神経内科

成人のてんかん

脳MRI画像
脳MRI画像
左:特発性一次性てんかんのMRI (正常。2年前から半年に1回ほど、1回に5分ほど、意識消失と共に全身がけいれんする発作)、右: 二次性てんかんのMRI (脳腫瘍~髄膜腫(矢印)。3年前から年に1回ほど、1回に5分ほど、右手ががくがくと動く発作)。左のMRIが成人のてんかんの95-97%を占める。

概括と症状

てんかんは、麻痺と同様に、神経症状の一つです。麻痺の原因が脳卒中などであるように、てんかんには原因があります。麻痺を例としてみますと、麻痺は、一般に、内科/外科的入院を要する率が高いものです(重症麻痺、元の病気が重く、麻痺を出しているもの)。重症麻痺の頻度は十分に明らかでありませんが、外来麻痺患者さんのおよそ80%を占めると思われます。とくに、体の半身が急にきかなくなった場合は、脳卒中を疑います。入院を要しない軽症麻痺の原因として、単一末梢神経の圧迫性/炎症性障害や、身体表現化障害(ヒステリー型神経症)などがあります。
麻痺と比べて、てんかんは、入院を要する率が低いものです。入院を要する例(元の病気が重く、てんかんを出しているもの、2次性てんかんといいます)は、外来てんかん患者さんのおよそ3-5%を占めると思われます。2次性てんかんは、一般に成人に多くみられます。2次性てんかんの原因として、脳皮質下出血(脳の一側にみられる、てんかんで発症することがある、頭痛・麻痺を伴うこともある、加齢に伴うアミロイドアンギオパチーが多い)、脳腫瘍(脳の一側にみられることが多い、頭痛・麻痺を伴うことがある)、脳炎(発熱、意識障害を伴う)、脊髄小脳変性症(ふらつき、呂律の回らなさ、めまいなどを伴う)、飲酒癖(アルコール性肝障害・認知症・情動障害・しびれなどを伴う)、脳挫傷後遺症(けがの直後よりも、数か月~数年後にてんかんが起こる方が多い)、脳梗塞後遺症(同様)などがあります。すなわち2次性てんかんは、てんかん以外の症状を伴いやすいといえます。ただし2次性てんかんの中でも、脳挫傷後遺症や脳梗塞後遺症では、元の病気がすでに治っており、脳梗塞の再発予防(血液さらさらのお薬など)の他は、元の病気に対する治療が必要でないことが多いものです。脳腫瘍の中の髄膜腫は、良性腫瘍で、進行が極めてゆっくりであり、同様に治療が必要でないことも多いものです。
1次性てんかん(特発性ともいいます)は、てんかんの大多数を占めます。一般人口での罹病率は、0.5-1%とされ(100-200人に1人)、神経症状の中で比較的多いものです。英国の検討(1999年Lancet)では、1000人あたりの患者数は年齢が5–9歳で3.2; 10–14歳で4.1; 65–69歳で6.0; 75–79歳で7.4; 85歳以上で7.8であり、成人てんかん患者の数が多いと報告されています。1次性てんかんは、2次性てんかんと異なり、てんかん以外の症状を通常伴いません。
健常な方に脳波検査を行いますと、安静閉眼時に、後頭葉(頭の後方)を中心に、10ヘルツ(1秒間に10個の波があること、アルファ波といいます)の脳波が頭皮上から記録されます。その波の周期は規則正しく、振幅は大きくなったり小さくなったりを繰り返します。これは、脳の神経細胞が電気活動を行っている(発火するとも言います)ことによる、正常の状態です。これは丁度、心臓の筋肉細胞が電気活動を行っているために、胸の皮膚上から心電図が記録できるのに似ています。
てんかん以外の多くの病気では、脳の電気活動が低下してしまいます。一方、てんかんでは、神経細胞の発火が異常に大きくなっており、そのことにより、本来の正常な運動・感覚・思考・覚醒といった活動がうまく行なえなくなります。これがてんかんの本態と言われています。運動については、機能が高まってしまう、けいれんの形がほとんどですが、感覚、思考、覚醒については、むしろ機能が低下する形になることが少なくありません。脳挫傷や脳梗塞後遺症による2次性てんかんの場合、病気の場所では電気活動が低下していますが、病気の周辺部は刺激され、むしろ電気活動が高まり、てんかんをきたすとも考えられています。MRIでは、この部位に後述のPRESがみられる場合があります。
てんかんは、脳が本来かかわるさまざまな機能が、変調した形で、1回に5分間ほど、急な発作としてきたすもので、以下のような形があります。発作を繰り返す場合、毎回ほぼ同じ形で繰り返す(常同的といいます)ことが典型的です。発作の後は完全に元の状態に戻るのが典型的であり、その点で、比較的良性の症状といえます。発作を1日に3回以上繰り返す場合、または1回の発作が30分以上と長く続き、戻らない場合、重積といい、緊急処置が必要となる場合があります。

