関係していると考えられる。

参考文献
1)梁晨千鶴:東方栄養新書,メディカルユーコン,2005

Abstract

Japanese Traditional Herbal Medicines (Kampo) and Everyday Plants: Roots in Japanese Soil and Culture. vol;

Koichiro Tanaka, Toho University School of Medicine, department of Traditional Medicine, 2016

Clinical & Functional Nutriology 2015; ()

Oriental medicine literature states contraindication of certain herbs and has restricted or banned these combinations for the most part. Some of the herbs listed are quite toxic, and others included are roots of Euphorbia fischeriana and E. Ebracteolata, or rhizome of Alocasia odora. I will answer some frequently asked patient inquiries of contraindication with biomedical drugs and Kampo. We will extensively discuss the restrictions during pregnancy, specifically mineral toxins, laxatives, anti-blood stasis medications, and herbs used to counter sensitivity to cold. Another important aspect of contraindication is seen in what foods to avoid during treatment. These range from seasonal cautions; foods to be avoided when trying to preserve body heat in cold weather, to day to day cautions to certain foods for a particular condition. Food combinations to beware of are stated in literature not only for effective treatment but also to avoid getting ill, commonly from indigestion. For example, beef and chestnuts, or crab meat and persimmon. Budhism also lists contraindicative combinations in its literature.
Herbs clinically prescribed are safe in that the contraindicative aspects are well considered, however, the same cannot be said to individual online purchases of herbs, to which strong warning should be given.