神経内科

お酒とからだ~脳神経との関係

脳MRI画像 アルコール性ウェルニッケ脳症(T2強調画像)
脳MRI画像 アルコール性ウェルニッケ脳症(T2強調画像)
中年の男性。以前からお酒が好きで止められず、大量に飲酒した後、意識がもうろうとし昏睡状態に陥りました。救急車で受診時、眼球の麻痺がみられました。入院後、脳MRIで脳幹部(中脳被蓋)に病変あり(矢印)。

はじめに

お酒を少量たしなむことは健康に良いとも言われます。一方お酒の量が相応をこえますと、いろいろな合併症が起きてきます。どのようにお酒と付き合うと良いのでしょうか? ここではまず、お酒とからだについての一般的なお話をし、その後、お酒と脳神経についてご説明致します。

お酒とからだ

お酒は、人類の歴史と共に、その製造と楽しみについての記載がみられます。古代ギリシャ(紀元前8世紀~)では、農業と共にワイン製造が行われ、ギリシャ神話のディオニュソス(ローマ神話のバッカス)はワインの神として知られています。古代ギリシャのシンポジウム(現代のパーティー/酒宴/饗宴、一緒に酒を飲むの意味)では、ワインが楽しまれ、テルモポリウム(現代のレストラン/パブ、料理を供するの意味)では、食事やワインがふるまわれたと言われます。

さて、お酒を飲むと、からだはどのように反応するのでしょうか。
アルコール代謝経路 (アルコール健康医学協会より)
アルコール代謝経路 (アルコール健康医学協会より)

口から入ったアルコール(エタノール)は胃・小腸から吸収され、肝臓で代謝されます。肝臓で、アルコールはアセトアルデヒド(顔面紅潮・吐き気を催す物質)を経て酢酸に分解されます。酢酸は、さらに筋肉・脂肪組織などで水と2酸化炭素に分解されます。一方、摂取されたアルコールの2-10%は、そのままのかたちで血液中を循環し、肺から呼気、腎臓から尿、皮膚から汗として体外に排泄されます。血液中のアルコールが脳に到達しますと、神経細胞にはたらいて、様々な作用をもたらします。この状態が「お酒に酔う」ことといえます。

アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)2は、お酒に強い・弱いにかかわる酵素とされ、このうち487番目のアミノ酸を決める塩基配列の違いにより、GG(お酒が強いタイプ), AG(お酒に弱いタイプ), AA(お酒が飲めないタイプ)の3つの遺伝子多型に分かれます。遺伝子多型は、人種によってタイプが異なり、コーカソイド(白人)・ネグロイド(黒人)は全てGGタイプとされ、AGタイプ・AAタイプはモンゴロイド(日本人を含む黄色人種)にのみ、それぞれ約45%、約5%認められます。
  血中
濃度(%)
酒量 酔いの状態 脳への影響


0.02~
0.04
アルコール20g=
ビール500ml
ワイン180ml
日本酒1合
さわやかな高揚した気分になり陽気になる
食欲が増す
皮膚が赤くなる
一方、判断力が少しにぶる
(ワインやホップの香り[アロマ]には、気分を落ち着かせるリラックス効果も言われます)
軽い酩酊
理性をつかさどる大脳皮質の活動が低下し、抑えられていた大脳辺縁系(本能や感情をつかさどる)の活動が活発になる。

脳への影響





0.05~
0.10
アルコール40g=
ビール1000ml
ワイン360ml
日本酒2合
ほろ酔い気分になる
抑制がとれる(理性が失われる)
体温が上がる
脈が速くなる

上記の表には個人差があり、お酒に弱い人や女性は、早く上記の状態に至ります。さらにアルコール摂取量が増えますと、吐き気を催したり(おう吐中枢の刺激など)、呂律が回らず千鳥足になったり(小脳)、記憶が飛んだり(海馬)、さらには昏睡状態に至り(全脳)、救急車で病院に運ばれる場合もあります。

付)酔いがさめるまでの時間
体重60kgの人がアルコール20gを30分で飲んだ場合、血中濃度が低下するのに3-4時間かかり、アルコール40gの場合、6-7時間かかるとされます。これには個人差があり、お酒に弱い人や女性は、さらに長い時間がかかるとされます。

アルコールの血中濃度と「酒酔い」(アルコール健康医学協会より改変)

「Jカーブ」が描く、飲酒の全死亡率に対する影響

アルコールの血中濃度と「酒酔い」(アルコール健康医学協会より改変)
Lin Y, Kikuchi S, Tamakoshi A et al. Alcohol consumption and mortality among middle-aged and elderly Japanese men and women. Ann Epidemiol 15:590-597, 2005.
お酒は百薬の長とも言われます。これを医学的に示唆する疫学調査結果が、1980年台から報告されています。2005年の欧米人を対象とした14の研究をまとめて解析した(メタ分析)結果では、女性では1日9gまで、男性では1日19gまでの飲酒者の死亡のリスクは、非飲酒者よりも低くなっています。これを「Jカーブ」といい、“適量のお酒は体によい”ことを示唆するものです(厚生労働省ホームページより)。
これを病気別にみると、

