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東邦大学理学部 生物学科 生体調節学研究室

〒274-8510 千葉県船橋市三山2-2-1 習志野学事部入試広報課 TEL 047-472-0666

研究紹介

 

研究の概要

 当研究室では,両生類を中心に魚類や鳥類,ほ乳類などの脊椎動物,ホヤなどの尾索動物,カイコやエビといった節足動物など,広い動物種を用いて,その細胞や組織,あるいは個体の状態を維持・制御したり感染を防御したりする機構の解明や,神経新生機構の探求,生殖行動など個体間の相互作用の解析など,「生体調節」に関わる研究を行っています。さらに,研究の過程で見つかったペプチドやタンパク質の様々な機能や用途についても解析しています。分子生物学・生化学・生理学・組織学手法など,いろいろなものを駆使して,多角的な解明を行うことを強く意識しています。二人の教員と歴代のたくさんの学生達が,それぞれ相互に協力しつつ,以下のようなテーマを中心にした研究を展開しています。
1.両生類を中心とした生体防御ペプチドの探索とその多機能性の解析
2.細胞外ヒストンの抗菌性並びに細胞毒性と炎症反応に関する解析
3.両生類の変態に関わる諸現象の内分泌学的な解析
4.両生類の生殖活動のホルモン制御機構の解析
5.脳神経新生機構の解析
6.視床下部−下垂体ホルモンの起源の探索
 
 各テーマはそれぞれさらに細かい内容から構成されています。独立性・特異性の高いものもあれば,テーマ間で共有する部分が多いものもあります。大学の研究室は何よりも学生教育の場であるとの考え方から,研究テーマは教員と学生との間でよく話し合い,できるだけ学生の希望に沿う内容や就学環境を考慮して,組み立てています。
 

1.両生類を中心とした生体防御ペプチドの探索とその多機能性の解析

 生体防御ペプチド(host defense peptides)は,病原性微生物の感染から宿主を守るための先天的な生体防御機構の一つであり,細菌から無脊椎動物,脊椎動物,さらには植物にわたる広い生物種に存在します。生体防御ペプチドは,もともとは抗菌活性を有するペプチドとして見つかり,抗菌ペプチド(antimicrobial peptides)と名付けられました。その後,抗菌活性以外にも生体防御に関わる様々な活性が見つかり,生体防御ペプチドの名称の使用が推奨されるようになりました。もちろん「抗菌ペプチド」の名称もまだまだ使用されています。
 生体防御ペプチドの抗菌活性はそのアミノ酸組成と配列に基づく立体構造や総正電荷数に大きく依存しており,細菌類や真菌類,ウィルスなどの病原体に対して広範囲な作用スペクトラムを示すことから,抗生物質に代わる治療薬として高く期待されています。生体防御ペプチドの直接の作用ターゲットは微生物の細胞膜であり,通常は微生物膜に結合することでその電位バランスの安定性を撹乱したり,細胞膜を穿孔・破壊することで,殺菌あるいは抗菌作用を発揮します。なかには細胞膜をそのまま通り抜けて細菌細胞内の核酸などに結合するタイプのペプチドもあります。当研究室では1998年ごろから現在にかけて,この抗菌ペプチド/生体防御ペプチドの研究を精力的に行っています。

⑴遺伝子クローニングに基づく両生類生体防御ペプチドの探索

 両生類の皮膚は生体防御ペプチドによる防御機構が発達しており,個体レベルで多様な抗菌性を有する多様なペプチドが含まれているうえに,種レベルでの多様性や世界各地への広い棲息分布は,ペプチドのアミノ酸配列に多くのバリエーションを生み出しています。そのため,その両生類の皮膚は生体防御ペプチドの極めて有望な単離源となっています。
 両生類の,特にアカガエル科の生体防御ペプチドは,いずれもシグナルペプチド領域・介在配列領域・抗菌ペプチド領域からなる前駆体タンパク質からプロセシングを経て生じます。前駆体タンパク質間でのアミノ酸配列の種間における保存性は,シグナルペプチド領域では極めて高く,介在配列領域ではかなり高いのに対し,生体防御ペプチド領域におけるアミノ酸配列は非常に多様です。この領域の配列の類似性に基づき,生体防御ペプチドはTemporinやBrevininなどにグループ化されています。前駆体タンパク質のアミノ酸配列の特性は当然ながらそのmRNAの塩基配列に基づいています。面白いことに,生体防御ペプチドをコードしている領域の塩基配列はとても多様なのですが(複数の配列が同じペプチドをコードする例もあります),介在配列領域や3′-UTRの塩基配列は各生体防御ペプチドのグループ間で保存的です。当研究室では,この特徴を活かし,両生類の生体防御ペプチド遺伝子のcDNAクローニングを効率的に行なうシークエンスキャプチャー法を開発し,日本国内のアカガエル科を中心に精力的な解析を行っています。
 

