対象疾患(アトピー性皮膚炎)
アトピー性皮膚炎の新たな治療
2018年4月よりアトピー性皮膚炎治療薬としては初の生物学的製剤であるデュピルマブ(デュピクセント®)皮下注射が使用開始となり、2019年5月より自己注射が可能になりました。
また、2020年以降、新たにバリシチニブ(オルミエント®)経口投与薬やウパダシチニブ(リンヴォック®)経口投与薬、ネモリズマブ(ミチーガ®)皮下注射が使用可能となりました。
アトピー性皮膚炎は、フィラグリンの遺伝子変異などに伴う角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリア機能障害という皮膚の生理学的異常、免疫・アレルギー学的異常に伴うアトピー素因、瘙痒などが関与する多病因性の疾患です。これらに生活環境やストレスなどが悪化因子となり病像を形成します。
免疫・アレルギー学的異常には、2型炎症(アレルギー反応に関わるTh2細胞による炎症)反応が深く関係し、Th2細胞から産生されるIL-4やIL-13などのサイトカインは、皮膚の炎症や皮膚バリア機能、かゆみに関与することが知られています。
治療は ①薬物療法、②皮膚の生理学的異常に対する外用療法・スキンケア、③悪化因子の検索と対策、が基本になります。
また、2020年以降、新たにバリシチニブ(オルミエント®)経口投与薬やウパダシチニブ(リンヴォック®)経口投与薬、ネモリズマブ(ミチーガ®)皮下注射が使用可能となりました。
アトピー性皮膚炎は、フィラグリンの遺伝子変異などに伴う角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリア機能障害という皮膚の生理学的異常、免疫・アレルギー学的異常に伴うアトピー素因、瘙痒などが関与する多病因性の疾患です。これらに生活環境やストレスなどが悪化因子となり病像を形成します。
免疫・アレルギー学的異常には、2型炎症(アレルギー反応に関わるTh2細胞による炎症)反応が深く関係し、Th2細胞から産生されるIL-4やIL-13などのサイトカインは、皮膚の炎症や皮膚バリア機能、かゆみに関与することが知られています。
治療は ①薬物療法、②皮膚の生理学的異常に対する外用療法・スキンケア、③悪化因子の検索と対策、が基本になります。
①薬物療法
- 抗炎症外用薬(外用):
炎症を十分に鎮静するための薬剤として、ステロイド外用薬とタクロリムス外用薬(カルシニューリン阻害外用薬)があります。その他、非ステロイド系消炎外用薬がありますが、抗炎症作用は弱く、接触皮膚炎を生じることがまれではないため、その適応範囲は狭いです。 - 抗ヒスタミン薬(内服):
痒みに対して、非鎮静性ないし軽度鎮静性の眠気の少ない第二世代抗ヒスタミン薬を内服します。痒いときのみ内服する間欠投与と、痒くても痒くなくても内服する連続投与がありますが、連続投与の方が痒み軽減の程度や痒みの再発抑制率も大きいと指摘されています。 - 免疫抑制薬(内服):
免疫抑制薬であるシクロスポリンは、T細胞を活性化するシグナル伝達を阻害することで、IL-2などのサイトカイン産生を抑制し、免疫抑制作用を示します。適応となるのは16歳以上で既存治療で十分な効果が得られない最重症の患者です。使用中は腎障害や高血圧、感染症などに注意しながら、定期的に薬剤血中濃度を測定する必要があります(長期投与が必要な場合は2週間以上の休薬期間をはさむ間欠投与を行います)。 - 抗炎症内服薬(内服):
抗炎症内服薬であるステロイドの内服は、ときに急性増悪や重症・最重症の患者に対して寛解導入のために用いられ有効ですが、全身性副作用の観点から使用は短期間のみに限定します。
②皮膚の生理学的異常に対する外用療法
保湿外用薬(外用):低下している角質層の水分含有量を改善し、皮膚バリア機能を回復・維持することで、アレルゲンの侵入予防と皮膚炎の再燃予防、痒みの抑制につながります。人工皮脂膜の役割を果たす白色ワセリンなどのエモリエント製剤と、ヘパリン類似物質などのモイスチャライザー製剤に分類され、これらを入浴直後に外用することが最も効果的です。
③悪化因子の検索と対策
症状の悪化因子は、不規則な生活や食物・環境アレルゲン、ストレス、入浴時の洗浄法など多様です。考えられる食物・環境アレルゲンに関しては血液検査や皮膚検査を行い、対策を検討します。洗浄法は界面活性剤が少ない石鹸を泡立てて手で洗うようにし、ナイロンタオルなどを用いて過度に摩擦を行う洗浄は制限する必要があります。
④光線療法や入院療法
抗炎症外用薬や抗ヒスタミン薬、保湿外用薬などによる治療で軽快しない例やコントロールできない例、従来の治療で副作用を生じている例では紫外線療法(ナローバンドUVB療法など)や、急性増悪した例や慢性的に重症の皮膚炎が遷延化している場合には当科で積極的に行っております入院治療などを考慮します。
以上がアトピー性皮膚炎の基本的な治療法です。これらに加えて、以下の生物学的製剤が使用可能となりました。
以上がアトピー性皮膚炎の基本的な治療法です。これらに加えて、以下の生物学的製剤が使用可能となりました。
◆生物学的製剤
ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体(皮下注射):デュピルマブ(デュピクセント®)は、IL-4とIL-13の働きを直接抑えることで、皮膚の2型炎症(アレルギー反応に関わるTh2細胞による炎症)反応を抑制する新しいタイプの薬剤です。炎症反応を抑えることにより、痒みや皮疹を改善します。
ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体(皮下注射):デュピルマブ(デュピクセント®)は、IL-4とIL-13の働きを直接抑えることで、皮膚の2型炎症(アレルギー反応に関わるTh2細胞による炎症)反応を抑制する新しいタイプの薬剤です。炎症反応を抑えることにより、痒みや皮疹を改善します。
デュピクセント®の適応基準・投与方法・臨床効果
- 15歳以上の成人における、既存治療で効果不十分な方
(基本はストロングクラス以上のステロイド外用薬、もしくはタクロリムス外用薬を6か月以上使用しても効果が不十分な方が対象となります。医師が適応の有無を判断します。) - 投与方法:初回2本(計600㎎)を皮下注射し、その後2週間間隔で1本(300㎎)を皮下注射します。
- 臨床効果:投与後16週のEASI 75(皮疹の重症度や皮疹の面積などをスコア化したEASIスコアが、投与開始時から75%以上改善した患者の割合)達成率が68.9%、EASI 90の達成率が39.6%と高い効果を示しています。皮膚症状の重症度と相関する血清Thymus and activation regulated chemokine (TARC)値も投与後から速やかに低下します。投与を継続することで、症状が安定した状態での維持が期待できます。副作用として結膜炎の報告がありますが、点眼薬や眼軟膏等の処置で改善するケースがほとんどです。
ミチーガ®の適応基準・投与方法・臨床効果
- 成人及び13歳以上の小児で、既存治療で効果不十分な方(基本はステロイド外用剤やタクロリムス外用剤等を4週間、抗アレルギー剤等を2週間使用しても効果が不十分な方が対象となります。医師が適応の有無を判断します。)
- 投与方法:初回1本(60㎎)を皮下注射し、その後4週間間隔で1本(60㎎)を皮下注射します。
- 臨床効果:投与後16週のそう痒VAS(かゆみの重症度をスコア化したもの)変化率が-42.8%と高い効果を示しています。投与を継続することで、症状が安定した状態での維持が期待できます。副作用として皮疹の一時的な悪化や、かゆくない浮腫性紅斑が出現することがありますが、外用剤を併用することでコントロールが可能な場合が多いです。
◆低分子化合物
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(内服):バリシチニブ(オルミエント®)は、アトピー性皮膚炎の代表的なサイトカインのシグナル伝達に関わるJAK1/JAK2を阻害することで、炎症や痒みを抑えます。
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤(内服):バリシチニブ(オルミエント®)は、アトピー性皮膚炎の代表的なサイトカインのシグナル伝達に関わるJAK1/JAK2を阻害することで、炎症や痒みを抑えます。
オルミエント®の適応基準・投与方法・臨床効果
- 既存治療で効果不十分な成人の方
(基本はストロングクラス以上のステロイド外用薬、もしくはタクロリムス外用薬を6か月以上使用しても効果が不十分な方が対象となります。医師が適応の有無を判断します。) - 投与方法:通常、4mgを1日1回内服して頂きます。医師の判断によっては2mgに減量する場合もあります。
- 臨床効果:投与後16週のEASI 75(皮疹の重症度や皮疹の面積などをスコア化したEASIスコアが、投与開始時から75%以上改善した患者の割合)達成率が47.7%と高い効果を示しています。また、かゆみも改善し、睡眠や生活の質にも良い影響を及ぼすと報告されています。しかし、副作用として風邪(上気道感染)や単純ヘルペスが出現することがあります。
リンヴォック®の適応基準・投与方法・臨床効果
- 既存治療で効果不十分な12歳以上の方(基本はストロングクラス以上の外用薬、もしくはカルシニューリン阻害外用薬等を6か月以上使用しても効果が不十分な方が対象となります。医師が適応の有無を判断します。)
- 投与方法:通常、成人の方は15mgを1日1回内服して頂きます。なお、状態に応じて30mgに増量する場合もあります。また通常、12歳以上かつ体重30kg以上の小児の方は15mgを1日1回内服して頂きます。
- 臨床効果:投与16週時におけるEASI-75達成率は15mg群64.6%、30mg群77.1%、プラセボ群26.4%でした。プラセボ群と15mg群及びプラセボ群と30mg群との各対比較において、いずれの評価項目についても統計学的に有意な差が認められ、プラセボ群に対する15mg群及び30mg群の優越性が検証されております。しかし、有害事象として主に上咽頭炎、ざ瘡、上気道感染、頭痛、血中クレアチニンホスホキナーゼ増加、咳嗽、下痢が出現することがあります。
デュピルマブ(デュピクセント®)、バリシチニブ(オルミエント®)は、既存の治療薬と比較して効果の高い薬剤ですので、これまで様々な治療を行ってきたにも関わらず症状が安定しない方や、重症度の高い方、新しい治療薬に興味のある方は、当科に御相談にいらして下さい。