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東邦大学理学部
物理学科 宇宙物理学教室

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2015年度

「三軸不等楕円体モデルにおける銀河団質量の系統的調査」

銀河団は数百から数千の銀河と、高温ガス、ダークマターから成っている。銀河団質量を求める方法としては、X線によるガスの観測から得られる密度・温度分布を用いる方法があり、このとき銀河団は静水圧平衡であることを仮定する必要がある。しかし厳密に言えば静水圧平衡は成り立っておらず、銀河団の真の質量と静水圧平衡の仮定のもと求めた質量には誤差があると考えられる。誤差の検証には数値シミュレーションにより作られた銀河団を調べる方法がある。Suto et al .(2013,ApJ,767,79)が球対称の仮定のもと解析を行い、銀河団の真の質量と静水圧平衡下の質量との誤差は最大で約30%あるという結果に達した。また、戸澤(2014)が三軸不等楕円体モデルを仮定し同様の解析を行ったところ、その誤差はさらに減少し、最大でも約20%となった。これらの研究は、どちらも主に、Cen(2012,ApJ,748,121)のシミュレーションにより作成された1つの銀河団を用いて行っているため、違う計算コードにより作られた銀河団を複数調べることで、系統的に強い結論を得ることができる可能性がある。
本研究ではDolag et al.(2009,MNRAS,399,497)によりシミュレーションされた7つの銀河団を含めた計8つについて研究を行い、より系統的に誤差要因を調べることを目的とした。その結果、シミュレーションの信頼性が疑わしい中心部以外では8つの銀河団全てにおいて、球対称を仮定するよりも、三軸不等楕円体を仮定した方が真の質量と静水圧平衡下での質量の差は小さくなった。また誤差の主要因はオイラー方程式におけるガスの加速度項の寄与によるもので、これはSuto et al.(2013)、戸澤(2014)の主張とも一致する。その寄与の正負はランダムであったため、個々の値は楕円体を仮定しても30%~40%程度であったが、平均をとると球対称で最大約20%、楕円体で最大約10%程度となった。このことから、より多くの銀河団を対象に解析を行えば、加速度項に起因する真の質量と静水圧平衡下の質量の差はさらに減少することが期待される。
本研究ではさらに、楕円体の近似に用いる各パラメータを、ガスだけでなくダークマターについても求めた。その結果、三つの軸の方向はダークマターとガスで系統的によく一致した。その一方で、楕円率の値は全ての銀河団で、ダークマターよりガスの方が小さくなった。
ここまで述べた結果については、次のように考察できる。ダークマターは銀河団質量の割合の大部分を占める。そのため銀河団の重力の大半をダークマターが担っている。ダークマターの密度分布は球対称からずれており、ガスの質量密度分布もダークマターの重力の影響を受け、同程度ずれようとする。しかしその一方で、圧力勾配による力が外向きに働く。この二つの力が釣り合い、銀河団ガスにおいて楕円体状に静水圧平衡がよい精度で成り立つ。以上のような理由から、三軸不等楕円体を仮定すると静水圧平衡下の質量と真の質量の差が、球対称を仮定するよりも小さくなったのだと考えることができる。