#3 アジサイとpH
2022年06月09日梅雨の季節、道ばたを歩いていると青や赤に咲き誇ったアジサイに出会う。
マンションやビルに囲まれた道路が多い東京では目にする機会は減ったが濡れそぼったアジサイは季節を感じさせてくれる。
子供の頃、学校に通う道の周りには田んぼが開け、この季節になると田植えの終わったばかりの水面に雨が紋様を描いていた。
そして、アメンボが水面をはって、その規則正しい紋様をかき消していた。あぜ道から田んぼの中をのぞくとカエルの卵をみつけることができた。
ぽつん、ぽつんと点在する民家の庭先にはアジサイが咲き誇り、その葉にはカタツムリがはっていた。
アジサイには私にそんな記憶を呼び覚ましてくれる優しさがある。
花であるようで花でない

アジサイは、紫陽花とも書く。道ばたでよく目にするような、あるいは、あじさい寺などのみられる鞠のような形のアジサイは改良種で、ガクアジサイが原種らしい。
真ん中の粒のようなものが花で、周りの花びらのようなものは実は萼(がく)である。つまりアジサイの花と思っているものは萼片の塊である。
移り変わる色とpH

アジサイの花言葉には諸説があるが「移り気」というのが多い。そこから「浮気」とか「無常」といった語句に繫がる。
言葉の通り、アジサイは色が変わる。青から次第に赤になることが多い。また、咲き始めた時にすでに赤いものもある。ただ、青いアジサイ、赤いアジサイがあるのではなく、土の性質などで色が決まる。
アジサイの色を決めるのは、土壌のアルミニウムで、酸性の土地ではアルミニウムが溶け出してアジサイの萼片で色素と反応して青い色となる。
アルカリ性の土壌ではアルミニウムが溶け出さず赤い色となったり、最初青かったのに途中からアルミニウムが少なくなると赤くなる。
今はマンション住まいだが、地方に住んできた頃、庭の片隅にアジサイを植えたところ、赤い花(ここでは便宜的に花としておく)が咲いた。
青い花が好きだったので、なんとかして青くできないかと思った。
土壌というのは酸性に傾いた場合は、石灰などを混ぜればアルカリ性になるが、その逆は難しく、青い花が良かったのになと思っていた。
ただ、当時、少し勘違いしたことがある。それは、「赤い」から酸性の土壌と思ったことだ。
小中学校の頃、リトマス試験紙で、酸性かアルカリ性か、という実験をよく行った。どうしてもその時の印象が強かったのだろう。赤=酸性、青=アルカリ性、と思い込んでいたようだ。
土壌のpHと花の色、というのも面白い。
余談になるが、さすがにリトマス試験紙はもう使わないが、産科では前期破水の検査で、BCP紙やエムニケーターと言われるpHで色の変化する機具を使用する。破水により羊水が流出することで、酸性の膣内が中性に傾くことを確認するためだ。色の変化というのは医療でも役に立っている。
梅雨のひととき
これからしばらくは雨に悩まされる時期となる。
豪雨による冠水や土砂災害は起きて欲しくないが、ジメジメとした季節を少しでも気持ちよく過ごすためにアジサイに想いを馳せるのも一興である。
投稿者:教授
カテゴリー:百家争鳴