肥満外科手術

肥満症・糖尿病に対する「肥満・糖尿病外科手術」について

肥満・糖尿病外科手術担当 大城崇司

手術を希望する患者さんも、初診は当院の糖尿病・内分泌・代謝センターが窓口となります。内科HPもご覧下さい。
2020年2月より内視鏡的胃内バルーン留置術を開始します。

はじめに

ダイエットを成功させるためには「意識して食べる」ことにつきます。自分が何を食べているのか、本当に食べるに足るものなのか、食べたものが自分の体にどのような影響を与えているのかを常に意識することができればダイエットは必ず成功します。
しかしながら、「意識して食べる」ことが、そう簡単な時代ではないことも事実です。不十分な食育環境、飽食の時代、孤食の増加、メンタルの不調を抱える人の増加等々。いずれも「意識して食べる」ことを難しくしています。
「肥満症」は単に太っている状態ではありません。「治療すべき病気」です。治療がうまく行かない場合、さまざまな病気に苦しめられて生活の質が落ちるだけではなく、短命に終わる可能性が高くなります。東邦大学医療センター佐倉病院では、20年以上に渡って、真摯に、チーム医療としてこの問題に取り組んできました。患者さん独りで立ち向かうには困難な病気であることを我々は知っています。肥満症治療の基本は、「食事療法」、「運動療法」、「内科的治療」であることに間違いありませんが、それだけでは不十分な患者さんも多く経験してきました。
我々のチームには、「肥満・糖尿病外科手術」というオプションもあります。「肥満・糖尿病外科手術」は、内科的治療に比べ、長期にわたる減量、メタボ改善効果が高いことがすでに証明されています1)。健康になるために、より多くの減量が必要な方、また、今後健康に生活していくために糖尿病、高血圧、高脂血症、睡眠時無呼吸症候群といったメタボの改善が必要な方に、「肥満・糖尿病外科手術」を提供することができます。我々は「健康な人生」を取り戻したい方を、チーム医療でサポートしています。

肥満・糖尿病外科手術について

わが国では、体重を落とすことを主目的とした肥満手術は、「減量手術」と呼ばれています。胃を小さくし食事摂取量の制限をすることが基本です。また消化吸収する腸管の距離を短くすることにより、栄養吸収を抑制する方法を追加することもあります。
以前は単純に摂食制限と吸収制限によって減量効果が発揮されるものと考えられていましたが、最近では、手術による消化管ホルモン、インクレチン、腸内細菌の変化、ひいては自律神経を介する脳腸相関によって食欲と血糖コントロールができることも分かってきました。つまり減量手術後は、逆に「食べること」によって、ダイエット、血糖コントロールに関して、体の中から「無意識のサポート」を自然に受けることができるようになるわけです。減量に成功するチャンスも大きくなるといえます。
ダイエット、血糖コントロールの観点からみれば、胃や小腸、大腸といった「消化管」は、魅力的な治療ターゲットとして注目されています。現在では「減量手術」から発展して、肥満を伴う糖尿病を手術で改善させる、「糖尿病外科手術」にも注目が集まっています。質の高いエビデンスも集積され、2016年には海外の糖尿病主要関連学会のみならず2)、日本の糖尿病学会3)、日本肥満学会4)でも、ガイドライン上に、「肥満・糖尿病外科手術」が治療オプションとして明記されました。
ちなみに美容形成外科で行われている皮下脂肪吸引・切除は「肥満・糖尿病外科手術」ではありません。肥満症患者さんにとって、適切な体重コントロールを伴わない皮下脂肪吸引・切除は、健康を害する恐れもありますので注意が必要です。

肥満・糖尿病外科手術の歴史

「肥満・糖尿病外科手術」は、60年以上の歴史と実績のある手術で、海外では年間50万件以上行われています。マラドーナやKONISHIKIさんも胃バイパス術を受けていますし、最近ではマライア・キャリーさんがスリーブ状胃切除術を受けています。日本では1981年に故 川村功先生(千葉大学)により開腹減量手術が開始され、2002年からは笠間和典先生(現 四谷メディカルキューブ)により完全腹腔鏡下手術が開始されました。現在では全国約20施設の病院で、年間300件程度、「肥満・糖尿病外科手術」が行われています。当院では2010年7月より「肥満・糖尿病外科手術」を開始し、2018年9月までに、110例の肥満症患者さんに手術を行ってきました。

