#7 子宮頸がんとワクチン(1) - ヒトパピローマウイルス

ウイルスとがん

 2019年に端を発した新型コロナウイルス感染症も3年目になりました。第七波が来ていますが、早く終息してほしいものです。

ところで、この2年以上にわたる状況の中で、ウイルスに対して理解の深まった方が多くなったのではないでしょうか。
ウイルスとは、最近よりもはるかに小さく、宿主、つまりヒトや動物に感染しないと自らは増殖できないものです。
「ウイルスに感染すると、がんになる!」
というのはすべての悪性腫瘍についてあてはまるものではありません。ただし、一部の悪性腫瘍では、ウイルスの感染が原因となることがわかっていて、ワクチンを打つなどの感染症対策を行うことで、がんの発症の予防効果があることが示されています。

ウイルスが関係している悪性腫瘍

 悪性腫瘍に関係しているウイルスは以下のものが挙げられます。

ヒトパピローマウイルス

英語では、Human PapillomaVirusと表しHPVと略されます。子宮頸がんの発症に関わるウイルスで、今後複数回にわけてそのことを解説します。

ヒトT細胞白血病ウイルス
英語では、Human T-cell Leukemia Virus Type1 (HTLV-1)と表し、成人T細胞白血病の発症に関わるウイルスです。母乳中の感染したリンパ球によって児に感染が起こり、長い年月をかけて成人T細胞白血病を発症することが知られています。このこともいずれとりあげたいテーマになります。

B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルス
Hepatitis B virus (HBV) とHepatitis C virus (HCV)は、ウイルス肝炎を引き起こすウイルスで、以前は輸血など血液製剤を介して感染することが問題となっていました。
B型肝炎ウイルスについては、出産時、母子感染対策の対象となっています。

EBウイルス
Epstein-Barr virus (EPV) は、伝染性単核球症という感染症に関わるウイルスですが、近年、バーキットリンパ腫といった 悪性リンパ腫や上咽喉癌の発症に関わっていることが明らかとなっています。
 
悪性腫瘍に関わっているウイルスとしては以上のものが明らかとなっていますが、将来的は新しいウイルスが発見される可能性はあるでしょう。

ウイルス感染で必ずしも「がん」になるわけではない

ウイルスに感染したことで、すぐさまがんが発症するという訳ではありません。
ウイルス感染の大半は、一時的なもので、炎症によって様々な症状を引き起こしますが、その後ウイルスが体からなくなれば影響はありません。
ただし、数年から数十年、感染が持続する「慢性的な感染状態」が続くことで、細胞に変化が起きると、発がんに繫がることがあります。
そのため、慢性的な感染状態を改善することで発がんにつながる状態を避けることができるようになりますし、そもそもウイルス感染自体を抑制することが効果的な場合もあります。

子宮頸がん組織からウイルスを発見

1983年、ドイツの Harald zur Hausen博士が、子宮頸がんの組織中にヒトパピローマウイルス(HPV)のDNAが含まれていることを発見しました。
HPVは、いわゆるイボなどの原因となるウイルスですが、百数十の型(タイプ)に分類されます。その中でも16型と18型のウイルスが、子宮頸がん組織に存在することを発見しました。
この発見により、後にzur Hausen博士はノーベル賞を受賞(2008年)しています。
今でこそ、先に述べたようにウイルスが発がんに関わることが明らかとなっていますが、当時は「まさかウイルスで発がんが起きるなんて」という懐疑的な意見も多かったようです。
しかし、その後、HPVの沢山のタイプ(型)の中から、子宮頸がんを引き起こしやすいハイリスク型が明らかとなり、その一部に対するワクチンが開発され、世界中に広まるという状況になりました。
zur Hausen博士のグループの発見のお陰で、今では世界中の多くの女性が、子宮頸がんの発症リスクを低く抑えられるという恩恵を受ける状況になっています。

投稿者:教授

トップページに戻る

Top