2003年度

「場の量子化と素粒子の崩壊」

この論文では、まず第1部で場の量子化のまとめをし、これを用いて第2部で粒子の崩壊の計算を行う。第1部の場の量子化の議論は量子力学から始め、調和振動子の方程式をHeisenbergの運動方程式から導くという議論を行う。この議論は以下の量子化の本質となる部分である。次に、これらの知識を場の理論に応用する。電子場、Klein-Gordon場、最後に電磁場の量子化を行い、各々の場に対応する粒子の性質を理解する。第2部では摂動計算を用いた物理量の計算方法を紹介し、第1部で学んだ場の取り扱い方とあわせて、K0中間子がpi+,pi-中間子に崩壊する振幅を摂動計算を用いて求め、崩壊確率を求める。

「ブラックホール内部までの粒子の運動」

本論文ではクルスカル座標を用いたシュバルツシルト時空での粒子の運動を考えた。空間の曲がりを表すアインシュタイン方程式のシュバルツシルト解は、球対称(物理量がその中心からの距離のみに依存する状態)で時間的に変化のない時空である。このシュバルツシルト時空には球対称なブラックホールが存在する。このブラックホールの性質を調べる目的でこの時空での粒子の運動を求めた。そしてブラックホールの内でも外でも使えるクルスカル座標を用いて粒子の軌道を表すグラフを書いてこの振る舞いからブラックホール付近での粒子の運動を考察した。

「一般相対性理論におけるケプラ-の法則」

この論文では、ニュートンの万有引力による惑星のケプラー運動と一般相対性理論による惑星の運動をケプラーの法則に沿って比較検討していく。一般相対性理論では重力場は時空のゆがみ(曲率)として表され、惑星の運動に対してニュートン力学が近似的には成り立つ。ここでは惑星がブラックホールから比較的遠くで運動するときケプラーの法則がどのように補正されるか議論する。その結果、重力場による相対論的効果を取り入れたケプラーの法則に対応する三つの法則を導いた。

「ASTE搭載3色ボロメータの冷却実験と素子評価」

ASTEはチリの標高5000Mのアタカマ高原にある口径10Mのサブミリ波望遠鏡実験計画である。本論文は、ASTE搭載の3色ボロメータ(サブミリ波検出素子)システムの性能向上のために行った実験をまとめたもので、実験は主に冷却系とボロメータ素子の評価を行った。冷却系ではヒートスイッチの改良など、熱流入を抑えることで冷却温度0.38Kが実現した。また、ボロメータ吸収基板のBi薄膜の表面抵抗を、直接測定と透過率測定の二つの方法で測定し、理論曲線との比較から量子効率が最大となるBi膜厚の最適値を決定した。

「ASTE計画におけるボロメータを使用した 連続波観測装置の開発と評価」

本論文はアタカマサブミリ波望遠鏡実験(ASTE)計画で運用される連続波観測装置(3色ボロメータ受信機)の光学系を中心にした研究開発の経緯をまとめたものである。光学系では反射防止コートのフィルター設計と製作、フーリエ分光器を用いた透過率の評価等を行った。システム性能を光学的に評価した結果、雑音等価フラックス密度(NEFD)が6月時点より10倍改善させることに成功した。さらにシステムを向上させるための議論をした。期待できるサイエンスについても初めに触れ、最後にチリでの観測は速報結果として触れる。

「球状星団を用いて宇宙年齢の下限値を求める」

数万~数百万個の恒星が球状に密集している球状星団は、重元素の少ない種族Ⅱの星で構成されていることから、宇宙が形成された初期の段階で作られたと考えられる。このため、球状星団の年齢を推測することで宇宙年齢の下限値を求められる。この論文では、球状星団『47TUCANAE』の星のデータをもとにH-R図を作成し、理論的な等時線と比較検討のうえ球状星団の年齢を推測した。その結果、この球状星団の年齢は約140億年となり、宇宙年齢の下限値が求められた。

「球状星団の安定性」

球状星団は約100万個の星が球状に集まった系である。この論文では、球状星団の性質について、一般的知識や観測結果を、次に、力学的に運動方程式やハミルトニアン等をまとめる。最後に統計力学的手法を用い、定常状態からの「ずれ」を考える事で球状星団の安定性を議論する。系の支配方程式である無衝突ボルツマン方程式を導き、定常状態から摂動を加える事で「ずれ」を求め、その「ずれ」が安定かどうか調べた。結果、恒星系が安定であるための必要十分条件が求まった。これに具体的な球状星団の分布関数等を代入する事で、安定性につい述べた。

「宇宙における電離領域の形成と構造」

我々の宇宙に存在する星やQSOなどの天体は、光子を放射し周囲の物質を電離する。本論文では、光電離、衝突電離、再結合、光子の吸収を考慮して、天体の周りに形成される電離領域の構造を調べた。その結果、光子吸収を考慮することは電離領域の構造を考える上で本質的であることが分かった。また、電離領域の大きさが天体の光度、スペクトルの形、そして物質密度に対してどのように依存するのかを示した。この結果を、QSOに適用し、赤方偏移3において観測されているQSO数密度とあわせると、宇宙全体が電離されうることが分かった。