手術の安全性について

日本内視鏡下肥満・糖尿病外科研究会からの報告によれば、日本で行われている「肥満・糖尿病外科手術」の手術関連死亡率は0.1%です。この数字は、手術件数の多い海外での死亡率(0.5%)に比べても低い数字です。この数字を高いと思う方もいると思いますが、数多く行われている胆嚢摘出術、子宮摘出術後の死亡率に比べても低い数字です。わが国で行われている「肥満・糖尿病外科手術」の死亡率が低いのは、内科を中心とした「肥満症治療チーム」による術前の全身評価、減量、糖尿病などの合併症治療が奏功していることに加え、日本の外科医の周到な準備も大いに貢献していると考えています。尚、当院は日本肥満症治療学会から承認された「肥満外科手術認定施設」でもあります。
もし手術を必要とする肥満症患者さんが、手術を受けられなかった場合には、長期的にみれば脳卒中、心臓病、腎不全、癌などによって多くの方が命を奪われることになるでしょう。「肥満・糖尿病外科手術」後には、5年後の死亡率を89%も減少させることができたとする報告もあります5)。
手術は決して最終手段ではありません。あらゆる内科的な治療法を試した後では、「時すでに遅し」になりかねません。手術を受けるタイミングは非常に重要ですから、手遅れにならぬように担当医師と相談してください。

手術適応

当院においては基本的に、日本肥満症治療学会のガイドライン(2013年版)の手術適応を採用しています。
手術適応となる肥満症患者は年齢が18歳から65歳までの原発性(一次性)肥満であり、内科的治療を受けても十分な効果が得られず、次のいずれかの条件を満たすもの。
  1. 減量が主目的の手術(減量手術)適応は、BMI35以上であること。
  2. 併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症、肝機能障害、睡眠時無呼吸症候群など)治療が主目的の手術適応は、BMI32以上であること。
ただし、保険診療による「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」を受ける場合は、BMI35以上であることに加え、糖尿病もしくは高脂血症もしくは高血圧もしくは睡眠時無呼吸症候群を持病に持っていることが条件となります。また先進医療による腹腔鏡下スリーブバイパス術を受ける場合は、内科的治療抵抗性の糖尿病を合併する重症肥満症(BMI35以上)であることが条件となります。

手術術式

現在日本で行われている主な手術は次の4つです。
摂取制限の①スリーブ状胃切除と②胃バンディング。
摂取制限と吸収制限を組み合わせた③胃バイパス術と④スリーブバイパス術。
*いわゆる「バイパス系」と呼ばれる手術
当院では胃バンディングを除く、3つの手術の中から、肥満症患者さんの問題を解決する最善の術式を提案しています。

各術式について

どの手術も効果があることは分かっていますが、それぞれ特徴と短所がありますので、個人の問題点(落とすべき体重、糖尿病の有無、胃癌のリスクであるピロリ菌の有無など)やライフスタイルを考慮した術式選択を行う必要があります。

スリーブ状胃切除術

スリーブ状胃切除術
特徴
  • 胃をバナナの様に細くします(残る胃の容量は100ml程度)
  • 食事摂取の制限による体重減少が期待できます
  • グレリン(食欲を刺激するホルモン)が減少します
  • 糖尿病の改善も期待できます
  • 国内のみならず海外でも最も行われています
  • 2018年9月現在、日本では保険診療で受けられる唯一の肥満・糖尿病外科手術です
問題点
  • BMI50以上、糖尿病歴の長い方など、条件によっては、体重減少効果、糖尿病改善率はバイパス系手術に比べると劣ることがあります
  • シンプルな手術ですが、合併症が起きた際には治りづらいことがあります(縫合不全、胃管狭窄、逆流性食道炎など)
  • 手術前から食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎のある方は、術後に悪化することがあるためスリーブ状胃切除術を受けられないこともあります

胃バイパス術

胃バイパス術
特徴
  • 摂食制限と吸収制限による体重減少が期待できます
  • 歴史が長く、長期成績がでています
  • 糖尿病の改善率も高く、再発率も低いと言われています
問題点
  • 吻合を伴うためスリーブ状胃切除術に比べて煩雑な手術になります
  • 術後は空置胃の観察(内視鏡検査)がしづらくなります。胃がんのリスクがある方(ピロリ菌陽性、慢性胃炎、家族歴など)には勧められません
  • 栄養障害の可能性は低いと考えていますが術後は原則サプリメント摂取を必須としています