「Jカーブ」が描く、飲酒の全死亡率に対する影響

飲酒量と健康リスクが直線関係になる(a)パタ-ンは、高血圧・脳出血・高脂血症(中性脂肪)などで認められます。飲酒量の低いうちはリスクの上昇がなく、飲酒量が多くなると急にリスクが高まる(b)パターンは、肝硬変の特徴です。一方、J字型(Jカーブ)またはU字型(Uカーブ)は、虚血性心疾患・脳梗塞・2型糖尿病、および上述の全死亡率が知られています(厚生労働省ホームページより)。ただし、Jカーブが認められたのは、先進国の中年男女とされ、若年者については直線関係になるという研究結果もあります。さらに、その人のアルコールに対する耐性や、年齢、健康状態によって異なると考えられますので、お酒を飲めば必ず死亡率が下がるわけではありません。また、お酒を飲まない人に、お酒を飲むことを推奨すべきものでは全くありません。

“適量のお酒は体によい”ことのメカニズムは、まだ十分に明らかにされていないようです。アルコールの摂取、飲酒に伴う人付き合いやストレスの解消、経済的余裕など、さまざまな要素が考えられ、今後の解析が待たれます。このうち、赤ワインなどに含まれる、レスベラトロールなどのポリフェノールについては、実験的に有用性が示唆されているようです。


脳神経を除いた、お酒とからだの病気について、以下のものが良く知られています。

アルコール性胃炎

アルコールは胃からも吸収されますが、アルコールそのものが胃の動き(胃排出能)を抑えることが知られています。また強い酒や大量の飲酒をすると、胃粘膜が障害され、胃酸の分泌も促進されます。これらによって、胃炎が引き起こされる可能性があります。アルコールによる胃炎を防ぐには、アルコール度数の強いお酒を控えるようにしたり、できるだけ薄く割って飲む、食事を食べながら飲むと良いといわれます。一方、中等量のワインの摂取により、ピロリ菌感染が減少するとの研究もあり、長期効果についてはまだ結論が出ていないようです。

アルコール性膵炎

慢性膵炎や急性膵炎の多くは、長期にわたる大量の飲酒が原因で起こります。膵炎は、飲酒時などに発作的な腹痛が急に起こるのが特徴です。膵炎は慢性化すると、飲酒をしなくても病気が進行します。

アルコール性肝炎

アルコールが肝臓に悪影響を及ぼす事は、広く知られています。アルコールの90%は肝臓で代謝(無毒化)されるため、アルコールの摂取量が多いと、肝臓にかかる負担が大きくなります。アルコール性肝炎は脂肪肝を引き起こし、最終的には肝硬変につながり、肝細胞がんの誘因となります。病気の早期発見のために、年に1度の健康診断が勧められ、万一肝障害がみられた場合は、飲酒を控える必要があります。

脚気心

大量の長期飲酒が引き金となり、2次的にビタミンB1(チアミン)の欠乏をきたすことによります。亜急性に息切れ、動悸などで発症することが多く、高心拍出性心不全をきたします。

アルコール性心筋症

1日80gのアルコール(エタノール)を5年以上摂取すると発症するといわれ、大量の長期飲酒が引き金となります。慢性の心不全症状(息切れ、むくみなど)の病態として、初期には拡張障害・左室肥大をきたし、進行すると、拡張型心筋症と同様の病態をきたします。

お酒と脳神経

お酒の量が相応をこえますと、中枢と末梢の神経に、いろいろな合併症が起きてきます。以下に、代表的な脳神経の病気を述べます。

アルコール性ウェルニッケ脳症

大量の長期飲酒が引き金となり、2次的にビタミンB1(チアミン)の欠乏をきたすことによります。急性の意識障害と共に、眼球運動の麻痺をきたすのが特徴的です。脳MRIでは、脳幹の中脳水道灰白質、視床内側核などに異常信号の病変がみられます。入院の上、ビタミンB1を点滴補給する必要があります。

アルコール性マルキアファバ・ビニャミ病

大量の長期飲酒が引き金となり、上記のウェルニッケ脳症と同時にきたすことがあります。急性の意識障害・てんかん・認知症などをきたします。脳MRIでは、脳梁(左右の大脳をつなぐ部位)に異常信号の病変がみられます。

アルコール性橋中心髄鞘崩壊

大量の飲酒が引き金となり、2次的にナトリウムの低下をきたし、その急速な補正も影響する病気です。一方、アルコールそのものも、髄鞘障害を引き起こすことが知られています。急性の意識障害と共に、嚥下・構音の障害、運動失調などがみられます。脳MRIでは、脳幹の橋底部に、特徴的な病変がみられます。入院の上、各種治療を行います。

