神経内科

自律神経症状

いわゆる自律神経失調症とは

神経内科の症状の中で、自律神経は分かりにくいものの一つではないでしょうか。その理由の一つとして、テレビでしばしば使われる「自律神経失調症」という言葉があります。その内容は、学生さんが学校に行きたくない、会社員の方が会社に行きたくない、頭痛がする、手足がしびれる、などが含まれております。このうち痛み・しびれは、感覚の症状であり、自律神経とは無関係と思われます。学校・会社に行きたくないは、精神の症状であり、自律神経とは無関係と思われます。テレビで言う自律神経失調症は、精神科の病気である神経症(ノイローゼ、最近ではストレスが良く使われます)/うつ病と考えられ、安定剤/抗うつ薬で改善が得られることが多いものです。混同を避けるために、神経内科では「自律神経失調症」の言葉を使いません。神経内科でいう自律神経とは、次項に述べるものです。その障害は、自律神経不全(英語ではオートノミックフェイラー autonomic failure)と申します。
精神科の病気である神経症は、夜寝つけない、気分がすぐれない、仕事が手につかない、いらいらする等の睡眠・気分障害等の他に、半身がきかない・しびれるなどの体性神経症状、目が見えない・耳が聞こえないなどの特殊感覚症状、呼びかけても目をつむっているなどの意識障害、血の気が引く・尿が出ないなどの自律神経症状、食事がのどを通らないなどの摂食症状をきたします。これらを身体表現化障害(ヒステリー型神経症)といいます。身体表現化障害は、こころ(精神科)の病気が、からだ(神経内科・脳外科)の病気をまねて現れているような状態といえ、診察と検査により、神経内科・脳外科の病気を否定することで診断されます。神経症に伴う自律神経症状に対して、後述の検査を行うと、軽度または全く異常がみられないことから、自律神経不全と明確に区別されます。大学病院で脳神経を扱う科は3つあり、神経内科、脳神経外科、メンタルヘルス科(精神科)に分けられます。これら神経3科は、協力して患者様の診療にあたっています。
一方、胃潰瘍などの器質性内臓疾患の一部に、広義のストレスの関与が知られています。一例として、脳卒中の急性期に胃潰瘍が好発いたします(心身症)。これは、脳下垂体からの液性因子(ACTH)放出による血中ステロイド増加を介するとされ、うつ病/神経症でもACTH放出因子(CRF)が増加しています。ところが、自律神経に関わるノルアドレナリンについては、うつ病/神経症で上昇/下降の両方が報告され、一定しておりません。

神経内科での自律神経症状とその鑑別

自律神経症状は多彩であり、特に予後・生活の質に関わる症候として、起立性・食後性・運動後・排尿排便後低血圧(心・循環系)、尿閉・尿失禁・過活動膀胱、イレウス・便秘・便失禁・下痢、勃起障害(ED)(骨盤臓器系)、睡眠時無呼吸・いびき(呼吸器系)、うつ熱・発汗低下・発汗亢進、冷え・ほてり(皮膚系)などがあります。以下に、重要な症状について述べます。

A. 循環不全型めまい: 血の気が引いてふーっとする、立位の場合しゃがみ込みたくなる感じ

神経調節失神(血圧と脈拍が同時に下降するもので、起立時以外にもみられます): 良性疾患で最も頻度が高いものです。冷汗をしばしば伴います。満員電車の車内がむんむんしているとき座位で失神する、学生さんや社会人が朝礼で失神する、ホラー映画を鑑賞中失神する、など。高次中枢の機能異常による交感神経の抑制(または副交感神経の亢進)が推定されており、延髄以下の反射経路が保たれます(ただしノルアドレナリン・トランスポーターの遺伝子異常が近年報告されています)。脱水が一部関わるとされています。
起立性低血圧(血圧下降と同時に脈拍が増加するものですが、進行すると脈拍増加を欠如するようになります): 原因となる病気は、糖尿病性ニューロパチー(血圧下降は一般に軽度で-30 mmHg程度)、レヴィー小体病群(レヴィー小体型認知症/パーキンソン病/純粋自律神経不全症)(血圧下降が高度で-100 mmHgに至ることもあります)、多系統萎縮症(血圧下降が高度)の順に多くみられます。末梢血管を支配する交感神経の機能低下によるもので、病変の場所は、末梢神経、胸髄中間外側核、延髄とさまざまです。延髄より上ではほとんどみられません。びりびりしたしびれを伴う場合糖尿病性ニューロパチー、残尿(排尿した後で残った感じがある)が目立つ場合多系統萎縮症・糖尿病性ニューロパチーを疑います。
心原性失神: 洞不全、発作性心房細動、心筋梗塞などの心臓の病気によるものです。動悸・胸痛をしばしば伴います。心電図、イベントレコーダー, ホルター心電図、心エコーを行います。

