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hikaru genki (hig): 動かない変異体ショウジョウバエ(2)

シナプス間隙に分泌されるシグナル分子

動かない変異体

hikaru genkihig)変異体は、1990年代に浜千尋先生(現:京都産業大学)の研究グループで発見されました。エサの上にじっとしていてほとんど動かないという不思議な表現型を示します。麻酔をかけないで観察すると、稀に飛ぶことがあるため、筋肉・運動系などに大きな異常はなく、動こうとする動機付け(神経系のはたらき)に異常があるのではないかと思われます。非常に強い光、非常に強いにおいなどの非常に強い感覚刺激を与えると、元気に動き出すことから、名前がつけられました。幼虫においては非協調運動(体全体を協調的に動かすことができない)も観察されています。

hig遺伝子はシナプス間隙に分泌されるシグナルタンパク質をコードする

hig変異体ではあるひとつの遺伝子が壊れており、変異がホモ接合になると症状を発症します。浜千尋先生の研究グループが、壊れている遺伝子(hig遺伝子)を同定して調べたところ、免疫グロブリンドメインといくつかの補体結合ドメインを含むタンパク質をコードしていました。このタンパク質(HIGタンパク質)には、N末端にシグナル配列があり、また膜貫通ドメインがないことから、細胞外に分泌されるタンパク質なのではないかと予想されました。hig遺伝子は神経系で主に発現しますが、脳のどこにHIGタンパク質が局在(存在)しているのかを電子顕微鏡を用いて詳しく調べたところ、神経細胞の細胞体で作られ、軸索を輸送されていき、シナプス間隙に分泌されることがわかりました。


神経細胞の細胞表面には、他の細胞と情報のやりとりを行うためのタンパク質が存在しています。神経細胞は決まった方向・場所に軸索を伸ばしていき、決まった相手とシナプスを作りますが、細胞表面にあるタンパク質が目印となるいろいろな分子を探しながら軸索が進むべき方向を決めていくことがわかっています。HIGタンパク質に存在する免疫グロブリンドメインや補体結合ドメインは、このような細胞どうしの情報のやりとりに使われるタンパク質によく見られるドメインであることから、HIGタンパク質もそのような情報のやりとりに関わっているのではないかと予想されています。


ショウジョウバエの脳ではおよそ10万個の神経細胞がシナプス結合を介してネットワークを作っていますが、成虫の脳のシナプスの多くは蛹の時期に作られます。HIGタンパク質は、作られる途中の未成熟なシナプスにおいても、やはりシナプス間隙に放出されて存在しています。HIGがはたらかなくなると成虫が動かなくなるわけですが、蛹の時期だけでHIGの機能を人為的・一時的に回復させてやったところ、それだけで成虫の行動が正常に戻りました。このことから、hig変異体成虫が動かない原因は、蛹の時期にシナプスがきちんと作られないためなのであろうということがわかりました。
参考文献:
hikaru genki, a CNS-specific gene identified by abnormal locomotion in Drosophila, encodes a novel type of protein.
Mikio Hoshino, Fumio Matsuzaki, Yo-ichi Nabeshima, Chihiro Hama
Neuron, 10, 395-407 (1993).

Pubmed

Hikaru genki protein is secreted into synaptic clefts from an early stage of synapse formation in Drosophila.
Mikio Hoshino, Emiko Suzuki, Yo-ichi Nabeshima, Chihiro Hama
Development, 122, 589-597 (1996).

Pubmed

Neural expression of hikaru genki protein during embryonic and larval development of Drosophila melanogaster.
Mikio Hoshino, Emiko Suzuki, Tadashi Miyake, Masaki Sone, Akira Komatsu, Yo-ichi Nabeshima, Chihiro Hama
Dev. Genes Evol., 209, 1-9 (1999).

Pubmed

higタンパク質のシナプスへの輸送:スイッチング機構の存在

神経細胞は、細胞体から軸索という一本の長い突起を伸ばし、その末端で他の細胞にシナプスを介して情報を伝えます。HIGタンパク質は細胞体で作られ、軸索を運ばれていき、シナプスでシナプス間隙に分泌されるのですが、興味深いことに、蛹の時期に脳が作られる過程においてHIGがシナプスに運ばれる時期と運ばれない時期があることがわかりました。


ショウジョウバエは卵からおよそ10日で成虫になりますが、そのうちで蛹の時期が4日間あります。HIGタンパク質は、蛹2日目・3日目の未成熟なシナプスにおいて、シナプスに輸送され、シナプス間隙に放出されます。しかしながら蛹4日目になると、シナプスに輸送されなくなり、作られる場所である細胞体に留まるようになります。私たちは、HIGタンパク質の輸送がこのような特殊な調節を受けているのには何か意味があるのではないかと考え、詳しく調べています。
参考文献:
Loss of yata, a novel gene regulating the subcellular localization of APPL, induces deterioration of neural tissues and lifespan shortening.
Masaki Sone, Atsuko Uchida, Ayumi Komatsu, Emiko Suzuki, Ikue Ibuki<, Megumi Asada, Hiroki Shiwaku, Takuya Tamura, Mikio Hoshino, Hitoshi Okazawa, Yo-ichi Nabeshima
PLoS One, 4, e4466 (2009).

Journal Link

なぜ動かないのか?

それでは、hig遺伝子がはたらかなくなると、なぜハエが動かなくなるのでしょうか?現在われわれはいくつかの手段を用いて、この疑問に取り組んでいます。