運動の発作

意識消失に続いて、眼球が上転し、全身/四肢/体幹の硬直(強直とも言います)に続いて、全身ががくがくとけいれん(痙攣)する(間代性とも言います)ものです(強直間代運動発作/大発作)(陽性症状)。発作に伴って、くちびるを噛んだり、手足が当たって怪我をする場合があります。意識消失がなく、片手だけががくがくしたり(部分運動発作)、ぴくっとする場合もあります(ミオクロニー発作)。
てんかんの場所: 運動野を含む
付)麻痺(陰性症状)が、けいれんに続いて稀にみられることがあります(トッドの麻痺)。1次性てんかんよりも2次性てんかんで時にみられます。30分~1週間ほど続いた後(高齢者でしばしば長くみられます)、完全に消失するのが典型的です。麻痺が初めからみられることはほとんどありません。その機序は十分に解明されていませんが、MRIでは、後述のPRESがみられる場合があります。

感覚の発作

びりびりと高まるしびれ、麻酔をかけられたように鈍くなる、の両者がみられます(部分感覚発作)
てんかんの場所: 感覚野

自律神経の発作

単独でみられることは少ない(部分自律神経発作)ですが、全身けいれんに伴って尿失禁がよくみられます。
てんかんの場所: 視床下部・前頭葉などを推定

記憶/高次機能の発作

自分が遠い世界に引き込まれるような感じに引き続いて、その後の記憶がはっきりしなくなってしまいます(複雑部分発作)。記憶の無い間も、開眼しており、会話をしたり、電車に乗って移動したり、仕事を半ば継続できている場合があります。
てんかんの場所: 側頭葉海馬など

意識の発作

意識消失/昏睡(意識消失発作)、全身痙攣に伴うことが多いですが、単独でみられる場合もあります。数秒間、意識消失と共に全身の力がぬけて転倒するもの(失立発作)、数秒間、転倒することはないが、目がうつろでもうろうとし、呼びかけに応じなくなり、時に両手をまさぐるような動き(自動症)をするもの(欠神発作/小発作)など。
てんかんの場所: 視床や脳全体を推定

1次性てんかんの原因

1次性てんかんの推定原因として、実験的にまた家族歴がある患者さんについて、様々な遺伝子の異常が報告されています。主なものとして、細胞表面の膜にあるNa, K, Caといった塩分のチャネルの異常、同様に細胞表面の膜にある脳内ホルモン(神経伝達物質、特に抑制性のGABA, グリシンなど)の受け皿(受容体)の異常などが良く知られています。これらの一部は、家族歴のない患者さんでも報告されています。1次性てんかんの中で、部分運動発作・部分感覚発作では、皮質形成異常(先天性、若年)などが、複雑部分発作については、海馬異形成(先天性、若年)・海馬硬化(てんかんの結果とも言われます、若年/成人)などがMRIで捉えられることがあります。てんかんに伴った皮質・白質の2次性変化が、MRIで一過性に捉えられることがあります(プレスPRESといいます)。1次性てんかんでは、その他のMRI異常は通常みられません。

てんかんと似た症状と、診断のための検査

てんかんは、医者が外来患者さんの発作を目撃できることがほとんどありません(50人に1人ほど、ビデオ脳波同時記録を含めた院内発症の場合です)。このため、意識障害がない発作の場合は、患者さん自身の経験を細かく伺います。意識障害を伴う発作の場合は、発作の目撃者に同席頂き、発作の様子を細かく伺ったり、発作時のビデオ記録を持参頂いたり、短期間入院して頂き、ビデオ脳波同時記録で発作の様子を細かく観察することにより、診断を致します。
てんかんと鑑別を要する症状として、以下のものが挙げられます。

★めまい(循環不全型)

血の気が引いてふーっとする、立位の場合しゃがみ込みたくなる感じです。高度になると失神し、その際の脳波(後述)は、徐波に続いて平坦化してしまいますが、完全に元に戻ります。原因として以下のものがあります。

神経調節失神(血圧と脈拍が同時に下降するもので、起立時以外にもみられます)

