神経内科

パーキンソン病とパーキンソン症候群(慢性疾患)

正常(左)とパーキンソン病(右)のMIBG心筋シンチグラフィー
正常(左)とパーキンソン病(右)のMIBG心筋シンチグラフィー

概括と症状

パーキンソン病は中高年者に発病し、安静時の一側に目立つ手足の粗大な振戦、小刻み歩行、寡動、筋強剛などを特徴とし、緩徐進行性の代表的な錐体外路系変性疾患です。パーキンソン病の原因はいまだ明かでありませんが、家族性/若年発症例では、アルファ・シニュクレイン蛋白遺伝子、パーキン遺伝子などの異常が注目されています。病理学的には、ニューロメラニンを含有する黒質緻密層、青斑核、迷走神経背側核などの変性、レビー小体が特徴的にみられます。黒質緻密層にはドパミン含有細胞があり、その脱落により寡動、筋強剛、安静時振戦などをきたします。黒質ドパミンニューロンは線条体に結合しており、線条体にはドパミンD1,D2受容体が分布しています。PET(ペット)によるD1,D2受容体画像は、線条体の機能を表し、パーキンソン病では線条体ニューロンの除神経によるD1,D2受容体増加がみられます。黒質ドパミン作動神経の軸索終末では、ドパミントランスポーターが放出されたドパミンの再取り込みを行っています。SPECT(スペクト)によるドパミントランスポーター画像は、黒質からの軸索終末の機能を表し、パーキンソン病では線条体部でのドパミントランスポーターの著明な低下がみられます。パーキンソン病は、運動障害以外の症状(非運動障害)も来たす病気です。非運動障害の中には、神経精神症状(うつ、幻覚、認知症など)、睡眠症状(むずむず足症候群、REM(レム)睡眠関連行動異常[寝言、夜驚症など]、日中過眠など)、感覚症状(痛み、締め付け感など)、および自律神経障害があります。自律神経障害には骨盤臓器障害(過活動膀胱・便秘・ED)、流涎、嚥下障害、胃部不快、起立性低血圧、四肢の冷え、網状皮斑、発汗異常、脂漏性顔貌、体重減少などが含まれます。
パーキンソン症候群という言葉は、パーキンソン病と似ているが異なる病気の集まり、または、パーキンソン病の運動症状、として使われています。パーキンソン症候群の中には、上述の白質型多発性脳梗塞の他に、正常圧水頭症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症(後述)などがあります。正常圧水頭症は、脳室拡大があるのに頭蓋内圧が高くないもので、特発性(高齢者に多い)と2次性(クモ膜下出血後など)に分けられます。前者は白質型多発性脳梗塞との鑑別を要します。頭部MRIで脳室拡大、穹隆部圧排、シルビウス裂開大が特徴的にみられます。正常圧水頭症は、歩行障害、認知症、尿失禁を3主徴とし、髄液シャント(短絡)術により症状が改善する病気です。進行性核上性麻痺は、高齢者に発病し、認知症/注意障害、下方注視麻痺などの核上性眼球運動障害、項部をそらせた姿勢、筋強剛、構音・嚥下障害などを呈します。進行性核上性麻痺の原因は不明ですが、病理学的に、神経細胞体内に神経原性変化を認めます。その病変は中脳・橋の被蓋(背側)、視床下核、黒質、大脳基底核(淡蒼球内節)、小脳歯状核などにみられます。頭部MRI矢状断像で中脳被蓋の萎縮(ハチドリ徴候、皇帝ペンギン徴候)が特徴的にみられます。

検査

パーキンソン病で行うことのある検査を項目ごとに記します。
歩行解析: 歩行障害に対してビデオ歩行解析(モーションキャプチャー)/評価表評価(UPDRS, 病気ごとに評価表があります)を行います。
脳MRI: 脳の形態をしらべます。パーキンソン病の黒質病変は、一般のMRIで異常をとらえることが困難ですが、3T MRIで中脳黒質緻密層(ドパミンニューロン)の変性の描出が試みています。
脳血流SPECT(スペクト): 脳血流の分布を調べます。前頭葉または後頭葉を含めた脳血流の低下を定量的に調べます。
髄液穿刺(ルンバール): パーキンソン病/レヴィー小体型認知症で、アルファ・シニュクレイン蛋白を測定し、診断に役立てる試みを行っています。ただしその測定は非常に日数を要するため、入院中に結果をお伝えすることができません。
遺伝子検査: 家族性・若年性パーキンソン病その他の病気で、末梢血をもちいて遺伝子を調べます。ただしその測定は非常に日数を要するため、入院中に結果をお伝えすることができません。
脳波: 脳の全体的機能(またはてんかん性の波の有無)をしらべます。
(誘発電位: SEP(感覚誘発電位)、ABR(聴覚誘発電位)、VEP(視覚誘発電位): それぞれの感覚の神経の通り道の働きをしらべます。神経伝導検査、筋電図: 末梢神経や筋肉の働きをしらべます。パーキンソン病ではあまり行ないません。)
自律神経検査: 嚥下造影検査: むせや飲み込みにくさがないかしらべます。必要時、喉頭ファイバースコープ検査が耳鼻科で行われます。
心臓MIBGシンチ: パーキンソン病/レヴィー小体型認知症では、末梢自律神経(心臓交感神経)にも変性をきたし、心臓交感神経の低下が画像上みられます。無症候性のため、心配な検査ではありません。(最近、パーキンソン病で、運動負荷時の心拍出量増加不全が指摘されています。)
キューエルガット(定量的排便機能検査) [QL-GAT]: パーキンソン病/レヴィー小体型認知症では、その病気の一部として、高度便秘がしばしばみられるため、トランジット(カプセルを飲む)・便ラボ(直腸の圧力を測る)を行ないます。
膀胱自律神経検査(ウロラボ): 膀胱の圧力を測る検査です。過活動膀胱(尿もれ、頻尿、排尿困難)のある方に対して行います。
起立性(ヘッドアップティルトテスト)/食後性低血圧検査: レヴィー小体型認知症では、立ちくらみや食事中/食後の失神がときにみられるため、起立負荷/糖分負荷での血圧を連続して測ります。食後性低血圧を細かく調べるため、基準食(ラコール、栄養食品)を摂取することがあります。
末梢自律神経測定(心電図RR間隔・心電図フーリエ解析、ノルアドレナリン測定):立ちくらみのある方の臥位心電図の解析、血液中のノルアドレナリンを測定します。
皮膚温・脈波検査(サーモグラフィー、指尖脈波):冷え、ほてりのある方に行います。
フル・ポリソムノグラフィ検査: いびき(睡眠時無呼吸)・寝言(レム睡眠行動異常)をしらべます。
詳細は、検査前に個別にご説明申し上げます。
ストレス/うつ評価表: ストレス/うつのある方に対して評価表評価を行います。
心理検査: 高次機能をみるためにおこないます。