⑵植物病原体に対する両生類生体防御ペプチドの抗菌作用

 生体防御ペプチドは植物の病原体にも作用します。上述のシークエンスキャプチャー法で見つけたサドガエルの生体防御ペプチドのなかには,イネ白葉枯病菌,トマトかいよう病菌,イネいもち病菌などに効果を示すものもありました。使用したサドガエルは佐渡島の田んぼで採集したものだったので,サドガエルを田んぼでたくさん飼えばいもち病の予防になるかも知れませんね。

⑶生体防御ペプチドの多機能性の解析

 皮膚以外の器官でも,生体防御ペプチドは遺伝子発現しています。私たちは,ハーダー腺という四肢動物の眼窩にある分泌腺に着目し,この器官を狙い撃ちして,生体防御ペプチドのcDNAをクローニングしました。ここから見つけたCatesbeianalectinというペプチドは抗菌作用こそ微弱でしたが,それ以外にもマスト細胞の刺激作用や抗腫瘍細胞作用,レクチン様作用など,広範囲の生理活性が存在することがわかりました。例えば,スライドガラスに血液を滴下し,Catesbeianalectinの溶液を加えたところ赤血球が凝集して液体の部分が透明となって明確に現れ,グルコースやGlcNAcなど糖を添加するとその凝集が濃度依存的に抑制されることが示され,Catesbeianalectinがレクチン作用を持つことが証明されました。
 このほかにも両生類の生体防御ペプチドが有する様々な活性が報告されています。当研究室でも,創傷治癒作用やエンドトキシン依存的なサイトカインの遺伝子発現を抑制する作用,抗酸化作用,エンドトキシン結合・中和作用などを検出する系を作製し,当研究室で見つけたペプチドについて,これらの作用の有無を検証しているところです。
 エンドトキシンと生体防御ペプチドの結合を検出するため,当研究室でELEBA法というのを開発しました。これは,Enzyme-Linked Endotoxin Binding Assay法の略で,言ってみればELISA法の変法で,生体防御ペプチドをマイクロプレートに固相化し,ビオチン標識したエンドトキシンを加え,ストレプトアビジン標識したペルオキシダーゼ(HRP)と反応させた後,発色試薬を加えるものです。この方法はリポ多糖にもリポテイコ酸にも応用でき,また検出感度も定量性も高い,なかなかの優れものです。

2.細胞外ヒストンの抗菌性並びに細胞毒性と炎症反応に関する解析

⑴抗菌性ヒストンH2Bの発見と作用機序の解析

 両生類の生体防御ペプチドの研究はアメリカのCreighton UniversityのJohn Michael Conlon博士(現在はアイルランドのUniversity Ulster所属)との共同研究としてスタートしました。その一環としてシュレーゲルアオガエルの皮膚から抗菌タンパク質としてヒストンH2Bを得ました。量的にはそう多くのヒストンH2Bを得られなかったので,マルトース結合タンパク質との融合タンパク質や市販のウシヒストンH2Bを用いて,抗菌活性のメカニズムの解析を行いました。その結果,①シュレーゲルアオガエルでは皮膚分泌腺からヒストンH2Bが体外に分泌されること,②分泌されたヒストンH2Bは大腸菌の細胞膜を傷つけることなく透過し菌体内の核酸と結合して増殖を抑制すること,③外膜にプロテアーゼ(OmpT)を発現しない大腸菌だと細胞膜を透過しないこと,④ヒストンH2BはOmpTにより断片化されるがその一部が大腸菌細胞膜を透過し抗菌作用を発揮すること,などがわかりました。これまでに非常にたくさんのカエル種から抗菌ペプチドが単離されていますが,ヒストンH2Bが抗菌物質として単離されたカエル種の報告は,いまだシュレーゲルアオガエルのみです。