良性疾患で最も頻度が高いものです。冷汗をしばしば伴います。満員電車の車内がむんむんしているとき座位で失神する、学生さんや社会人が朝礼で失神する、ホラー映画を鑑賞中失神する、など。起立試験を行います。

起立性低血圧(血圧下降と同時に脈拍が増加するものですが、進行すると脈拍増加を欠如するようになります)

原因となる病気は、糖尿病性末梢神経障害、レヴィー小体病、多系統萎縮症などです。びりびりしたしびれを伴う場合糖尿病を疑います。アルファ、ベータ遮断薬その他の高血圧治療薬、抗うつ薬でも、起立性低血圧をきたすことがあります。起立試験を行います。

心原性失神

洞不全、発作性心房細動、心筋梗塞などの心臓の病気によるものです。動悸・胸痛をしばしば伴います。心電図、イベントレコーダー, ホルター心電図、心エコーを行います。

★めまい(前庭型)

動くと/振り返るとふわっ、くらっとするものです。脳波異常はありません。原因として以下のものが多くを占めます。

良性発作性頭位めまい

耳鼻科の病気であり、良性疾患で最も頻度が高いものです。両側の前庭・3半規管が過敏になったような状態です。前庭機能検査を行います。

★不随意運動

舞踏病、本態性振戦などの病気で、手足が勝手にゆれたりふるえる場合があります。不随意運動は、てんかんと異なり、出現頻度が一般に多いものです(手をのばすとずっとふるえているなど)。脳波異常はありません。

★過呼吸症候群

ストレスを契機に、両手先がしびれたり、意識が遠のくものです。血液ガス検査で炭酸ガスの低下があるか調べます。下記に合併する場合もあります。てんかん性の脳波異常はみられません。

★ヒステリー型神経症(ヒステリー発作, 心因性発作ともいいます)

神経学的に説明できない手足のがくがく/ばたばた/ふるえ、麻痺、しびれ、目が見えない、耳が聞こえない、意識の障害などをいいます。いらいら、不眠、ストレスなどをしばしば伴います。脳波異常はありません。

付)脳卒中

稀な視床前内側核の梗塞, クモ膜下出血で、失神のみをきたすことがありますが、一過性に繰り返す(TIA)ことはありません。脳幹梗塞は、通常、他の神経症状を伴います。

脳波

成人のてんかんの場合、発作中の脳波は100%異常が出ると考えられています(前頭葉内側面・島回などの深部構造物に由来する場合は、コルチコグラムといって脳外科的に脳表に電極を置いて初めて検出できる場合があります)。発作中の異常脳波には、棘波(きょくは、発作に対応して、背景から際立ったとがった波が、数秒~数分間連続してみられる)、棘徐波(きょくじょは、発作に対応して、1個の棘波と1個のゆっくりした波の組み合わせが、数秒~数分間連続してみられる)、徐波(じょは、発作に対応して、背景から際立ったゆっくりした波が、数秒~数分間連続してみられる)などがあります。振幅は大きいことが多いですが、小さい場合細かく観察して初めて明らかになる場合があります。発作が頻繁にある患者さんの場合、入院して頂き、ビデオ脳波同時記録を行うと、ヒステリー型神経症(ヒステリー発作)では脳波異常がなく、てんかんでは脳波異常が出ることから、両疾患の鑑別に役立ち、てんかんの型別を決めるのに役立ちます。一方、外来での非発作時の脳波は、20-50%程度の検出率であることから、脳波だけでてんかんを診断することができません。

