研究

研究
大橋病院麻酔科では全身麻酔症例および集中治療室で治療中の症例を対象とした臨床研究を重視して研究を行っています。すでに倫理委員会での承認を取得し、研究準備段階、研究施行中および結果解析中の研究として以下のようなものがあります。
(1) 脈波信号による心拍出量の非侵襲的推定
麻酔管理の要点の一つとして手術中の患者さんの血圧、脈拍、酸素飽和度などを持続的に看視することが挙げられます。但し手術に伴う合併症のリスクが高い患者さんでは心拍出量という指標も看視し、これを最適化することが推奨されています。本研究では腹部の手術を受ける患者さんを対象として動脈圧波形、脈波波形を解析し、これらから心拍出量を推定する方法を検討しています。本研究に関連する課題で平成24年から3年間、科学研究費補助金、基盤(C)を獲得しました。
(2) 全身麻酔中に投与する輸液剤が血行動態に及ぼす影響の比較
上記の研究と関連して、心拍出量を最適化する手段として輸液剤の投与がしばしば行われていますが、複数存在する輸液剤を、どのように選択するのが最も適切か、については不明な点が複数あります。本研究では腹部の手術を受ける患者さんを対象として輸液剤毎の血圧、心拍出量に及ぼす影響を比較することを目的としています。本研究に関連する課題で平成28年度から3年間、科学研究費補助金、基盤(C)を獲得しました。
(3) 術中輸液が水分の体内分布および凝固機能に及ぼす影響
輸液剤の選択には上述したような血圧、心拍出量以外に輸液剤の体内分布および凝固機能に及ぼす影響も考慮する必要があります。本研究では輸液剤が手術中の患者さんの水分分布および凝固機能に及ぼす影響を膠質浸透圧測定、血液粘弾性試験という手段を用いて解析することを目的としています。すでにデータの収集は終了し、現在解析中です。
(4) 非観血血圧測定の性能向上
麻酔中の患者さんの血圧測定はオシロメトリック法と呼ばれる方法で測定することが一般的です。より短時間に、少ない負担で血圧測定が可能となるよう、医療機器メーカーと共同して研究を行いました。すでにデータの収集は終了し、現在解析中です。
(5) 脈波伝搬時間を用いた血圧変動の予測
麻酔中の患者さんの血圧測定は5分毎に測定することが一般的です。最近の研究からは比較的短時間の血圧低下が手術後の心筋傷害、腎傷害などのリスクを増加させることが明らかになっており、血圧低下を予測することの重要性が認識されています。本研究では医療機器メーカーと共同して心電図、パルスオキシメーターの脈波信号から得られる脈波伝搬時間という指標を用いて血圧変動を予測する方法を模索しています。2021年度中に学会発表を予定しています。
(6) 外科手術における術中筋弛緩モニタの実用性向上に関する研究
全身麻酔中、とくに腹部の手術では手術操作を容易にする目的で神経筋遮断薬が用いられます。一方、手術終了時には神経筋遮断薬の作用が完全に消失している必要があります。しかし、主観的な神経筋遮断薬の効果判定は不正確で、筋弛緩モニタを用いた客観的評価が必要とされています。本研究ではより簡便かつ正確な筋弛緩モニタリングを可能にすることを目的とし、現在日本大学、旭川医科大学、川崎医科大学と多施設共同研究を実施中です。なお、本研究に先行する多施設前向き研究により2014年度日本臨床麻酔学会MSD awardを受賞しました。
(7) ICUでの人工呼吸離脱のリスク因子の解析
ICUで48時間以上人工呼吸を継続した患者さんを対象として、人工呼吸からの離脱が不成功となるリスク因子を前向きに収集したデータを用いて検討する観察研究です。大阪大学、大阪府立急性期・総合医療センターなどとの共同研究として実施し、すでにデータの集積を終了し解析中です。
(8) 麻酔中の積極的な無気肺防止による肺合併症予防効果の検討
肺炎を含む術後肺合併症は喫煙、肥満、慢性閉塞性肺疾患などのリスク因子を有する患者を中心に発症すると考えられてきましたが、最近は健常な手術患者さんにおいても麻酔中の無気肺形成が合併症を引き起こしている可能性が指摘されています。実際に麻酔中の積極的な無気肺防止が肺合併症を予防しうるかどうかに関して腹腔鏡で腹部の手術を受ける患者さんを対象として、研究を立案していましたが、この度、大阪大学、神戸大学など複数の施設での共同研究として開始することになりました。
(9) 人工呼吸離脱時の呼吸仕事量の非侵襲的評価
ICUにおける治療を必要とする重症患者さんの多くで呼吸不全が発生し、人工呼吸が行われますが、可能な限り早期に人工呼吸から離脱をはかることが推奨されています。過剰あるいは過小な呼吸補助を回避し、早期に人工呼吸からの離脱をはかるためには人工呼吸器による呼吸補助と患者さん自身の呼吸筋による仕事が適切に分配されている必要があります。これを評価することを目的として、ICUにおいて人工呼吸を受けている患者を対象として酸素代謝の観点から呼吸仕事量の定量的評価を試みています。
(10) 客観的運動予備能評価に基づいた高齢患者の全身麻酔リスク解析
高齢の患者さんが全身麻酔下に手術を受ける際の術後合併症のリスクは術前の運動予備能と逆相関することが知られています。しかし、現時点での活動度評価は主観的で患者さんの自己申告に依存しており、客観的な活動度評価の確立が望まれる状況にあります。手術前の患者さんの酸素消費量および入院後の活動度が運動予備能の客観的指標となる可能性があることから、大きな手術をうけられる患者さんを対象として入院時の酸素消費量と入院から手術までの活動度を測定し、活動度の客観的指標となり得るかどうかを明らかにしようと考えています。本研究に関連する課題で令和元年度から3年間、科学研究費補助金、基盤(C)を獲得しました。
(11) 透析依存腎不全が開心術後凝固機能に及ぼす影響の解析
