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開胸手術に伴う用語の解説

胸骨正中切開とは

胸骨とは,胸の前側・真ん中にある縦長の大きな板状骨です.肋骨(あばら骨)・背骨とつながり,心臓や肺など命に関わる重要な臓器を骨の鎧(骨性胸郭といいます)で守っています.心臓手術を行うには,この鎧の中に入らなければなりません.一般的には胸骨を完全に縦割りして(胸骨正中切開),これを万力のような器械(開胸器)で大きく広げて心臓の全てがよく見える状態で安全に手術を行います.胸の真ん中に20から25cmほどの大きな傷跡が残ります.

胸骨正中切開の利点

  • 長い傷を大きく広げて手術をしますので,外科医は心臓の全てが見え,どの部分にも直接手が届くので急な出血やトラブルにも即対応が可能で,安全に手術を行うことが出来ます.
  • 肺のある空間(胸腔)を通ることなく心臓に到達できるので,術後の肺障害が起こりにくいと言えます.

胸骨正中切開の欠点

  • 胸骨を切ることは人工的な骨折と一緒です.一般的な骨折が治る期間と同様に,胸骨が治るまでには月単位の時間がかかり,痛みに耐える期間があります.
  • 胸骨を切ると、手術中には骨髄がむきだしの状態になるので出血量が増えます。
  • 寒くなったときや雨が降るときなどに古傷がうずくという話をお聞きになったことはないでしょうか?胸骨が治った後にも,時にこの様な不快感が残ることがあります.
  • 胸骨は人体で最大の板状骨で比較的血流が乏しいことが知られています.つまり,治りにくくばい菌に弱い性質があります.特に,ひどい糖尿病や動脈硬化を合併しているときは,いったんばい菌が付くと(感染すると)胸骨を中心にばい菌が広がり縦隔炎という命に関わる合併症に至ることもあります.

人工心肺装置を用いた体外循環とは

  • 心臓は大動脈に向かって血液を送り出し,全身の血液循環用ポンプの役割をになっています.その心臓を手術するときには,心臓の代わりに血液循環を行わなければなりません.
  • 人工心肺装置とは,汚れた血液(静脈血:二酸化炭素を多く含み酸素が少なくなった血液)から二酸化炭素を空気中に捨て酸素を血液に溶かし込ませた きれいな血(動脈血)を作る人工肺と,その血液を勢いよく送り出すポンプ(人工心臓)が一体になった装置です.
  • 胸骨正中切開の後,全身の汚れた血液が帰ってくる心臓の右心房に太いチューブ(脱血管)をいれて,汚れた血液を人工心肺装置に通してきれいになった血液を全身の動脈とつながっている大動脈にチューブ(送血管)をいれそこから送り返します.血液を体外の装置をへて循環させるので,これを体外循環と呼びます.
  • この様に人工心肺装置を用いた体外循環を利用することで,心臓の手術が可能になります.

心筋保護液を用いた心停止とは

  • 大動脈弁や僧帽弁など心臓の中の手術をするためには,心臓の中に血液が無くてしかも心臓が動いていない状態が必要になります.このために体外循環と心停止が必要になります.
  • 体外循環を行っているとき心臓には血液が戻っていきませんので,心臓の中を通る血液は少なくなります.したがってこの状態で血液は,心臓から大動脈弁を通って大動脈に拍出さません.しかしこの状態でもの,心臓そのものに血液を流す冠動脈には,体外循環から送られた血液が流れ込んでくるため心臓は動き続けます.
  • 上行大動脈で大動脈を遮断する(血管を優しく押しつぶして血液を流れなくすること)と,心臓の中からも,大動脈からも冠動脈に全く血液が流れなくなり,心臓は止まります.
  • この状態で心臓を止め続けると,心臓には血流がなく丸ごと心筋梗塞になっていることと同じで,すぐに心臓が障害を受けて二度と動かなくなってしまいます.この障害の進行が遅くなるように,上行大動脈の遮断したところより冠動脈寄りの所から針を刺して,心筋保護液を注入します.注入した心筋保護液は冠動脈に流れて,心臓を安全に止めます.
  • 心筋保護液とは,血液を主体とした液で,心臓が止まっている間の酸素消費とエネルギー消費を抑える効果があります.K(カリウム)濃度を高く調節しているため,電気的に心臓の動きを止めます.温度を低く調節しているため,心臓の温度が低く保たれます.
  • 心臓の手術が終了すれば,上行大動脈の遮断を解除し,冠動脈に再び温かく酸素を含んだ血液を流します.しばらくすると,心臓は再び動き始めます.
  • 心臓が動き始めてしばらくすると,ゆっくり体外循環を終了してポンプの役割を心臓に戻します.心臓が全身の循環を担うのに問題が無ければ,人工心肺装置を体からはずして手術を終了していきます.

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