患者さんへ

メニュー

成人先天性心疾患(Adult with congenital heart disease: ACHD)とは

 先天性心疾患とは生まれつきの心臓の病気のことです。最近では、この先天性心疾患における診療体制が確立されて、多くの患者さんがより安全に小児期に手術を受けることができるようになりました。これにより、先天性心疾患患者さんの術後経過は大きく改善しました。
今や全体の95%以上が20歳を迎えるようになり、毎年約1万人ずつ先天性心疾患をもった患者さんが増えています。

成人先天性心疾患患者さん(ACHD)は、複雑な病態で、個体差が大きく、患者さん一人ひとりが、それぞれ特有の問題を抱えていることが多いと言われています。もともとが小児科領域の病気なので、従来は小児科の医師がその患者さんを生涯診てきましたが、整備しなくてはいけない問題が山積していることが、少しずつわかってきました。また心疾患に関して心不全と不整脈、この大きな問題を生涯管理するには、成人循環器内科の診療技術も必要であることもわかってきました。

こういった背景から、特に循環器領域においては、ACHDという新しい診療対象が認識されるようになり、一つの分野として確立され、専門医制度もできました。近年の医療の発展、新しい手術方法などにより、成人循環器疾患で確立された方法が、少しずつACHD領域にも応用されています。

特に手術/カテーテル治療などは日進月歩であり、合併症が減少し、成績は向上しています。ACHDはまだまだ新しい診療概念です。そのため、医学的に証明されていないことが多く存在します。妊娠、移行医療、ドロップアウト患者さんへの働きかけ、生涯におけるより良い生活の質(Life-time managementを含む)の獲得、等に関する事項はACHD患者さんにとって、とても重要であります。

こういった問題を医師(循環器内科、小児科、産婦人科、糖尿病科)のみならず、看護師、ソーシャルワーカー、心理士さんで協力して、ACHD患者さんをサポートしていく必要があります。

1.当院の診療体制

 東邦大学医療センター大森病院はACHDの連携専門施設であり、ACHD専門医が常勤しています。当施設では、ACHD患者さんに対して質の高い医療を提供することに注力しております。

最先端の低侵襲カテーテル治療(体に少ない負担で行う治療法)や心臓手術、また看護ケアやカウンセリングとも密に連携し、患者さん一人ひとりに合わせた総合的なケアを提供しています。

当院は、最新の医療技術と総合的なケアを通じて、ACHD患者さん一人ひとりに最適な治療を提供することを目指しています。

2.安全な妊娠・出産のために

妊娠・分娩時に生じる母体の変化
 妊娠中、母体には様々な体の変化が生じますが、特に顕著なのが循環動態(血管、心臓など循環系を流れる血液の状態のこと)の変化です。妊娠中は、胎盤を通じて胎児の成長に必要な血液を供給する必要があり、分娩時の出血にも備えなければなりません。

 心拍出量(心臓から1分間に送り出される血液量)は妊娠前の1.5倍まで、心拍数(1分間に心臓が拍動する回数)は妊娠前の1.2倍まで増加し、母体の心臓には通常より負荷がかかることとなります。ほとんどの妊婦さんはこれらの変化に対応することが可能ですが、心疾患などの合併症を持っている妊婦さんには、重大な問題が生じる可能性があります。


心疾患をもつ女性の妊娠・出産リスク
 先天性心疾患治療の進歩により患者さんの予後は著明に改善してきました。それに伴って、ACHD(成人先天性心疾患)女性の妊娠・出産をどのように安全に管理していくかが重要な課題となっています。

 「先天性心疾患」といってもさまざまな種類があり、同じ診断名であってもその程度、治療後の経過、症状の進行具合は一人一人異なります。よって、「ACHD患者」としてひとくくりにするのではなく、患者さんごとにリスクを評価し、対応していくことが必要となります。


プレコンセプションケアとは
 プレコンセプションケアとは、「妊娠前の女性・カップルが、安全な妊娠出産をめざすため、実際に妊娠する前に、将来の妊娠に備えて現在の自分たちの健康状態と向き合うこと」を指します。

 ACHD患者さんが、妊娠・出産した際に生じうる母体・胎児のリスクについて、そして産まれてくる子供への遺伝的な影響について、あらかじめ知識を得ておくことで、①母体に合併症がおこる危険性をできる限り低くし、母児にとって安全な妊娠出産を目指す、そして②叶えられたはずの妊娠断念を防ぐことを目的として、当院は2023年「プレコンセプション外来」を産婦人科に開設しました。


当院のプレコンセプション外来
 妊娠、出産に関して、これまで医師からどのように聞いていますか?患者さんご本人、そしてご家族は、今後の妊娠・出産についてどのようなお考えをお持ちでしょうか?

