#14 双子が小さいのは本当に小さい?

古くて、新しい課題

 双胎(一般的に「ふたご」)の場合に、単胎と同じような基準値で体重を評価するのは妥当なのか?
実はこの課題は数十年も前から議論されていますが、いまだに結論が出ていません。
胎児の発育を評価する時に用いる基準となる「発育曲線」は、ある集団での数値をもとに作成されます。
日本では、約20年前に発表された日本人を対象にした基準値を用いていますし、諸外国ではそれぞれの地域の実情にあわせた基準値を用いています。
ただ、基準値というのは、あくまで統計データの分布を元にしたものです。
ですから、例えば、平均マイナス1.5標準偏差(mean-1.5SD)とか、10パーセンタイル、といった線引きをしているだけです。
基準値より低いからと言って必ずしも病気であるわけではないのです。

双胎の基準値は?

双胎は、単胎に比べて発育(あくまで体重の増え方)が遅く、特に妊娠の後半期になると、推定体重の増加率が単胎よりも低下します。
そのため、「胎児発育が少し遅いかも」といわれる多胎妊娠の妊婦さんは多いはずです。
では、本当にそうなのでしょうか?
私たちは、長年、単胎の胎児の発育曲線を基準にして双胎や三胎(もっとそれ以上の数の多胎も)の胎児の発育を評価しています。
そのため、どうしても双胎の胎児の場合は、「基準値より小さい」と判定される割合が増えてしまいます。
この「基準値より小さい」を医学的には「胎児発育不全」といいます。
ただ、胎児発育不全と言っても、「ただ小さい胎児」から「何かの疾患で小さい胎児」まで、様々な胎児がいます。
例えば、身長が低いからといっても必ずしも疾患があるわけではないのと同じです。

双胎に特有の発育曲線を作るべきでは?

最近、興味深い論文が発表されました。
あくまでも専門家の意見としての論文ですが、American Journal of Obstetrics and Gynecologyという世界的に権威のある産婦人科系の雑誌です。
タイトルは読んで字のごとく「双胎胎児の発育を評価するために、双胎特有の発育曲線を用いるべきでは?という内容です。

病的な双胎と健常な双胎

上記論文の著者らの意見としては、病的な双胎は別として、健常な双胎を集めて、そのデータから胎児体重の基準値を評価する方が理にかなっているのではないか?というものです。
私も彼らの主張に一理あると思います。
ただ、病的な双胎と健常な双胎の区別は?という課題があります。
双胎の場合、二人の胎盤領域の大きさが均等でなければ、体重の差がでます。その場合、小さい胎児は、果たして病的なのか、健常なのか、という区別はとても難しくなります。
本当は病的な胎児を多く含んだ集団から作られた基準値を使うと、本当は病的なのに基準値では病的でない、ということになりますよね。
つまり、理想的にはわかっていても、基準値を作るには大きなハードルがあるということです。
ただ、彼らは、二絨毛膜双胎、あるいは二卵性の双胎、だけを集めて作ればよいのではないか、という主張をしていて、わたしもなるほど、とは思っています。
ただ、これらの基準値は作った上で、そのお子さん達の長期の発達までみてみないと、本当の意味での(健常であることの)基準値にはなりませんので、数も時間も労力も膨大になるというのが現実でしょう。
私の中では、あと何十年経過しても、古くて新しい課題のような気がします。

投稿者:教授

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