2001年度

「密度揺らぎの成長による宇宙の構造形成」

宇宙背景輻射の観測は、初期の宇宙が非常に良い精度で一様であったことを示している。一方、現在の宇宙は星や銀河があるために非一様である。本論文では、この2つの事実を結びつけるために、宇宙初期に存在していたわずかな密度揺らぎが自己重力で成長することによって、現在観測されるような構造が形成される過程について考察した。そして、バリオン、ダークマター、輻射などの間の相互作用を考慮しつつ、密度揺らぎの時間変化を定量的に計算し、宇宙の物質構成が構造形成の過程にどのような影響を及ぼすかを議論した。

「星の進化と内部構造」

この論文では、星の進化と内部構造について議論する。星は自己重力によって束縛されたガスのかたまりである。星の内部では、熱核反応が起きることにより物理状態が変わり、構造が変化していく。この星の進化を短い時間スケールで見たとき、重力と圧力が平衡状態にあると近似できるので、
 P ∝ ρ(1+1/N)
という状態方程式を仮定すれば、その結果は星の進化の一部をよく表している。これは実際の星に当てはめても良い近似を与える。この結果をふまえながら星の進化の様々な段階における内部構造を論じていく。

「天体までの距離の測定」

この論文では、宇宙物理学の基本的な課題である天体までの距離の測定方法について述べる。まず、一様等方な宇宙の幾何学的構造を記述し、このような宇宙における距離の定式化を述べる。次に、実際の宇宙において遠方の天体までの距離がどのように測定されるかを述べる。さらに、このような距離が精密に決まると、宇宙の膨張や幾何学に強い制限が与えられることに着目し、これらに対する最新の観測結果とその意義について議論する。

「Maxwell場の量子化」

ここではGauge場のひとつであるMaxwell場(電磁場)を量子化する。Gauge場の理論ではすべての正準変数が独立変数となっていない、したがってGauge場の量子化を考える際にはすべての正準変数を独立変数とするために”Gauge固定”という操作をする。Maxwell場をBose系として量子化するとBose粒子である光子の集まりとなることがわかっている。ここではBose系としての量子化を議論した後にFermi系としても量子化し、Fermi粒子である光子の集まりとして量子化の可能性を考察する。

「重力波の発生と伝播」

重力波は、一般相対性理論の重要な結果の一つであり、間接的にではあるが、PSR1913+16というパルサーの観測によって、存在が示唆されている。また、重力波を直接捕らえようとする試みも今日進められている。この論文では、一般相対性理論の基本方程式であるアインシュタイン方程式から出発し、重力波の伝播や、周囲の物質にあたえる影響、また発生のメカニズム等を論ずる。更に具体例として連星系からの重力波を考え、その観測可能性などについても考察する。