 プレコンセプション外来受診をご希望の方は、まず、心疾患を管理する主治医にご相談ください。プレコンセプション外来で特に知りたい内容がございましたら、事前に主治医へお伝えいただけると、その後の外来が円滑に進みます。

 主治医の先生より事前の情報提供をいただいた上で、プレコンセプション外来担当医内でのミーティング、月1回多職種が参加するACHDカンファレンスでの事前相談を経て、当日、患者さん専用の資料を用いたカウンセリングを産婦人科医がおこないます。もし、生理に関する問題などもあり婦人科的な診察が必要と考えられる場合は、同日婦人科診察をおこなうことも可能です。

 プレコンセプション外来での内容は、心疾患を管理する主治医とも共有させていただき、その後のフォローを行っています。
Spotlight
小原浩先生
小原浩先生
東邦大学医療センター大森病院
循環器内科 助教

ヒトの心臓は2つの心房と心室を基本構成とし、その中,にある様々な組織(心筋)と連結して複雑な構造をしています。その基本構成のどこかに生まれつき異常を呈しているものを先天性心疾患と呼びます。本疾患は非常に多種多様ですが、患者さんが幼少期に心内修復手術を受けている場合、構造はさらに多様化します。一部の成人した先天性心疾患患者(成人先天性心疾患患者:ACHD)さんは、術後の薬物療法だけでは不十分で、時間が経ってから再度手術が必要となることがあります。

ACHDの再治療は開胸手術が基本となり、時に大きな侵襲を伴います。手術により心疾患は安定化するものの、手術侵襲により体力が低下する、ということが懸念される方においては、従来より手術に踏み切れないことがありました。しかし2004年より心房中隔欠損症に対する経カテーテル的閉鎖術が本邦で可能となり、現在では多くの方がカテーテル治療によって治療されるようになりました。また2022年に経カテーテル的肺動脈弁留置術(TPVR)が登場したことによって、ファロー四徴症の術後遠隔期に発生する肺動脈弁疾患にも少ない負担で治療が可能となりました。多くの心臓手術が人工心肺を用いた開胸手術であるのに対し、カテーテル治療は「胸を開かない」、「心臓を止めない」低侵襲な方法です。致死的な合併症は少なく、従来の開胸手術による方法と遜色のない良好な成績が得られるため、治療の選択肢が増え、それぞれの患者さんにあった、より良い治療を提供することができると思います。

私は東邦ACHDチームの心臓エコーを担当しております。ご心配なことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

3.看護師の関わり

 医療の進歩によって、20歳を超える先天性心疾患を持った患者さんが増えているのに伴い、専門的な治療を受けながら成人期を過ごす患者さんが増えています。当院でも、先天性心疾患をはじめとして、腎疾患、内分泌・代謝疾患、小児がんの患者さんが専門的治療を受けながら、進学や就職、結婚などを経験しています。

このようなライフイベントを経験しながら、病気を理解して、自分で医療的ケアを続けていくのは容易なことではありません。また、保護者(ご家族)の皆さんは、患者さんが自立できるように見守りが必要です。このような患者さんと保護者(ご家族)の皆さんに対する支援を成人移行支援と言います。

 当院では、成人移行支援の視点を踏まえて、循環器疾患を中心としたACHD定例多職種カンファレンスを行っています。カンファレンスには、医師(循環器内科・小児科・心臓血管外科・産婦人科・腎センター)・看護師(小児看護専門看護師・成人循環器病棟看護師・循環器外来看護師)・医療ソーシャルワーカーが参加しています。様々な患者さんのニーズに対応するために、各職種の専門性を発揮できるように話し合いを行っています

