2009年度

「弦の量子化」

超弦理論は量子力学と一般相対性理論を統一する理論と考えられている。ここでは超弦理論について学ぶための第一段階としてボゾン的弦を考察する。相対論的な弦は正準運動量のすべてが独立ではないので、調和振動子や非相対論的な弦と同様な方法では量子化できない。そのためディラックの方法に従って拘束条件を求め、ゲージ自由度を固定するために光円錐ゲージをとって正準変換をする。このときローレンツ不変性が量子化の過程で保たれるためには時空の次元が26次元(超弦では10次元)でなければならないことを理解する。

「QEDにおける有効結合定数」

場の量子論では、粒子間の相互作用の強さは距離(エネルギー)に依存する有効結合定数で表される。本論文では、量子電磁力学(QED)における有効結合定数を求め、静電遮蔽効果によって電子間が近距離(高エネルギー)のとき、有効結合定数は大きくなり、相互作用が強くなることを示す。また展望として、量子色力学(QCD)の場合では距離と相互作用の強さがどのような関係を持ち、クォーク閉じ込め(クォークを単独で取り出すことが出来ない)という現象を引き起こしているのか考察する。

「Kerrブラックホール周囲での粒子の運動の数値解析」

ブラックホールを特徴づける物理量は質量・角運動量・電荷の3つである。本論文では質量と角運動量をもつKerrブラックホールを研究対象とした。Kerrブラックホール周辺に存在する粒子はどのような条件を満たした時にブラックホール内部へ落ち込むのか、またその落下時間はどれほどかかるのかについて調べる。そのためにまずKerr時空における運動方程式を導いた。さらに求めた運動方程式を様々な初期条件もとで数値的に解くことによって粒子の軌道を求め、粒子の初期条件と軌道の関係性を明らかにした。

「重力マイクロレンズ効果による増光率の変化」

本論文では重力マイクロレンズ効果による恒星の明るさの変化(増光)について考察した。連星系、または惑星系などの複数のレンズ天体がある場合を考えた。二つのレンズ天体が存在する時には、レンズ方程式は一般に連立五次方程式となり、解析的に解くことは不可能となる。そのためレンズ方程式を数値的に解き、その数値解をもとに増光率の時間変化を計算し、実際の観測データと比較した。また、レンズ天体が三つ以上のときのレンズ方程式についても考察した。

「Heガス熱伝導式ヒートスイッチの性能評価」

本論文では、サブミリ波検出器と読み出し回路の組み合わせ評価用の冷却システムを構築するために不可欠なHeガス熱伝導式ヒートスイッチの性能評価をまとめた。計8つのスイッチに対してON(伝導)とOFF(非伝導)時の熱コンダクタンスGを測定した結果、1つは故障していることが分かった。その他のスイッチに関しては、ON時にガス圧を制御する活性炭の印加電圧を上げることで理論値に近いコンダクタンスが得られ、GON/GOFF>1000を実現することができた。この結果、7つのスイッチが実用可能であることが分かった。