透析治療を受けている患者さんが手術をうける場合に止血機能が障害されていることに注意が必要と考えられてきましたが、具体的にどのような影響を受けているかは明らかではありませんでした。本研究では透析治療を受けている患者さんが心臓手術をうけた際の止血機能のデータを用いて、後ろ向きに解析を行っています。現在、解析は終了し、論文化を目指している段階です。
(12) 手術によって生じる炎症反応が体内水分分布に及ぼす影響の解析。
大きな手術は強い炎症反応を引き起こし、この炎症反応によって血管内から血管外への水分の移動が生じると考えられています。本研究では水分の移動を体重の変化と体組成の変化によって評価し、手術による炎症反応を反映する血中の急性期反応タンパクの濃度との関連を調査することを目的としています。6時間以上の手術を受け、術後ICUで治療を継続される患者さんを対象として研究を開始しました。
近年の論文
- Toyoda D, Maki Y, Sakamoto Y, Kinoshita J, Abe R, Kotake Y.: Comparison of volume and hemodynamic effects of crystalloid, hydroxyethyl starch, and albumin in patients undergoing major abdominal surgery: a prospective observational study. BMC Anesthesiology 2020;20:141
- Kimura Y, Maki Y, Toyoda D, Kotake Y.: Prediction of intraoperative pressure responsiveness by dynamic arterial elastance in patients undergoing major abdominal surgery. Toho J Med. 2019; 5:120-7
- Maki Y, Toyoda D, Tomichi K, Onodera J, Kotake Y: Association of oral intake and transient mixed venous oxygen desaturation in patients undergoing fast-track postoperative care after open-heart surgery. J Cardiothorac Vasc Anesth 2018; 32: 2236-40
- Kotake Y: The recent development about fluid management in patients under surgical stress. Toho J Med. 2016; 3: 73-9
- Kotake Y: Unmeasured anions and mortality in critically ill patients in 2016. J Intensive Care 2016; 4: 45
- Toyoda D, Fukuda M, Iwasaki R, Terada T, Sato N, Ochiai R, Kotake Y: The comparison between stroke volume variation and filling pressure as an estimate of right ventricular preload in patients undergoing renal transplantation. J Anesth 2015; 29: 40-6
- Toyoda D, Yasumura R, Fukuda M, Ochiai R, Kotake Y: Evaluation of multiwave pulse total-hemoglobinometer during general anesthesia. J Anesth 2014; 28: 463-6
- Toyoda D, Shinoda S, Kotake Y: Pros and cons of tetrastarch solution for critically ill patients. J Intensive Care 2014; 2: 23
- Kotake Y, Fukuda M, Yamagata A, Iwasaki R, Toyoda D, Sato N, Ochiai R: Low molecular weight pentastarch is more effective than crystalloid solution in goal-directed fluid management in patients undergoing major gastrointestinal surgery. J Anesth 2014; 28: 180-8
- Kotake Y, Ochiai R, Suzuki T, Ogawa S, Takagi S, Ozaki M, Nakatsuka I, Takeda J: Reversal with sugammadex in the absence of monitoring did not preclude residual neuromuscular block. Anesth Analg 2013; 117: 345-51
- Onodera J, Kotake Y, Fukuda M, Yasumura R, Oda F, Sato N, Ochiai R, Usuda T, Kobayashi N, Takeda S: Validation of inflationary non-invasive blood pressure monitoring in adult surgical patients. J Anesth 2011; 25: 127-30