治療

パーキンソン病は難病ですが、特効薬があります。パーキンソン病治療薬の力価を正確に判定することは難しいですが、エルドパを10とした場合、およそ、受容体刺激薬7、抗コリン薬5、アマンタジン4、ドプス4、トレリーフ4程度と考えられます。力価の穏やかな受容体刺激薬は、長期間の使用により、薬物過量に伴うジスキネジアを来たしにくいとされます。薬物過量に伴う睡眠発作は、受容体刺激薬でやや多くみられます。麦角系の受容体刺激薬は、定期的な心弁膜症のチェックが必要です。薬物過量に伴う嘔気嘔吐、幻覚については、治療薬による差異は十分に明らかでありません。ただし、注意しながら使用すれば、これらの薬物を安全に服薬することができます。
パーキンソン病患者さんで、症状の日内変動(ウェアリングオフといいます、症状が強い時に動けなくなる)・ジスキネジア(体を揺らすような、よけいな動き)がある方に対して、東邦大学医療センター佐倉病院では、深部脳刺激療法(DBS)を行っておりますので、ご相談下さい。
パーキンソン病では認知症/意欲低下、便秘、過活動膀胱、起立性低血圧がみられることがあり、それらに対して抗コリンエステラーゼ薬、セロトニン系便秘薬、過活動膀胱治療薬、起立性低血圧治療薬を投与します。パーキンソン症状に対して運動・作業のリハビリテーションを行います。パーキンソン病、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症は厚生労働省特定疾患(公費負担対象)であり、必要時申請を行います。入院中の方は、入院の後半でお薬を開始し、副作用がないことを注意深く見届けてから、退院・外来通院といたします。その他の症状の治療薬についてもご相談下さい。

付)亜急性・慢性疾患の初回検査入院の流れ

東邦佐倉神経内科では、パーキンソン病その他の変性性神経疾患(慢性疾患)、多発性硬化症・重症筋無力症その他の炎症性神経疾患(亜急性疾患)などの、初回検査入院を勧めています。入院期間は約2週間ですが、疾患の治療によっては、もう少し日数がかかる場合があります。約2週間の入院期間中に、必要な検査を無理なく行ない、診断を明らかにします。その上で適切な薬(特効薬)を開始し、副作用がないことを見届けてから、外来診療につなげます。神経内科の病気は、一般に、長期間の外来通院を必要とします。このため、初期の2週間で治療方針を決定することは、病気療養のうえで意義のあることと考えています。
神経内科の診断には、1)運動の障害(転倒、ふらつき、ふるえなど)、感覚の障害(しびれなど)、高次機能の障害(もの忘れなど)、自律神経の障害(便秘、尿もれなど)などの、さまざまな症状をきたしている、病気の場所を決めること(部位診断: 脳、脊髄、末梢神経、筋肉)と、2)病気の性質を決めること(病理診断: 遺伝子、代謝異常、変性(萎縮)、炎症、血管障害、腫瘍等)の2つがあり、この2つを平行して行ないます。その結果、診断名として、脳血管障害(脳卒中)、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群などが得られます。そのために、病歴聴取と、神経学的診察、各種検査を行います(上述)。そして、治療方針が決定いたします。
検査終了後、または検査と平行して、病気に応じた内服薬/点滴(原因療法)を行ないます。神経内科の病気の中には、変性(萎縮)性疾患のように、原因療法がむずかしいものがあります。その場合も、近年めざましい発展がある、症状の改善薬(対症療法)を、患者さんと相談しながら開始いたします。これらの薬物治療と平行して、神経リハビリテーションを行ないます(現在は入院患者さんのみ)。病気により必要があれば、外科的治療、精神的治療を、神経3科(神経内科・脳外科・メンタルヘルス科)で相談しながらおこないます。
病気の治療開始と平行して、退院にむけての準備を進めます。東邦佐倉神経内科への外来通院以外に、開業医の先生への通院または往診が必要な場合、紹介状/依頼状を用意いたします。年配の方で歩行障害・認知症がある場合、介護保険(市役所が窓口となる)の適応があるため、佐倉病院内の医療ソーシャルワーカーが面談いたします。年齢によらず歩行障害等がある場合、身体障害者手帳「肢体不自由」(市役所が窓口となる)の適応があるため、市役所福祉課から書類をお持ち頂ければ、担当医が書類を作成いたします。パーキンソン病などの厚生労働省特定疾患と診断された方は、特定疾患受給票(保健所が窓口となる)の適応があるため、最寄の保健所から書類をお持ち頂ければ、担当医が書類を作成いたします。