スリーブバイパス術(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術および十二指腸空腸バイパス術)

スリーブバイパス術
特徴
  • 摂食制限と吸収制限による体重減少が期待できます
  • 胃バイパスと似た効果があります(体重減少、糖尿病改善)
  • 術後も通常の胃内視鏡で胃の観察ができます(胃バイパス術の欠点を補う手術です)
  • 2018年9月より当院では先進医療として手術を受けることができます。
問題点
  • 3つの手術の中で最も難易度が高い手術となります
  • 皮下脂肪が厚く、内臓脂肪が極端に多い場合には、2回に分けて手術を行うこともあります
  • 栄養障害の可能性は低いと考えていますが術後は原則サプリメント摂取を必須としています

修正手術について

「肥満・糖尿病外科手術」は治療効果の高い治療法ですが、十分な体重減少が得られない方、リバウンドする方、また十分な糖尿病改善効果が得られない方もいらっしゃいます。特にスリーブ単独の手術の場合、①バイパス系の手術に比べて体重がリバウンドしやすく、②糖尿病の治癒率が低く、③一旦改善した糖尿病でも再度悪化する可能性が高いという患者さんの特徴も分かってきています。その原因としてはスリーブ状胃切除術後の患者さんの食事、運動などの生活習慣の改善が十分ではないという問題があります。しかし上部空腸をバイパスする手術を改めて行うことにより(スリーブ状胃切除術からバイパス系の手術に変更する)、初回手術の問題点を改善させ、再び長期間にわたる減量の維持、糖尿病改善のチャンスを得ることもできます。これは「修正手術」と呼ばれ、初回手術後1年を目途に行われることが多く、海外では数多く行われていますが、国内では当院を含め数施設でのみ実施できる手術となっています。

開腹手術と腹腔鏡手術について

当院では保険診療として開腹での「肥満・糖尿病外科手術」を2012年まで行っていましたが、合併症を多く経験したため、現在では開腹手術で行うことはありません。全例、腹腔鏡手術で行います。「キズが小さく、美容的によい」という以外に、「術野がよく見える」という安全面でも大きなメリットがあります。

手術費用について

2018年9月現在、保険診療で受けられる腹腔鏡下手術は、「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」のみです。
その他の腹腔鏡下胃バイパス術、スリーブバイパス術、修正手術は自費診療となります。
  • 保険診療の腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の概算費用は外来受診時にお尋ねください。
  • 腹腔鏡下スリーブバイパス術(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術および十二指腸空腸バイパス術)は、2018年9月より当院でも先進医療として受けていただけます。先進医療に係る費用は税込715,785円となります。その他、入院費(ICU管理費込)、麻酔代、検査費、薬代(手術に関する薬のみ)、食事代は保険診療となります。概算費用は外来受診時にお尋ねください。
  • 自費診療の腹腔鏡下胃バイパス術は175万円、腹腔鏡下修正手術は150万円(税込み)となります(2018年11月現在)。
  • 自費診療の費用には、手術代、麻酔代、入院費(ICU管理費込)、検査費、個室代、食事代、薬代(手術に関する薬のみ)、手術入院期間中の術後合併症治療費が含まれます。
  • 担当医師が問題ないと判断すれば、術後は最長でも7日目までに退院となります(保険診療、先進医療、自費診療ともに)。
  • 自費診療入院中は減量手術治療に直接関連しない病気の他科受診については行えません(混合診療の禁止)。
  • 保険診療、先進医療での入院の際にも個室対応は可能ですが、別途費用がかかります。

手術を受けるには

  1. まずは内科、メンタルの介入による肥満症治療を、最低6か月程度は外来ベースで受けていただきます(肥満症治療コーディネーター、理学療法士、栄養士によるサポートもあります)。
  2. 内科・外科の診療責任医が、「手術の適応がある」と、とりあえずの判断をすれば2週間程度の内科教育入院をしていただき、手術が可能かどうかの全身検査を行います。同時に、手術リスク軽減のための集中的な減量や肥満関連の合併症治療などを行います。
  3. 最終的には、内科医、外科医、精神科医、臨床心理士、看護師、理学療法士、栄養士からなる肥満症治療チームによりオベシティカンファレンス(肥満カンファレンス)が開かれ、「手術適応」について、全スタッフの同意で決定します。