アルコール認知症

アルコールとビタミンB1欠乏等による中枢神経障害は、上記の急性型だけでなく、慢性型として認知症をきたすことが知られています。代表的なものは、物忘れ(健忘症)と共にでまかせ応答・作話をきたすコルサコフ症候群(乳頭体・視床などに病変がみられ、進行例では前頭葉を中心とした全脳に萎縮がみられます)があります。神経障害の機序として、上記の代謝の異常に加えて、炎症、グルタミン酸・ドパミン神経系の変化などが知られています。

長期飲酒例では、アルコールが動脈硬化の危険因子となり、多発性脳梗塞(脳血管性認知症)の誘因となるともいわれます。一方、実験的には、アルコールがアルツハイマー病に拮抗する可能性も報告されており、アルコールとアルツハイマー病との関係についてはまだ結論が出ていないようです(Costin BN,Miles MF. Molecular and neurologic responses to chronic alcohol use. Handb Clin Neurol. 2014;125: 157-171.など)。

認知症全体に対するアルコールの影響について、アメリカでのスウェーデン出身双子12,326名の43年間の追跡調査によりますと、若年・壮年期のお酒の量が相応(12g)をこえると、後年、認知症のリスクが増加することが示されました。その際、上述の虚血性心疾患・脳梗塞・2型糖尿病、全死亡率と同様に、「Jカーブ」の傾向がみられました。ただし、「Jカーブ」についての有意差はなく、メカニズムも明らかにされておりません。現時点で、少量の飲酒が認知症に拮抗するか否かについては、まだ十分に明らかにされていないようです。

飲酒量     なし, 中程度(5–12 g/日), 多い(12–24 g/日), とても多い(>24 g/日)
飲酒量 なし, 中程度(5–12 g/日), 多い(12–24 g/日), とても多い(>24 g/日)
Handing EP, Andel R, Kadlecova P, Gatz M, Pedersen NL. Midlife alcohol consumption and risk of dementia over 43 years of follow-up: a population-based study from the Swedish twin registry. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2015, 70: 1248–1254. 若年・壮年期のお酒の量が相応(12g)をこえると、後年、認知症のリスクが増加する。アメリカでのスウェーデン出身双子12,326名の43年間の追跡調査による。

飲酒の認知症に対する影響.


慢性硬膜下血腫

お酒は転倒の原因として広く知られています。高齢者が飲酒をしますと、転倒・頭部打撲があった場合、1)飲酒の影響で転倒・頭部打撲をしたことを忘れている。2)高齢者は軽度の頭部打撲で、慢性硬膜下血腫をきたしやすい。その結果として、3)頭部打撲のエピソードの1-4週後に、歩行障害・認知症・尿失禁として気づかれる。慢性硬膜下血腫は、高齢者の飲酒の合併症として、注意が必要です。

アルコール性小脳萎縮症

大量の長期飲酒により、歩行時にふらつき、手がゆれて使いにくく、呂律が回らなくなることがあります。禁酒により進行が停止する/軽快する場合、この病気が疑われます。

アルコール性脊髄症(痙性対麻痺)

大量の長期飲酒により、両足が突っ張り、歩きにくくなることがあります。アルコール(エタノール) による作用が示唆される一方、同時にみられる栄養不足により、ナイアシン欠乏(ペラグラ)や、ビタミンB12欠乏(亜急性連合性変性症)を合併することも知られています。禁酒により進行が停止する/軽快する場合、この病気が疑われます。

アルコール性末梢神経障害(ニューロパチー)

大量の長期飲酒により、両足先、両手先がびりびりとしびれたり、歩行時にふらつく場合があります。この状態は、「脚気」(かっけ)として、昔から知られてきました。そのメカニズムは、アルコール(エタノール)による直接作用と、ビタミンB1欠乏が知られています。禁酒と、不足したビタミンB1を薬として補給します。

アルコール依存症

アルコール依存症とは、習慣化している飲酒行動を止めたり、止めようとしたりすると、居ても立ってもいられずイライラしてしまい、常にアルコールを求めようとする状態です(朝から酒を飲むなど)。アルコール依存症の状態になると、本人の意思では克服できないことが少なくありません。
アルコール依存症の治療は、一般に、精神科で行われます。ご家族を含めた環境を整え、必要があれば入院をし、気分のいらいらなどを整えるお薬を使用します。アルコール依存症に特異的な薬として、シアナマイド、ジスルフィラムがあります。これらは、上述の「アルコール → アセトアルデヒド」の過程で生成されるアセトアルデヒドを、蓄積させるように働き、悪心をまねくことにより、お酒が嫌いになる薬といえます。一方、依存症の脳内メカニズムとして、ドパミン神経、グルタミン酸神経等の機能亢進が知られています。アカンプロサートは、グルタミン酸受容体の働きを整えることにより、飲酒の欲求を抑える薬とされています。

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