#16 妊娠とインフルエンザ

妊娠とインフルエンザ

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の第8波が気になりますが、同時にインフルエンザの流行についてもニュースで取り上げられるようになりました。
もともと、寒くなるこの季節になるとインフルエンザの流行が始まります。
毎年、多くの方がインフルエンザワクチンの注射を受けていますし、わたしも毎年受けています。
外来で妊婦さんと話をしていると、多くの方が「インフルエンザワクチンを打ってもいいですか?」と質問されます。
せっかくなので、少し解説します。

インフルエンザとは

インフルエンザ(influenza)とは、一般の「かぜ」と分けて「重くなりやすい疾患」として位置づけられています。
SNSでの世界では、影響力の強い人をインフルエンサーと呼びますが、大昔は、インフルエンザが大流行したときに、星や寒気の影響(influence:インフルエンス)で引き起こされた病気と考えられたため、そのような呼び名になったと考えられています。
インフルエンザの病原体は、インフルエンザウイルスです。
オルソミクソウイルス科という分類に含まれるウイルスです。
ざっくりと説明すると、H○N○という型番で表され、H1N1という型が、いわゆるインフルエンザです。
時々ニュースで話題になる、鳥インフルエンザの場合は、H5N1という型が多いようです。
画像は、H1N1の電子顕微鏡画像です
https://www.cdc.gov/flu/pandemic-resources/2009-h1n1-gallery.html より引用

妊娠中にインフルエンザにかかったら

インフルエンザ(H1N1)に罹った場合、妊婦さんは、妊娠していない方に比べて入院率が高く、米国では死亡率が5倍高かったとデータもあります。
流産や早産、胎児発育への影響のデータもあります。
抗インフルエンザウイルス薬として、内服薬のタミフル、吸入薬のリレンザやイナビルは、胎児への有害事象は報告されていませんし、その他の内服薬のゾルフーザ、点滴薬のラピアクタも、ヒトでの有害事象は報告されていません。
インフルエンザは感染すると高熱を出すことが多く、高熱の影響を防ぐためにもできるだけ早期の投与が必要ですし、妊婦さんはアセトアミノフェンぐらいしか解熱剤の使用が限られますので、早めの治療介入が大切です。
産婦人科診療ガイドライン産科編にも「抗インフルエンザウイルス薬投与は重症化を予防するエビデンスがある」と明記されていますので、妊婦さんやそのご家族は安心して投薬治療を受けて下さい。

インフルエンザに罹らないようにするには

インフルエンザに100%罹らないようにすることは無理でしょうが、やはりワクチンは大切です。
インフルエンザワクチンは、不活化ワクチンという種類のワクチンですので、理論的に「不活化」つまりウイルスの働きはありませんから、安心して使用できます。
また、妊婦さんがワクチンによって免疫を持つことで、産まれた赤ちゃんも半年程度のインフルエンザへの予防効果があります。
産まれたばかりの赤ちゃんへワクチンを打つことはできませんから、妊娠中に打つことで、母と子の二人に対して有益な効果となります。
ワクチンの妊娠への影響は極めて低く、妊娠中のどの時期でもワクチン接種は可能です。
ただ、妊婦さんだけがワクチンを打っても意味はありません。
特に、妊婦さんと一緒に暮らすパートナーや職場の人など、社会全体で「集団免疫」の状態を作ることが大切です。
私たち医療従事者は、毎年ワクチン接種をしますが、わたしも注射は正直なところ嫌いですが、臨床実習のメディカルスチューデントに打ってもらいました。
安心して妊婦さんに受診してもらう環境を整えることも医療従事者の重要な役割ですね。

投稿者:教授

トップページに戻る

Top