手術をお断りする方

楽して痩せたいと思っている方、(最低)半年間の治療プログラムを許容できない方、医療者と信頼関係が築けない方、喫煙者(喫煙が発覚した場合には、直前であっても手術を中止し、今後手術をお受けしません)、術後定期フォローを約束できない方、肥満症治療チームにより不適と判断された方については手術をお受けすることができません。

当院で手術をうけるメリット

さまざまな職種(医師、看護師、栄養士、理学療法士、臨床心理士、薬剤師、肥満コーディネーター)から構成される肥満症治療チームにより術前からサポートを受けることができます。「肥満・糖尿病外科手術」だけで肥満症の治療が完結することはありません。ダイエットの成功を継続させられるかどうかは、チームによるサポートが受けられるかどうかにかかってきます。我々には肥満症治療の歴史と経験があり、日本でも有数の肥満症治療チームであると自負しています。
また大学病院として、麻酔科、循環器科、呼吸器科、放射線科、メンタルによるバックアップ体制も常時整っているため、周術期の管理についても万全の体制で臨める環境にあります。
当院は日本肥満症治療学会から承認された「肥満外科手術認定施設」でもあります。

手術入院時のスケジュール

手術入院時のスケジュール
手術は原則月曜日の午前中に行います。手術当日は慎重に術後経過をみるためにICUで管理します。翌朝には一般病棟へ戻り、食事が開始となります。基本的には手術後1週間までに退院となります。

東邦大学医療センターの手術実績

東邦大学医療センターの手術実績 144例(2019年12月末現在)
開腹スリーブ状胃切除術 7例
開腹胃バイパス術 5例
開腹スリーブバイパス術 2例
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術 109例
腹腔鏡下胃バイパス術 3例
腹腔鏡下スリーブバイパス術 18例(二期手術2例を含む)

手術成績

当院のみでは手術症例数が少ないため、我々も参加した多施設共同研究6)から得られた、日本人に対する肥満・糖尿病外科手術後の成績を示すとともに、現在までに得られている知見を踏まえて解説を加えます。

体重減少効果について

体重減少効果について
Haruta et el. Long-Term Outcomes of Bariatric and Metabolic Surgery in Japan:
  Results of a Multi-Institutional Survey. Obes Surg. 2017 Mar;27(3):754-762.
「総体重減少率」とは術前体重に対する術後体重減少の割合を示します。すなわち、手術前の体重の何%が術後に落ちたのかを示しています。
  • どの手術も術後に約30%程度の体重減少が期待できます。
  • 長期的な体重減少維持にはバイパス系手術の方がよいと考えられます。
BMI50以上の肥満、また糖尿病がある方は、スリーブ状胃切除術のみでは術後の体重減少が十分得られないこともあります。またリバウンドする可能性もバイパス系に比べると高いと考えられています7)。

肥満関連合併症(糖尿病、高血圧、脂質異常症)の改善について

肥満関連合併症(糖尿病、高血圧、脂質異常症)の改善について
Haruta et el. Long-Term Outcomes of Bariatric and Metabolic Surgery in Japan:
  Results of a Multi-Institutional Survey. Obes Surg. 2017 Mar;27(3):754-762.
術後の肥満関連合併症(糖尿病、高血圧、脂質異常症)の改善率は高く、成績は良好です。ここでいう改善率は、「投薬がなくとも、血液検査データ、血圧が改善した患者さんの割合」です。内服量が減量でき、データが改善したという患者さんまで含めれば、もっと数字が上がることになります。
表の結果をみると、スリーブバイパス術の成績が悪いように見えますが、より高度の肥満、進行した糖尿病患者さんに対して、この手術が行われることが多いため、結果として改善率が低くなっています。スリーブ状胃切除術では効果が不十分だと判断されている方を対象に、スリーブバイパス術が行われているのが現状です。それでもこのような高い改善率が得られるのは、従来の治療では考えられなかったことです。
もちろん手術後にこのような好成績が得られるのは、術前からの内科的な治療や術後のフォローアップが大きな要因となっていることは言うまでもありません。

