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よくあるご質問・腎臓編

腎臓編 (関根孝司 教授)

  • 尿の流れ: 腎臓→尿管→膀胱 尿の流れ:腎臓→尿管→膀胱
     腎臓は小豆のような形をした臓器で、大人では手拳大(約10cm)で左右一つずつあります。背中に近い位置にあり、腎臓に炎症(腎盂腎炎)を起こすと背部に痛みを感じます。
    腎臓の働きはいくつもありますが、最も重要な働きは「血液の浄化作用(血液をきれいにすること)」です。人が食べた食物の中で体に必要なものは栄養素として大切な働きをしますが、不要な代謝物や、環境物質、あるいは、薬物は腎臓から尿中へ排泄されます。腎臓はこのように体にとって有害な物資を尿中に排泄し、血液を常にきれいな状態に保っていくのになくてはならない臓器です。
  • むくみ
     上記でご説明したように、腎臓は血液浄化に中心的な働きをしています。河川には浄化場がありますが、浄化場では家庭や工場からだされた廃液をきれいにして河川に戻しています。浄化場がなくなったら、河川は汚れてしまいますね。腎臓の機能が低下すると、血液が浄化できなくなり、生体にとって有害な物質が蓄積してしまいます。こうした状態を尿毒症と呼びます。
     腎臓は、血液を浄化するだけでなく過剰な水分やミネラル(ナトリウムやカリウムなど)も排出しています。腎臓の機能が低下すると水やNaなどのミネラルの排泄も悪くなり、「むくみ(浮腫)」がでてきます。
  •  現在日本では、3歳半と、学童期(小学校~中学校)に毎年、尿検査(検尿)が行われています。検尿に調べている項目は、血尿(尿に血が混じる)、蛋白尿(尿に蛋白が混じる)、糖尿(尿に糖が出る)の3項目です。
     腎臓は「血液をきれいにする臓器」でした。それでは腎臓ではどのようにして血液をきれいにしているのでしょうか?
     腎臓には心臓から出た血液のおよそ20%が流れ込みます(大変に多い量です)。腎臓に流れ込んだ血液は、しだいに枝分かれし、最後にはとても細い血管の塊(糸玉のようの形をしているので、糸球体と呼ばれています)に到達し、その場所で「濾過」されます。コーヒーをろ紙で濾過するのと同じです。糸球体では血液が濾過されますが、血液の赤い成分である「赤血球」は濾過されません。コーヒーのろ紙が、挽いたコーヒー豆を濾過しないのと同じです。また体に必要な「蛋白」も濾過されません。このように、糸球体では血液の液体成分とミネラル分が濾過されるだけで、血液や蛋白は濾過されません。
     腎臓に炎症や異常が生じると、本来濾過されない、「赤血球」や「蛋白」が濾過されてしまい、尿に出てきます。この状態を血尿、あるいは、蛋白尿と呼んでいます。血尿や蛋白尿は、「腎臓で何か異常がおきている」ことを私たちに教えてくれます。
  •  血尿や蛋白尿はいろいろな原因で生じます。ですから、学校や幼稚園の検尿で「異常がある:血尿、あるいは、蛋白尿がある」といわれてもすぐに腎臓の病気というわけではありません。
     ただ、正常な人では血尿や蛋白尿は出ませんので、これらの異常があれば必ず、専門医(小児腎臓専門医)を受診してください。血尿や蛋白尿が認められた場合に考えられる疾患として次にご説明する、腎炎、ネフローゼ症候群があります。

    【腎炎とは】

     腎炎とは、「腎臓に炎症がおこっている状態」を示します。腎臓が血液浄化のために血液を濾過している場所を「糸球体」と呼ぶことを上記でご説明しました。腎炎のほどんどは「糸球体」に炎症を起こすため、腎炎のことを「糸球体腎炎」とも呼びます。
     腎炎では血液を濾過する部分に炎症がおこるので血尿や蛋白尿が生じるのです。コーヒーのろ紙のたとえでいえば、「ろ紙に小さな穴や亀裂(炎症)ができてしまい、コーヒー豆まで濾過されてしまう」と説明すればご理解いただけるでしょう。
     腎炎(糸球体腎炎)はさらに、「急性糸球体腎炎」と「慢性糸球体腎炎」の2つに分けて考えることができます。また、全身の病気の症状の一つとして腎臓に炎症がおきる場合(ループス腎炎、紫斑病性腎炎など)があります。以下、それぞれについて説明します。

    【急性糸球体腎炎】

     腎炎のなかで、「溶連菌(溶血性連鎖球菌)」という細菌感染のあとにおこる「一時的(急性)な腎炎」です。溶連菌はのどの強い炎症(扁桃炎)や、皮膚の化膿をおこすありふれた細菌ですが、溶連菌感染症にかかった数週間後に、血尿、蛋白尿、体のむくみ(浮腫)、高血圧などが突然におこる病気が急性糸球体腎炎です。症状は軽いもの(血尿などの尿異常のみ)から、腎臓の機能が一時的に低下して強いむくみ、高血圧を示すものまで様々です。
     自然治癒する傾向が強い病気ですが、血尿、蛋白尿などがあるときは十分な注意が必要です。