脳血流スペクト

発作中の検査で、てんかん発火に対応した血流の亢進がみられます(一般に発作中の検査を行うことは難しいものです)。

イオマゼニルスペクト・脳糖代謝ペット

海馬異形成・海馬硬化などでは、非発作時の検査で、病変部位でのイオマゼニル(GABA関連物質)の集積低下・糖代謝の低下がみられます。

血液検査

全身痙攣型運動発作の場合、発作後に高度な筋収縮によるCK(筋肉からの逸脱酵素)値の上昇がみられる場合があります。

脳脊髄液検査

脳脊髄液中の、てんかんにかかわるGABA, グリシン, グルタミン酸濃度などを測定する場合があります。

遺伝子検査

家族歴がある患者さんを中心に、末梢血液中の、Na, K, Caなどのチャネル、GABA, グリシン,グルタミン酸などの受容体の遺伝子を調べる場合があります。

生活で気を付ける点と予後

てんかん発作の引き金として、睡眠不足、過労、飲酒、お薬を飲んでいる場合は飲み忘れ、などがあります。全身発作は通常、5分間ほどで自然に収まり、その後で睡眠・短時間のもうろう状態・軽い頭痛などがみられ、その後完全に元に戻ります。危険な場所で倒れた場合は安全な場所に移動させ、周囲の危険物を除き、けいれんによってけがをしないようにします。舌をかまないようにと、口の中に指や物を突っ込みますと、指に怪我をしますし、気道が塞がれますので、そうしてはいけません。食べ物を吐いた場合は、気道が詰まらないように側臥位とします。全身発作は、入浴中、水泳中、道路を歩いている時など、生活の様々な場面で起きることがありますので、万一発作があった場合に備え、周囲の人に自分の病状を伝え、頼んでおくことが勧められます。
初回発作があった成人のてんかんで、未治療の場合、5年以内に2回目がみられる率は35-46%とされます(65歳以上の方では66-90%とされます)。2回目発作の後、1年以内に3回目がみられる率は73%とされます。初回発作後に、治療を開始することによる発作抑制効果は、2回目発作以降に、治療を開始する方と比べて、42%対24%と良かったというもの、39%対32%と差がなかったというものなど、報告によりばらつきがあります。治療開始までの発作回数が少ない方が、発作ゼロになりやすいとされます。これらのことを勘案し、発作が生活の質を低下させ困るものである場合、成人てんかんの初回発作後、再発を防ぐために、治療を開始することがあり得ます(2011年Lancet Neurology)。
薬物治療が始まり、一般に最終発作から2年間経過している場合、さらに脳波異常も軽快している場合、落ち着いていると考えられます。これは本邦での運転免許交付/再開の条件になっています(意識障害や運動発作でない場合は1年間)。一方、この時期は、薬物のゆっくりした減量を開始するタイミングとなる場合があります。減量/投薬終了により再発する率はおよそ36-40%といわれ、2次性てんかん、発作消失期間が2年未満、脳波異常がある、発作型が複雑部分発作の場合、減量が難しい/再発しやすいものです。一方、発作消失期間が2年以上と十分に長く、総発作回数が少ない方では、再発しにくいものです。しかし、薬物の減量中および内服終了から3か月までは、生活に十分注意し、運転などを控えるほうが無難と思われます。

治療

薬物治療

お薬は、1種類から開始し、十分量まで使用して、そのお薬に発作抑制効果があるかどうかを確かめるのが一般的です。充分でない場合は、他剤に変更を試みます。充分でない場合は、2種類以上の併用を試みます。
お薬の作用機序として、脳内ホルモン(神経伝達物質)のうち抑制性のGABA作動性の薬(フェノバルビタール、バルプロ酸、トピラマート、ガバペンなど)、興奮性のグルタミン酸を抑制する薬(ラモトリギンなど)、両者の働きを有する薬(ゾニサミドなど)、その他(SV2Aを介して脳内ホルモンの分泌を調節する薬、レベチラセタム)、などに大きく分けられます。
お薬は、発作型に応じた効きやすい薬が、ある程度明らかにされています。全般てんかん(意識障害を伴う全身けいれん発作、欠神発作、失立発作、ミオクロニー発作など)に対して、バルプロ酸、ゾニサミド、フェノバルビタール、フェニトインなどを使用します。ラモトリギン、トピラマート、レベチラセタムも有効です。ミオクロニー発作にはクロナゼパムなども有効です。部分てんかん(部分運動発作、複雑部分発作など)に対して、カルバマゼピン、ゾニサミド、バルプロ酸、ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマート、ガバペンなどを使用します。
お薬の副作用として、軽度の眠気がみられることがあります。その他の副作用として、フェニトイン(歯肉増殖20%)、カルバマゼピン(白血球減少10%、肝障害)、バルプロ酸(肝障害、高アンモニア血症、少数)、トピラマート(腎結石、少数)、ラモトリギン(アレルギー性皮疹、少数)などがあります。

薬物以外の治療

お薬で発作の抑制が得られにくい難治性の場合、神経内科から脳外科にご相談をし、下記の脳外科的治療を行うと良い場合があります。

■迷走神経刺激療法(VNS)

心臓ペースメーカーと似た装置を皮下に埋め込み、迷走神経を刺激しますと、難治性てんかんの発作減少に有効です。

■焦点切除手術

難治性部分てんかんの場合、発作を引き起こす脳の部位(焦点といいます)を脳外科的に切除しますと、発作減少に有効な場合があります。