手術の合併症について

わが国で最も行われている「スリーブ状胃切除術」の術後3大合併症は、「リーク(縫合不全)」、「胃管狭窄」、「逆流性食道炎」、と言われています。合併症が生じた際には、難治性(非常に治りづらい)になることもあるため、担当する外科医はその治療法にも精通している必要があります。
当院では腹腔鏡手術で「肥満・糖尿病外科手術」を97例に行ってきました(2018年9月現在)。リーク症例は幸いにも経験していません。胃管狭窄については、4例に認め、2例は内視鏡治療で改善し、2例は再手術を必要としました。逆流性食道炎については、術後1年の時点で内視鏡(胃カメラ)で観察すると、程度の差はあるものの、約30%程度の患者さんにおいて悪化を認めていました。逆流性食道炎の治療には胃酸分泌抑制薬の内服が必要となります。内服治療が奏功しない逆流性食道炎に対しては、胃バイパス手術への再手術が必要なこともあります(当院でも2例経験しています)。

当院での「肥満・糖尿病外科手術」を決断する前に必ず読んでください

肥満症、糖尿病の改善のための最適な治療は必ずしも「肥満・糖尿病外科手術」ではありません。糖質制限食を始めとする食事療法が有効な方や、生活習慣の改善、運動療法の継続ができる方は是非その方法で健康を維持してください、それが理想だと思います。しかし、自力での努力が報われない方、また内科のサポートによる治療がどうしてもうまくいかない方に対しては、「肥満・糖尿病外科手術」の門戸はいつでも開いています。

当院での「肥満・糖尿病外科手術」は慎重な術前検査・周術期管理の下に行っているため、手術リスクはかなり低いと考えていますが、ゼロとは言えません。リスクとベネフィットを十分に考えていただく必要があります。

「肥満・糖尿病外科手術」は「魔法の治療」ではありません、あくまで「意識して食べること」を達成するためのきっかけに過ぎません。しかしながら術後でも、「意識して食べること」は容易なことではないことも十分理解しています。我々は「一生涯のお付き合いする」という覚悟を持ってサポートしていますので、術後の定期的な外来通院がお約束できない方は、当院での治療はご遠慮ください。手術後のフォローがなければ高確率でリバウンドをきたすことも強調しておきます。

「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」のみが保険適用な現状では、9割の方がこの術式を希望されます。しかし本来ならば手術法の決定にあたっては、治療費だけで決めるのではなく、自分の健康の問題点を改善させるのに最も適した術式を選択すべきです。
臨床外科 第66巻第8号で「減量手術の経済効果」について報告がされています。手術後は医療費、食費などが削減されるため、月平均43000円程度支出が減るそうです。それ故、手術費用に200万円程度かかったとしても、
  • 5年弱で元が取れる
  • その後は年約48万円の収益(収益年率21%)となる
  • 現在の20年長期国債金利2.1%の10倍、3年国債金利0.21%の100倍になる
すなわち『ローリスク、ハイリターン』の投資先ということになります。海外からのデータでも同様に、3-4年で元がとれるとの報告が多くなされています。何よりも健康な体を手に入れることができれば、その先の人生において大きな財産となるはずです。

保険診療で受けられる「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」が、必ずしも貴方の問題を解決できるかどうかは分かりません。担当医師とよく相談して、後悔のない選択をしてください。

参考文献

  1. N Engl J Med. 2007 Aug 23;357(8):741-52.
  2. Diabetes Care. 2016 Jun;39(6):861-77.
  3. 糖尿病診療ガイドライン2016 P317
  4. 肥満症診療ガイドライン2016 P46
  5. Ann Surg. 2004 Sep;240(3):416-23.
  6. Obes Surg. 2017 Mar;27(3):754-762.
  7. Obes Surg. 2017 Apr 27. doi: 10.1007/s11695-017-2685-7.
  • メディカ出版より「肥満・糖尿病の外科治療」が刊行されています。
肥満症の病態と治療法、外科手術、チーム医療などについて詳細に解説されていますので、医療関係者のみならず、これから肥満症の治療を受けたいと考えている方にも参考になると思います。

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
佐倉病院 消化器外科

〒285-8741
千葉県佐倉市下志津564-1
TEL:043-462-8811(代表)