    【慢性糸球体腎炎(IgA腎症、膜性増殖性腎炎、膜性腎症など)】

     急性糸球体腎炎と異なり、原因がはっきりせず、徐々に糸球体での炎症が進行していくものです。慢性糸球体腎炎には、IgA腎症、増殖性腎炎、膜性増殖性腎炎、膜性腎症など様々なものがあります。それぞれが特徴的な腎臓での炎症像(変形の様子)を示し、治療もそれぞれ異なります。慢性腎炎は小児の腎臓専門医の診察と治療が必要です。

    【全身疾患に伴う腎炎(ループス腎炎、紫斑病性腎炎)】

    血管性紫斑病での紫斑 血管性紫斑病での紫斑
     急性糸球体腎炎や慢性糸球体腎炎は、「腎臓に炎症がおこっている」ことが病気の本態です。一方、膠原病と呼ばれる病気や、アレルギー性紫斑病(血管性紫斑病、アナフィラクトイド紫斑病とも呼びます)にかかった時に腎臓に炎症が生じることがあります。膠原病の中ではとくに全身性ループスエリテマトーデスという病気(若い女性に多い疾患で、小学校高学年~高校生くらいで発症することもあります)には腎炎が伴うことがとても多いです。
     アレルギー性紫斑病は、皮膚の赤い発疹(紫斑)、腹痛、関節痛を症状とする小児に多い病気ですが、アレルギー性紫斑病の患者さんに腎炎がおきることもあります。
     こうした全身疾患に伴う腎炎も小児の腎臓専門医の治療が必要です。

    【ネフローゼ】

     これまで「腎炎」についてご説明してきました。腎炎は血尿と蛋白尿がともにでることが特徴です。もう一つ、腎臓病の代表として「ネフローゼ」があります。
     ネフローゼは、「多量の蛋白が尿中に漏れだし、その結果として体がむくむ」病気です。ネフローゼではむくみのために体重が5~10kgも増加してしまうことがあります。ネフローゼにはステロイド薬(副腎皮質ホルモン)がとても有効で、ステロイドが効けばむくみはすぐに解消されます。
     一方、ネフローゼは再発しやすいことが特徴でもあり、ステロイドで治療して病気が良くなり、ステロイドを中止した後に、病気を繰り返すことがあります。またステロイド薬は効果も抜群ですが、副作用もあり使用には注意が必要なお薬です。ネフローゼの治療も腎臓専門医が担当します。
  •  膀胱や腎臓に細菌が入り、頻尿、排尿痛、残尿感、発熱などをともなう疾患が尿路感染症です。尿路感染症は珍しい疾患ではなく、大人(特に成人女性)では、膀胱炎や腎盂腎炎をおこした経験のある方も珍しくないと思います。
     一方、小児(特に2才ころまでの乳幼児期)の尿路感染症は注意が必要です。この時期に発見される尿路感染症の多くは「腎盂腎炎」で、「腎臓に細菌が侵入し炎症をおこしている状態」です。乳幼児の腎盂腎炎は、「原因不明(発熱以外の症状がない)の高熱」として発症することが大半です。乳幼児の原因不明の発熱をみたら、「腎盂腎炎では?」と考え、検尿することが必要です。
     腎臓は血液がとても多い臓器であり、腎臓に細菌が侵入すると、血液にまで細菌が進出していく(敗血症)こともあります。ひどい場合には脳にまで細菌が侵入します(髄膜炎)。乳幼児は免疫力が弱いので、敗血症や髄膜炎に至ることもまれではありません。
     乳幼児の尿路感染症でもう一つ注意が必要なのは、「乳幼児の尿路感染症の30~50%に尿路の先天的な異常が隠れている」ことです。乳幼児が尿路感染症をおこした時は、尿路感染症の治療のみならず、その基礎疾患(隠れている尿路異常)について調べることも重要です。
  •  夜尿は、決して少ないものではなく小学校中学年以上まで持続するお子さんも多数おります。夜尿は成人するまでにほとんど全てが消失しますので、怖れるような病気ではありません。ただ、夜尿の頻度が多かったり、修学旅行や林間・臨海学校などの宿泊行事がある時期まで夜尿が続く場合にはご本人、また、親御さんが心理的な重圧を強く感じることがあります。夜尿のパターンはいくつかありますが、そのパターンを見分け、生活指導をすることで軽度なものはかなりの改善が見られます。また夜尿アラームや、薬物療法も有効です。
     夜尿に悩んでいらっしゃる方も是非、腎臓専門医の意見をお聞きになることをおすすめします。
    おねしょ

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