2014年度

「銀河団に付随するダークマターの速度分布」

銀河団は孤立系ではないため、宇宙年齢という有限時間でどの程度の力学的平衡状態に達するかは自明ではない。本研究では、重力多体シミュレーションの結果を用いて、銀河団質量の大半を占めるダークマターの速度分布を定量的に調べた。その結果、安定した形状をもつ銀河団の内縁部ではマクスウェル分布が近似的に実現されることがわかった。平均速度は速度分散に比べて十分に小さく、ともにほぼ一定で等方的な振る舞いを見せた。外縁部にいくにつれて速度分散はゆるやかに減少しはじめ、異方性が大きくなることが確認できた。これは外側からの物質降着の影響であると考えられる。

「ダークマタ—ハローの密度プロファイル」

ダークマタ—は宇宙の物質の大部分を占めており、大規模構造の形成においても大きな役割を担っていると考えられている。本研究では宇宙論的大規模数値シミュレーションの結果を用いて、力学平衡にほぼ達したとみなせるダークマタ—ハローの密度分布を計算した。そして、その結果を過去の研究によって示唆されている半径方向の平均的な密度分布と比較する。さらに、密度分布が角度方向にどの程度変化するかを調べる。

「重力マイクロレンズ効果を用いた太陽系外惑星探査方法」

太陽系外惑星の探査方法の一つに、重力マイクロレンズ効果を利用した方法がある。これは、背景天体と観測者の間を惑星系が通過することによって、背景天体の見かけの明るさに急激な増光がみられることを利用したものである。本研究では、重力マイクロレンズ効果を用いた太陽系外惑星の探査方法の理解を目的とし、惑星を伴った恒星が通過することで起こる増光の様子について定量的に調べた。過去の研究では、惑星の恒星周りの公転運動が考慮されずに解析されることが多かったが、ここでは惑星の公転運動も考慮した場合の増光の様子についても調べた。

「重力マイクロレンズ効果を用いた銀河系内ダークマター候補天体の観測確率」

一般相対論から導かれる重力マイクロレンズ効果は、銀河や恒星などの背景天体と観測者の間を別の天体が通過したとき、背景天体が増光する現象である。本論文では、銀河系内における太陽系の位置と銀河系内の質量密度分布を考慮して、任意の方向の背景天体を観測した場合に起こるマイクロレンズ効果の確率を求めることを目的とした。そして、観測者の位置から大マゼラン星雲や銀河の中心方向など任意の方向を観測した際に起きるマイクロレンズ効果の効率を定量的に比較する。

「2+1次元重力理論における光路の解析」

本研究の目的は空間2次元、時間1次元での一般相対性理論を考え、3+1次元との対応・相違明らかにすることである。質点の作る球対称時空はアインシュタイン方程式を2+1次元で解くことにより、「円錐状」の空間となる。また、この解は座標変換を行うことにより、欠損角のある平坦な時空となる。この時空における重力レンズ効果を議論することにより、この時空の性質を明らかにすることができる。その結果、2+1次元では局所的には平坦な空間にもかかわらず、3+1次元と同様に重力レンズ効果が見られ、レンズ像の解析は3+1次元よりも容易になる。

「2+1次元での一般相対性理論」

空間2次元+時間1次元での重力場の性質を調べるため、2+1次元でのシュワルツシルド解を求める。その結果、平面をV 字に切り取った様な時空となり、その切り口を張り合わせた時空は質点の位置にのみ特異点を持つ「円錐状」になる。3+1次元重力場でのブラックホールとの違いは、イベントホライズンを持たないという事である。次に測地線方程式を解き、粒子の振る舞いを調べる。最後に、ラプラス方程式から2+1次元でのニュートンポテンシャルを求め、そこでの粒子の振る舞いと比較する。

「Yang-Mills理論とクォークの散乱」

素粒子の相互作用を理解する手段としてYang-Millsの一般ゲージ理論は有効な理論であり、ゲージ群がU(1)対称性やSU(3)対称性の場合に電磁相互作用や強い相互作用を表現する。この論文ではYang-Mills理論の一つの例としてクォークのゲージ場による散乱振幅を計算する。具体的には電磁相互作用が働くDirac粒子の系で、電子-電子散乱振幅の衝突断面積の計算を行う。また電子-陽電子散乱振幅の衝突断面積の計算も行う。両者の散乱の衝突断面積を比較する。二つの系の衝突断面積は散乱角が小さい時、Rutherford散乱の衝突断面積に近い値となる。