付)循環不全型めまいと区別するもの

薬剤: アルファ、ベータ遮断薬その他の高血圧治療薬、抗うつ薬でも、起立性低血圧をきたすことがあります。
てんかん: 常同的で、経過が5分程度のことが多いですが、例外もあり。発作がない時の脳波異常出現率は30%程度と少ないため、脳波だけで診断することができず、目撃者の話が参考になります。
前庭型めまい: 振り返るとふわっ、くらっとするものです。多くは、良性発作性頭位めまい(耳鼻科の病気)であり、良性疾患で最も頻度が高いものです。臥位での頭位変換/寝返り時にもみられ、方向交代性眼振(地面向き)を呈することが典型的です。前庭機能の亢進によるもので、左右差が目立ちません。小脳虫部梗塞、脊髄小脳変性症でも稀にみられることがあります。
脳卒中: 稀な視床前内側核の梗塞, クモ膜下出血で、失神のみをきたすことがありますが、一過性に繰り返す(TIA)ことはありません。脳幹梗塞は、通常、他の神経症状を伴います。
脱水脳症: 年配の方で、急性発症の意識障害、左右差のない歩行障害、時にてんかんをきたすことがあるもので、身体所見・血液検査で脱水がみられます。脳MRIでは白質病変等がみられ、前頭葉血流低下・高振幅徐波がしばしばみられます。点滴により平均4日間で回復する、良性の病気です。

B. 神経因性膀胱: 尿が近い、出にくい

神経内科・脳外科・整形外科の病気により、尿が近くなったり、出にくくなるもので、非常に頻度の高いものです。前頭葉/基底核の病変(前頭葉の腫瘍、大脳白質病変、パーキンソン病など)は、頻尿・尿失禁をきたします。仙髄より末梢の病変(馬尾腫瘍、腰椎症、糖尿病性ニューロパチーなど)は、残尿・尿閉をきたし、しばしば尿意の低下を伴います。頚髄・胸髄の病変(多発性硬化症など)は、頻尿・尿失禁と残尿を同時にきたします。多系統萎縮症も、頚胸髄病変と似た形の排尿障害を呈します。

付)神経因性膀胱と区別するもの

薬剤: かぜ薬、抗うつ薬で尿閉、便秘をきたすことがあります。
前立腺肥大症: 男性にみられます。超音波前立腺計測で、前立腺体積が20ml以上の場合であり、30ml程度から症状が出ることが多いものです。排尿困難・残尿をきたすことが典型的です。圧尿流解析という検査を行うと、閉塞型を呈します。
腹圧性尿失禁: 女性にみられます。日中活動時に、物を持ち上げる、咳などの腹圧動作で尿が漏れるものです。
多尿: 1日尿量3000ml以上(多飲)、または夜間尿が1日量の1/3以上(夜間多尿といいます。軽症心不全や睡眠時無呼吸の場合があります)の場合です。
自律神経症状の中で、起立性低血圧、尿閉・腸閉塞(イレウス)、睡眠時無呼吸は、緊急入院が必要なことがある重要な症状です。また、自律神経症状がきっかけとなり、神経内科の病気の診断に結び付く場合があります。これらには、適切な対処法がありますので、担当医にぜひご相談下さい。

付) 外来・病棟で使用する自律神経症状問診票と排尿日誌です。