⑵Lys-rich型ヒストンとArg-rich型ヒストンの抗菌作用機序の解析

  ヒストンにはH1, H2A, H2B, H3, H4の5種類のサブタイプが存在します。機能的にはリンカーヒストン(H1)とコアヒストン(H2A, H2B, H3, H4)に分けられます。いずれのヒストンもLysやArgといった塩基性アミノ酸を多く含んでいますが,コアヒストンにおいてはArgよりもLysを多く含むArg-rich型(H2A, H2B)と,LysよりもArgを多く含むArg-rich型に分けることができます。Lys-rich型のヒストンは,そのフラグメントも含めて,複数種類の動物から抗菌物質として単離されていますが,Arg-rich型のヒストンに関しての報告は極めて少なく,なかなか単離の報告が出てきませんでした。それならば先に市販されているウシのArg-rich型ヒストンを使って抗菌活性の有無を測定してしまおうと考え,H2Bと一緒に活性や作用機序の解析を行いました。非常に面白いことに,蛍光標識したH2Bは細菌の細胞膜を透過し細胞内に到達して増殖を抑制する静菌型であったのに対し,同様に蛍光標識したArg-rich型のヒストンH3もH4も,いずれも細胞表面に留まり細胞膜破壊を破壊する殺菌型の抗菌活性を持つことがわかりました。

⑶ヒストンH3の抗菌作用の解析

 Lys-rich型のヒストンは,そのフラグメントも含めて,複数種類の動物から抗菌物質として単離されていますが,Arg-rich型のヒストンに関しての報告は極めて少なく,なかなか単離の報告が出てきませんでした。それならば先に市販品のヒストンH3を使って抗菌活性の有無を測定してしまおうと考え,前述の大腸菌に加え、黄色ブドウ球菌やアエロゲネス菌、ミュータンス菌など複数種類の病原体に対して実験したところ,強くまた広範囲な抗菌活性が検出され,さらに真菌であるカンジダにもよく効くことがわかりました。ちなみに2022年末になっても天然素材からヒストンH3を抗菌物質として単離したという報告はまだ見当たりません。

⑷ヒストンH3の細胞毒性の解析

 ヒストンH3には細胞膜破壊を介した強い抗菌活性が存在することがわかりましたが,その作用は宿主の細胞に影響しないのか,心配になりました。そこで哺乳類由来の正常細胞や腫瘍細胞など種々の培養細胞を用いて検証したところ,病原体の細胞に対するときよりも強い細胞膜破壊作用が検出されました。 実際,生体においても細胞外ヒストンは強い細胞障害性を示していることがわかっています。敗血症は細菌感染に基づいた全身性炎症反応症候群(SIRS)の一種なのですが,血液中のヒストン濃度が高くなることが報告されています。また,血液中にヒストンを過剰投与することによってもSIRSを引き起こします。つまり細胞外ヒストンはSIRSのキー分子であるということですが,このメカニックはヒストンがダメージ関連分子パターン(DAMPs)として,エンドトキシン同様,宿主の細胞のToll様受容体(TLRs)へ結合し,その結果,サイトカインストームを引き起こすためであると説明されています。

⑸ヒストンH3分子の抗菌活性と細胞毒性は異なる領域に由来する

  ヒストンH3には抗菌活性と細胞毒性の両方が存在することがわかりましたので、この2つの活性に関わるヒストンH3の分子内領域(アミノ酸配列のことを意味しています)は同じなのか、それとも異なるのかを検証しました。方法はシンプルで、133アミノ酸残基からなるヒストンH3分子をほぼ均等にN末端側から4分割した配列を持つペプチドを合成し、抗菌活性と細胞毒性とを測定するというものでした。その結果、抗菌作用を示す領域と細胞毒性を示す領域はそれぞれ異なっていること,つまりヒストンH3の35位から68位のアミノ酸配列に相当する領域2には明確な抗菌活性があり細胞毒性が殆どなく,69位から102位のアミノ酸酸配列に相当する領域3には明確な細胞毒性があり抗菌活性が殆どないことがわかりました。