看護師は、患者さんが成長に合わせたケアを受けられるよう、循環器外来・小児病棟・成人循環器病棟で情報交換を行い、継続したフォローを目指しています。
 小児病棟においては、お子さんのうちから成長に合わせた自立を促し、本人の意思を尊重できるよう、医師と看護師、チャイルド・ライフ・スペシャリストが協力して関わっています。看護師は、お子さんと保護者(ご家族)の自立を促すための関わりと、他の職種との橋渡しを行っています。今後は、成人した患者さんへの継続したケアができるよう、成人循環器病棟や循環器外来での活動を検討していきます。

4.肺高血圧症に対する取り組み

 当院の小児循環器科では、先天性心疾患、肺高血圧症(肺の血管がいたみ、圧力が高くなる病態)、川崎病(心臓の血管がいたむ病気)などの診療を中心に行っております。周術期管理(手術前後のケア)、カテーテル治療なども積極的に行っており、小児循環器修練施設の一つとなっております。

小児期発症の先天性心疾患患者さんが、近年の手術成績の向上に伴い長期生存が望める時代となった一方で、一部の患者さんでは肺高血圧をはじめとした様々な残存病変が認められ、継続的かつシームレスな診療が必要になっております。近年の肺高血圧治療の進歩はめざましく、致死的な病態と言われた時代から生命予後が飛躍的に改善されており、肺高血圧を合併した患者さんを多く診療してきました。

本邦では、当院を含めていくつかの施設が肺高血圧症領域でリーダーシップをとり、診療を行っております。東邦大学ACHD診療体制の中で小児期から成人期に渡り管理や治療を行っており、より専門的な診療を提供することが可能です。

5.ACHD患者さんに対する心臓手術の特殊性

 生まれつき心臓に異常がある先天性心疾患(CHD)は小児期における治療成績の向上に伴い、多くの患児が成人となることが可能となりました。CHD 手術の多くは、根治手術(正常心にする手術)ではなく修復手術(整える手術)であり、基礎疾患により術後の遺残症・続発症を伴う場合があります。加齢とともに後期合併症としての心不全や不整脈を生じ、心理社会的問題や心臓病以外の全身臓器の合併症を伴うことも少なくないです。

手術は小児・成人ともに十分な経験を有する術者が必要だが、血管内治療を含めた心臓血管外科分野の進歩を鑑みると、最適な治療を提供するために全てにおいてアップデートを続けることは難しく、内科管理の移行同様で手術においても、小児・成人チームの連携が不可欠であることは、継続的で安全な医療を提供する上で重要です。
 小児・成人心臓血管外科治療ともアクティブなチームかつ、生活習慣病を含めた全身臓器疾患や心理的問題を含めた包括的サポート体制が、ACHD専門施設には求められています。

6.ACHDに対するカテーテル治療

成人先天性心疾患診療チーム

循環器内科

小児科

心臓血管外科

東邦大学医療センター大森病院・地域連携部門では、医療連携を推進するため他院からのご紹介患者さんを対象とし、診療・検査の予約をお受けしております。
診療予約は電話またはFAXにて、検査予約は電話のみにて、お受けしております。
事前に予約を承った患者さんは、紹介患者専用受付窓口(パートナー受付)で手続きを行い、より優先し快適な診療行為が 行えるよう取り組んでおります。是非ご利用ください。

地域連携部門でお受けしている予約は、診療予約、検査予約、個人・集団栄養指導予約があります。救急患者紹介においても地域連携部門にお電話でご連絡いただければ、担当事務員が迅速に対応いたします。スタッフ一同、患者さんの期待に応えられることを誇りとして、信頼される医療連携を目指して取り組んで参ります。

【紹介元医療機関専用ダイヤル】
 TEL:   03-3762-6616(直通)
 月~金曜日: 8:30~17:00
 土曜日:   8:30~14:00
 (第3土曜・日曜・祝日・年末年始・創立記念日(6/10)を除く)
 E-mail:   renkei.omori@med.toho-u.ac.jp

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大森病院 循環器内科

〒143-8541
東京都大田区大森西6-11-1
TEL:03-3762-4151(代表)