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大動脈弁狭窄症の診断と治療

心臓の構造

心臓内には4つの部屋それぞれに弁(ドア) があります。
心臓の構造

大動脈弁狭窄症

大動脈弁が硬くなり、開きが悪くなることで血液の流れが妨げられてしまう疾患です。
大動脈弁狭窄症

大動脈狭窄症の症状

息切れ動悸疲れやすさなどの症状が徐々に進行し、胸痛失神心不全などを発症すると2-5年のうちに命を落とすと報告されています。
大動脈狭窄症の症状

各治療法の特徴

外科的治療

  • 症状の緩和や進行の抑制を行います。
  • ただし悪くなった弁は薬で元通りに治すことはできません。
    弁を根本的に治すには、外科的治療が必要になります。

外科的治療

  • 大動脈狭窄症の標準的な治療法です。
  • 開胸、心停止下に硬化した大動脈弁を取り除き、正常に機能する人工弁を縫着します。
  • ただし開胸が必要など負担がやや大きいです。

経カテーテル大動脈弁留置術:TAVI

  • 開胸せず、心臓を止めることなく、カテーテルを使って人工弁を患者さんの心臓に留置します。
  • 体への負担が少なく入院期間も短くすみます。
  • 高齢のために体力が低下している患者さんや、その他の疾患のリスクを持つ患者さんが対象です。
各治療法の特徴

TAVIの適応

年齢80-85歳以上
   
  • 虚弱な方
  • Porcelain Aorta(全周性の大動脈石灰化)
  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)
  • 頚部動脈狭窄
  • 冠動脈バイパス術後
  • 狭小弁輪
  • 胸壁奇形
  • 放射線手術
  • ステロイド内服 10mg以上
  • STS score ≧8%, EuroSCORE ≧20%
  など

大動脈弁置換術

胸骨正中切開、胸骨部分切開、右肋間開胸にて行い、人工心肺(心停止時に全身に血液を灌流する体外循環装置)を用いて、石灰化・変性した大動脈弁を摘出し、新しい人工弁(機械弁、生体弁)を移植します。
同時に、冠動脈バイパス術、僧帽弁手術、三尖弁手術、大動脈手術、不整脈手術、左心耳閉鎖などの複合手術が必要な場合や、胸郭の解剖条件によっては、胸骨正中切開法が推奨されます。
  • 手術時間:約4時間(複合手術を除く)
    術後集中治療室滞在:2日間
  • 一般病棟における術後心臓リハビリテーション:約2週間
    退院後外来:退院後2週間
大動脈弁置換術
大動脈弁置換術

合併症

  • 術中や術後出血に対する輸血療法に起因する合併症:
    感染やアレルギーなど
  • 人工心肺に起因する合併症:
    血栓、塞栓、大動脈解離、血管損傷など
  • 術後低心拍出量症候群:
    心停止による心機能低下で全身の臓器に充分な血液が灌流さない状態
  • 不整脈:
    高度徐脈に対してはペースメーカー移植術が必要
  • 感染:
    肺炎、創感染、胸骨骨髄炎、縦隔洞炎、敗血症、人工弁感染など
大動脈弁置換術 文責:
東邦大学医療センター大森病院 心臓血管外科
藤井毅郎

TAVIの手技

  1. 小さく折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを、太ももの付け根の小さな穴から動脈にいれて、心臓まで運びます。
  2. 大動脈弁の位置に到達したらバルーン(ふうせん)を膨らませ、生体弁を広げ、留置します。
  3. 生体弁を留置した後は、カテーテルを抜き取ります。
  4. 生体弁は留置された直後から、患者さんの新たな弁として機能します。
TAVIの手技
TAVIの手技

大動脈狭窄症の治療法の比較

  大動脈弁置換術 TAVI
(経大腿アプローチ)
人工心肺 不要
アプローチ経路 開胸 大腿動脈
侵襲度
(体の負担)
平均治療時間 4時間 2時間
平均入院期間 術後約2週間 約1週間
人工弁の
耐久性
生体弁:10-20年
機械弁:半永久的
現在の臨床データで
8年まであり
抗凝固療法 生体弁:治療後2-3か月
機械弁:生涯にわたり必要
なし
抗血小板療法 なし 治療後1剤または2剤
(チエノピリジン系、
アスピリン)
適応 虚弱ではない
左室流出路に伸びる石灰化 低い冠動脈入口部
僧帽弁逆流/僧帽弁狭窄
透析患者
石灰化を伴わない重症AS
虚弱
COPD(慢性閉塞性肺疾患)
頚部動脈狭窄
冠動脈バイパス術後
狭小弁論
胸壁奇形
Porcelain Aorta(全周性の大動脈石灰化)

