#10 胞衣ってご存じですか

「胞衣」ってご存じでしょうか?
医学を学んでいる人でもご存じないかも知れませんが、私たちすべての人が御世話になったものですし、産婦人科医にはとても身近なものです。

胞衣とは

胞衣とは、胎盤、臍帯、卵膜のことをさし、母体から排出された状態をいいます。
読み方は「えな」「ほうい」です。
ただ、方位という語句を医学生に教えることはほとんどないと思いますし、産婦人科医や助産師でも詳しく知らない方が多いでしょう。
厳密に言うと、この語句は法律に関する用語です。
例えば東京都では昭和23年に制定された条例 胞衣及び産汚物取締条例(以下、胞衣条例)によって、許可を受けていない業者が、胞衣及び産汚物の処理をすることを禁止しています。
つまり、分娩の際に排出された胎盤や臍帯は、指定された胞衣業者が回収し処理することになっています。
ただし、胎盤を病理検査に提出する場合には、胞衣業者での回収は不要です。

古来の日本における胎盤の取扱い

 医心方という昔の医学について解説した書物によると、胎盤に関しては様々な風習があったことが記載されています。
動物では母親が出産後に胎盤を食べることもあり、胎盤自体に何らかの栄養や御利益、あるいは胎盤の取扱いに関して信仰や風習があったことがわかります。
私自身は経験はないですし、そのような患者さんに出会ったこともないですが、分娩後の胎盤を食べる「胎盤食」ということを信じている方々もおられるとのことです。

胎盤のおさめ方

奈良時代から100年ぐらい前まで行われていた風習に「胞衣おさめ」というものがあります。
お産の時に出てきた胎盤の「おさめ方」が子の将来にさまざまな影響を及ぼすと考えられていたようです。
例えば、水で胎盤を洗い清め、深紅の絹織物で包み、甕(かめ)いれて厳重に蓋をし、土に埋める。そうすると子どもは長生きをし、容姿端麗、高い技能を持ち、知徳を備え、冨をえることができると信じられていたようです。
また、清酒でもう一度洗い、新しい甕(かめ)に胎盤を入れ、鶏の雛を布や絹糸に巻き付け胎盤の上におき、甕の蓋をしめ、おさめるといったことも行われていた地方もあるようです。

縁の下の力持ちとしての胎盤

胎盤は、私たちが育つためになくてはならない臓器です。
受精卵が子宮内に着床し、ほんのわずかな時間は卵黄嚢からの栄養で育ちますが、その大半は胎盤を通じて母体から栄養や酸素を得ることで私たちは育ちます。
そして、児が生まれると共に胎盤は排出され、不要なものとして扱われてます。
物言わぬ臓器であり、まだまだその機能に関してはわからないことも多々あります。
人工胎盤の研究もなされていますが、まだまだ人工臓器が取って代われるような単純な臓器ではありません。
昔の人は、いつしかこの胎盤の与えてくれるパワーのようなものを感じて信仰や風習を創りあげたんだろうなと感じます。

プラセンタエキス

ちまたではプラセンタエキスなる栄養食品や注射などが溢れています。
私自身は、これらの医学的効果については全く知識がありませんし、一般的に病院で扱うものではないので効果について肯定も否定もできません。
ただ、胎盤には沢山のステロイドや様々なホルモンが含まれています。そのためになんらかの効果を期待して珍重されているのかもしれません。
これらの多くの製品は、豚や馬の胎盤から作られているようですね。
いずれにしましても、胎盤に備わるなんらかの力を信じたいというのは今も昔もかわらないのかな、と思ってしまいます。

投稿者:教授

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