3.両生類の変態に関わる諸現象の内分泌学的な解析

 オタマジャクシはカエルの子で,ナマズの孫ではありません。それが何より証拠には,やがて後肢が出て,前肢が出て来ます。丸かった顔つきも尖ってくるし,全身の皮膚も厚くなれば,尻尾がなくなってしまいます。呼吸の方法もすっかり変わって,水中から陸にもあがれる種もあります。このように,両生類は子供(幼生)のときと大人(成体)のときで,まったく別の生き物のように体の形や構造,そして中味の機能が大きく変わります。この現象を「変態」(metamorphosis)といいます。変態は両生類に限ったことではなく,昆虫でも一般的にみられます。
両生類の変態は,甲状腺ホルモン(サイロキシン;T4,トリヨードサイロニン;T3)という分子量800に満たない小さな分子が支配しています。例えば,オタマジャクシの飼育水に甲状腺ホルモンを加えると,本来ならばまだ変態するには幼いオタマジャクシであっても,変態をはじめます。また,オタマジャクシの尻尾だけを切り取って,甲状腺ホルモンを含んだ培養液に浸しておくと,尻尾は変態を開始し,どんどん縮んでいきます。

①甲状腺ホルモン受容体(TR)に関する研究

  この不思議のメカニズムは,甲状腺ホルモンの受容体にあります。甲状腺ホルモン(TH)やステロイドホルモン,レチノイン酸,ビタミンDなどをリガンドとする受容体は細胞の核内に存在しています(核内受容体といいます)。いずれも似たような構造をとることから,これらの受容体はステロイドホルモン/甲状腺ホルモン受容体スーパーファミリーと呼ばれています。いずれもリガンド依存的に標的遺伝子上の標的配列に結合し,基本転写因子群をリクルートすることで,遺伝子の転写を促進します。両生類の変態の調節機構は,TH受容体(TR)の作用に依存しており,TRが変態に関わる種々の遺伝子のスイッチを入れていきます。面白いことに,TRは自分自身の遺伝子も標的にしていて,自分で自分の遺伝子の発現を促進させるautoinduction機構を有しています。変態期のオタマジャクシでは血液中の甲状腺ホルモン量が激増し,これがTR,とくにTRβに結合することでさらにTRβ mRNAやTRβタンパク質の量を増加させることで,一気に変態を進行・完了させます。

②化学物質ビスフェノールA(BPA)のもつ変態撹乱作用の研究

 当研究室では核内受容体の研究を内分泌撹乱物質との関連に発展させました。プラスチックの可塑剤でありエストロゲン様作用が知られているビスフェノールA(BPA)が両生類の初期発生時に高い致死性を示す上に,頭部形成異常や眼球間距離の短化,脊椎の彎曲,腸の卑小化などの奇形を引き起こします。また変態においてはTRβの発現を抑制し変態を阻害すること,成体においては精巣における発現を抑制すること,さらには,BPAはレチノイドX受容体の遺伝子発現にも影響を与えることもわかりました。研究結果を示す写真が,論文の掲載された雑誌の表紙を飾りました。

③両生類生体防御ペプチドの遺伝子発現に及ぼす甲状腺ホルモンの影響の研究

  両生類では皮膚にある分泌腺(皮膚腺といいます)で生体防御ペプチドを合成・分泌しています。この皮膚腺は幼生の段階では未発達で、変態の進行に即して成体型の皮膚が発達し,生体防御ペプチドが多量に作られるようになると考えられています。実際、変態の進行状況に応じた生体防御ペプチドの遺伝子発現量が増加しますし、成体を甲状腺ホルモンで処理しても皮膚の生体防御ペプチド遺伝子の発現量が増加します。さらに、甲状腺ホルモン受容体の阻害効果をもつBPAを共投与すると,甲状腺ホルモンによる生体防御ペプチド遺伝子発現促進効果が抑制されることもわかりました。

