【実習2】 薬毒物検査体験

緒言と目的

法医解剖による鑑定には、薬毒物検査も欠かせません。法医解剖では、ルーチンの検査の一環として、血液中や尿中に含まれる薬毒物の検査を行います。
薬毒物というと、何か特殊な物質というイメージがありますが、法医学では、お酒や市販薬も立派な「薬毒物」の検査対象になります。ちなみに、「道路交通法」や「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」ではアルコール、「刑法」ではアルコールまたは薬物、「船舶職員及び小型船舶操縦者法」では、アルコール・薬物・その他に関して、さらに、その他の法律でも、法規制があります。
一般に、「酔いが醒めてきた」と感じる頃に、血中アルコール濃度は、かなり上昇しており、「もう、大丈夫だろう」・「この程度なら大丈夫」などと自己判断をして、乗り物を運転・操縦するのは、大変危険なことです。重要な話し合いや生徒の話題も避けた方が賢明です。法医解剖のアルコール検査では、血中と尿中でそれぞれのアルコール濃度がピークに達するまで時間が異なるため、死亡時刻の大まかな推定も可能です。
解剖時には、ガスクロマトグラフィー・検査キットなどを用いて、アルコール濃度や、覚醒剤・医薬品の使用の有無などを検査します。必要に応じて、血中の一酸化炭素ヘモグロビンの割合なども検査します。
解剖と同時進行で、複数の検査を、間違いなく短時間でこなしていくため、検査自体は機械的に「こなす」仕事でありながらも、過去の症例経験をもとに結果を先読みする能力と、検査項目の変更や追加にも対応できる検査手順の立案・実施能力が必要です。また、データには、病院の一般的検査よりも多くの誤差を含むことが多く、これらの検査の結果分析には、特に科学的なものの見方・考え方が必要です。さらに、これら検査をいつでも円滑に行うため、解剖のない時間を利用して、普段からの機械や消耗品類の維持管理をすることも欠かせません。
本実習では、尿中乱用薬物検出キットを用いて、水道水を模擬尿とし、尿中乱用薬物スクリーニング検査の実務を供覧します。

材料

  • 模擬尿(実験室の水道水)

器具など

  • 使い捨てミニカップ (模擬尿(実験室の水道水)を入れる。)
    ・ピペット操作に慣れている場合は試験管状の容器でも可。
  • 尿中乱用薬物検出キット 「トライエージDOA」 (使用期限の過ぎたもの)
  • タイマー
  • 結果の記録用紙 (「トライエージDOA」付属の書式を利用)
  •  
  • 油性マジック(細)
  • コピー機(できればカラーが良い。)

方法

キット本体の袋を開封し、日付などを記入した後、本体のカバーを取り去る。
本体の反応カップ部に模擬尿を140μl入れ、カップ内の三つのビーズを溶かす。
10分後、本体カップ内の反応液を全量、本体の検出ゾーン(レーン)に落とし入れる。
反応液が吸収し終わらないうちに、洗浄液を3滴、滴下し、軽く揺すりながら吸収させる。
吸収し終わったら、5分以内に結果を読み、結果を画像で残す場合は、本体の上下を逆にして、カラーコピーを取る。

結果

本検査はスクリーニング検査であるので、結果は参考として扱うと良い。
検体中に薬物が含まれていない場合は、本体の陰性コントロールゾーンと陽性コントロールゾーンにのみ、赤いラインが出る。
検体中に薬物が最低検出濃度を超えて含まれる場合は、本体の薬物検出ゾーンにも赤いラインが出る。
実務では、弱陽性(薄い桃色)のラインが本体の薬物検出ゾーンに出ることも良くある。検査薬物と類似した化学構造の物質や、検査ターゲットの薬物ではないが陽性に出る物質の存在、薬物が最低検出濃度を下回る濃度で含まれていることなどが弱陽性の原因として考えられる。

連絡先

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