#6 ブラックジャック

はじめて買った単行本

今回も思い出話みたいな内容になりますが、手塚治虫先生の「ブラックジャック」について語りたいと思います。
先日、初期臨床研修医の指導資格(準公的な資格)を取得する医師歴10年目前後の先生達が参加する指導医講習会にタスクフォースとして参加してきました(このことはまたいつか書きたいと思います)。
雑談の中で、どうして医師になったのか、という幼い頃の動機が大きく違っていることに時代の流れを感じました。
田んぼに囲まれ、小さな雑貨店しかない田舎で育った私には、本屋さんというものは未知のものでした。
もっぱら小学校の図書館で本を借りて読む、というのが外部の知識を書物から吸収するためには唯一の手段でした。
中学生になり、どうしても部活動に必要な用具を友達と買いに行くために出かけたときに小さな本屋さんに入ったのが、思い返すに大きな体験でした。
天井まで達する本棚にぎっしりと積まれた沢山の本を見ていて思わずわくわくしたものです。
マンガコーナーに立ち寄ったとき、吸い寄せられるように手にしたのが「ブラックジャック」でした。地方都市の商店街にある小さな本屋さんなので、品数は少なく、第2巻を買ったことを覚えています。

医師としての真骨頂

先の文章で手塚治虫先生と敬称をつけましたが、理由は、手塚先生の作品で私が大きな影響を受けたこと、そして、なんとなく医師になることを導いてくれたと思っているからです。
鉄腕アトムで有名な手塚先生ですが、大阪大学医学部を卒業された医師ということはあまり知られていないようです。
小さな頃から、昆虫の絵を描くことに秀でられていて、手塚先生のドキュメンタリー番組でその天賦の才能に驚いたものです。

エンターテイメントとしての漫画の重要性

「ブラック・ジャック」は、「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に1973年から連載され、その後、単行本として発刊されています。
教育には厳しかった両親は、姉が少女漫画(今は少女コミックといいますが)を買うことを嫌がっていましたが、わたしがお小遣いをはたいてブラックジャックを買うことには反対しませんでした。
当然ですがインターネットもなく、まだビデオデッキもない時代、テレビ番組は再放送が無ければ見逃すだけで、繰り返し楽しめるメデイアは漫画でした。
ですので、ブラックジャックをすり切れるように読み、お小遣いを貯めては別の巻を購入するために遠くの街まで出かけたものです。

多くの医師に影響を与えた作品

ブラックジャックには、240話を超えるエピソードがあります。
無免許医という設定がいかにも漫画らしい虚構ですが、人間味あふれる彼の行動と神の手の技に、医者家系でもなく医療に接することも無かった私には大きな感銘を与えてくれました。
もう二十年前以上でしょうか、日本産科婦人科学会の学術集会において、「私の大切な一冊」というようなテーマで展示がありました。各大学の教授が思いでの一冊を挙げ、その書物が展示されていましたが、かなりの数のブラックジャックの単行本が展示されていました。
おそらく今の医学部生や若手医師にとっては数々の医療ドラマや映画を観る機会が多いでしょうから、全く違うモチベーションで医師を目指したのでしょうが、当時の手塚作品のフィロソフィーは日本の医学界において絶大なものだったと思います。

未収録作品

連載漫画が単行本として発刊される場合、大抵は連載順にすべての作品を掲載すると思います。
ブラックジャックは絶大な人気を博した作品なので、なんどもコミックシリーズが発刊されています。それでもわずか数話ですが、連載にしか掲載されていない「未掲載作品」があります。
どうしても読みたければ、プレミアのついた連載誌の少年チャンピオンを購入するしかないのかなーと思ってましたが、どうやら国会図書館に所蔵されているようですね。
ただ、国会図書館でどのようにして閲覧するのか、恥ずかしながらわかりません。
こんな話を書いていると、また、大切にしている愛蔵版のシリーズを読みたくなりました。この夏は久々に熟読しようと思っています。

投稿者:教授

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