④両生類変態時におけるプロラクチンの視床下部-下垂体-甲状腺系への影響

  両生類変態は甲状腺ホルモンによって引き起こされます。プロラクチンは変態に抑制的に働くと言われながら、その具体的なメカニズムは明らかになっていない部分が多く存在します。プロラクチンは変態最盛期後期に血中レベルが劇的に上昇することから、この時期にプロラクチンは重要な作用を持っていると考えられていますが、その生理的意義については未だに不明です。そこで、特に変態期幼生の視床下部—下垂体—甲状腺系に、プロラクチンがどのような作用を有しているかを明らかにすることを目標としています。研究対象の動物としてウシガエルを使用しています。理由は下垂体ホルモンの分泌制御機構に関する知見の蓄積が他の両生類と比較し、十分にあることが挙げられます。

4.両生類の生殖活動のホルモン制御機構の解析

①アカハライモリ脳内におけるホルモンの作用機序

 アカハライモリ雄が繁殖期に雌に対して求愛行動を示します。この行動はいくつかのホルモンが中枢神経系に作用し、誘起されることが分かっています。現在までに、プロラクチン、アルギニンバソトシン、雄性ホルモン、ドーパミンなどの関与が実験的に検証されています。ただ、これらがイモリ脳内でどのように作用し、行動発現に結びつくか、そのメカニズムについてはまだ詳細は明らかになっていません。そのメカニズム解明を一つの目標としています。また、求愛行動発現には性成熟した雌の存在が必要です。雌からの何らかの情報(おそらくフェロモンであると推測される)が求愛行動発現に不可欠と考えられるので、それら情報処理と内分泌系との関わりを明らかにすることが第二の目標です。また、繁殖期になぜイモリは性成熟するのか、上記ホルモンレベルや受容体の発現の季節変動を追い、重要な環境要因を探り出し、生体内の制御機構を明らかにすることを第三の目標としています。 

②両生類ペプチドフェロモン遺伝子構造とホルモンによる転写制御メカニズムの解析

 アカハライモリが求愛行動時に総排出口から放出するソデフリンは肛門部腹腺で合成されます。前駆体タンパク質がまず作られ,10残基からなるペプチドが切り出され、その分子がフェロモンとして機能します。私たちはその遺伝子の転写調節機構の解明を目指して研究を進めています。

5.脳神経新生機構の解析

 近年、哺乳類成体でも中枢神経系での神経新生は常時行われていることは常識となっています。齧歯目マウスでは海馬での神経新生がよく知られていますが、側脳室周囲でも細胞分裂が生じ、この部位で分裂した細胞は嗅球に移動し、介在ニューロンに分化することが知られています。妊娠期の雌では特にこの一連の過程が活発化することが明らかになっており、その現象に下垂体ホルモンのプロラクチンが関与していることが示唆されています。増加した介在ニューロンは嗅覚の変化などに寄与しているのではないかと推測されています。繁殖期にはアカハライモリは雌雄間で、フェロモン・嗅覚情報(場合によっては視覚情報)のやり取りが活発化すると考えられます。この情報処理を円滑にするその過程に神経新生が関与しているかどうかについて解析をはじめています。イモリではプロラクチンをはじめとした種々のホルモンが生殖活動に密接に関わっており、イモリ脳内の神経新生にこれらホルモンが関与するかどうかについても明らかにしたいと考えています。 

6.視床下部−下垂体ホルモンの起源の探索

  視床下部-下垂体系ホルモンがどのように進化してきたか、特にその起源については現在のところ明確な解答はまだ出ていません。本研究は尾索動物の一種であるマボヤに着目しています(図)。尾索動物は、脊椎動物の視床下部-下垂体系ホルモンの起源のヒントとなるシステムを保持している可能性が高いと考えられています。既にマボヤから脊椎動物の既知の視床下部ホルモン(生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン)と類似した配列をコードした遺伝子を発見しており、脊椎動物GnRH分子の進化について論文誌上で考察をしています。さらにその他のホルモン分子やそれら受容体分子にも着目をして研究を進めています。
本研究は、本学訪問研究員である寺門潔先生(前埼玉大学教授)との共同研究です。