TAVIの合併症

  1. 死亡(1.5%)
    開胸手術ができない高リスク患者さんに対する治療であり、手術自体のリスクは比較的高くならざるを得ません。
  2. 弁脱落 (1%)
    生体弁が弁輪部に圧着せず、左心室内や大動脈上部に脱落することがあります。緊急手術が必要です。
  3. 心室穿孔(0.5%)
    手術時には心臓内に固いガイドワイヤーを入れる必要があり、このガイドワイヤーによる心室穿孔が起こることがあります。
  4. 心タンポナーデ(0.6-4.6%)
    弁輪破裂、固いワイヤーによる左室穿孔、一時的ペースメーカーリードによる右室穿孔で心臓の周りに水が溜まり心臓を圧迫することがあります(心タンポナーデ)。皮膚から針を心臓に刺し、液を出す必要があります(心嚢穿刺)。
  5. 弁輪穿孔 (1%)
    高度に石灰化した大動脈弁の弁輪部に生体弁を留置する際、弁輪部の穿孔を来し、緊急開胸手術が必要になる場合があります。
  6. 冠動脈閉塞による心筋梗塞 (1-3%)
    大動脈弁の上部に、心臓に血流を送っている左右冠動脈の入り口があります。生体弁を留置した際に、冠動脈の入口を閉塞し、心筋梗塞を引き起こすことがあります。その場合、冠動脈にステント留置が必要です。
  7. 大動脈弁逆流症(7-10%)
    弁の石灰化などで生体弁を完全に圧着させることは困難です。このため留置後に高度な逆流を生じ(大動脈弁輪周囲逆流症)、予後悪化の原因となります。
  8. 緊急開胸手術
    心穿孔や予期せぬ合併症が生じて、緊急開胸手術を行わざるを得ない場合があります。元々手術が難しい患者さんですので、手術リスクは高くなります。
  9. 恒久的ペースメーカー埋め込み術(3-14%)
    大動脈弁の下に心臓の電気の通り道である刺激伝導系が走行しており、生体弁装着後、同部位の伝導障害により恒久的ペースメーカー植え込みが必要になる場合があります。
  10. 重篤な不整脈
    心臓に対する刺激で、心室頻拍症や心室細動、高度徐脈などの重篤な不整脈が出現することがあります。電気ショックや心臓マッサージが必要な場合があります。
  11. 穿刺部血管合併症(5-23%)
    鼠径部の動脈に太い管を挿入します。挿入した動脈の穿孔、仮性動脈瘤や動静脈瘻などのため外科的手術が必要となることがあります。また輸血が必要になることがあります。
  12. 脳梗塞(2-3%)
    カテーテルの通過に伴って、大動脈弁組織や大動脈壁の動脈硬化巣がはがれて飛んでいき血管の一部を詰まらせてしまうことがあります。脳梗塞の場合、麻痺や意識障害など重篤な合併症を起こすことがあります。
  13. 造影剤による臓器不全(急性腎不全など)(10-20%)
    造影剤を用いてレントゲン下に生体弁を留置します。この造影剤によって、まれにアレルギー反応や腎障害を引き起こすことがあります。高齢で腎機能が低下した患者さんでは治療後に透析導入が必要になる場合があります。
  14. 感染
    生体弁や創部に感染を引き起こすことがあり。敗血症など致死的合併症となることがあります。
  15. その他
    不測の合併症が起こることがあります。

東邦大学大森病院の弁膜症外来

 
午前
大久保
(内科)
天野
(内科)
益原
(外科)
益原
(外科)
藤井
(外科)
矢部
(内科)
代表Tel:03-3762-4151, パートナーTel:03-3762-6616
息切れ、心雑音などある方は、ぜひお気軽に受診ください
循環器内科、外科問わず、毎日受け付けております

TAVIハートチーム

TAVIハートチーム
循環器内科、心臓血管外科、麻酔医、エコー医、看護師、放射線技師、臨床工学技士、理学療法士(リハビリ)でハートチームを形成しております
TAVI 担当:
心臓血管外科 藤井 毅郎(左) 循環器内科 天野 英夫(右)
イラスト提供元:エドワーズライフサイエンス(株)
東邦大学医療センター 大森病院
特定機能病院、救命救急センター(三次救急)
東京都急性大動脈スーパーネットワーク重点拠点病院
CCUネットワーク加盟医療施設

お問い合わせ先

東邦大学医療センター
大森病院 循環器センター(心臓血管外科)

〒143-8541
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TEL:03-3762-4151(代表)