#19 妊婦健康診査について(1)
2023年02月02日妊婦健診とは
妊娠すると産婦人科を受診し、定期的に通院する「妊婦健診」が始まります。
その際、市町村区から母子健康手帳(母子手帳)が発行されますが、この定期的な通院制度と母子手帳のシステムは、日本が世界に先駆けて確立したものです。
ちなみに、正式な名称は「妊婦健康診査」で、略して「妊婦健診」と書きますが、がん検診などと違い「健診」と略しています。
妊婦健診の歴史
第二次世界大戦前の日本では、今のように女性が妊娠した後に定期的に医師の診察を受ける制度はありませんでした。
各地域や医療機関によって、その仕組みは様々でした。当時は、乳児死亡が大きな問題になっており、明治から大正期の乳児死亡率は、出生1000人に対し 190~160 と高いものでした。
主な原因は、分娩に関わる問題や感染症でした。 そのため、昭和 12 年(1937年)に保健所法が制定され、母子保健が保健所の重要な事業とした開始されました。
また、昭和 17 年(1942年)には、富国強兵を主な目的として、妊産婦手帳制度と妊産婦登録制度が創設されました。具体的には、妊娠の早期届出や妊婦の健康管理が図られるようになりました。
戦争のための人口増加策が皮肉にも現在の制度の礎を後押ししたことになります。
第二次世界大戦後は、戦争孤児や貧困、児童の非行などが社会問題となり、児童の健全な育成を目的として、1947年(昭和22年)に児童福祉法が制定されました。
この法律では、児童および妊産婦の健康の保持増進、児童の疾病障害に対する療育指導が図られました。
戦前に制定した制度は、妊産婦を対象にしていましたが、小児期までを含めた内容として、昭和医23年に「母子手帳」が定められました。
しかし、児童福祉法では、母子の健康を保つことが体系化されておらず、また当時は、乳児死亡や妊産婦死亡が諸外国に比べて高い状況でした。
そのため、昭和40年(1965年)8月18日に母子保健法が制定され、「母子手帳」は「母子健康手帳」という名称となり、妊婦健康診査や保健指導などの体系的な事業構築が図られるようになりました。
昭和40年の母子手帳
ちなみに画像は、母が私に渡してくれた母子手帳です。
丁度、母子保健法が制定される少し前でしたので、名称が「母子手帳」となっていて、「母子健康手帳」ではないのが、歴史を感じますね(笑)
母子保健法とは
条文なので硬い印象の文章になりますが、母子保健法の第一条には、
「この法律は、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図るため、母子保健に関する原理を明らかにするとともに、母性並びに乳児及び幼児に対する保健指導、健康診査、医療その他の措置を講じ、もつて国民保健の向上に寄与することを目的とする」
とあります。
具体的に言えば、この法律を根拠として、現在の妊婦健診が行われているということです。
妊婦健診の回数と項目は
妊婦健診の回数は、出産までに14回程度で、回数は以下のとおりです。
- 妊娠初期から妊娠23週まで おおむね4週間に1回
- 妊娠24週から35週まで おおむね2週間に1回
- 妊娠36週から出産まで おおむね1週間に1回
- 診察項目:
- 子宮底長・腹囲
- 血圧浮腫
- 尿(糖および尿タンパク)
- 体重等
- 初回の妊婦健康診査においては身長
検査項目は以下になります。
- 血液型等の検査(ABO血液型、Rh血液型及び不規則抗体に係るもの)−妊娠初期に1回
- B型肝炎抗原検査
- C型肝炎抗体検査
- HIV抗体検査
- 梅毒血清反応検査
- 風疹ウイルス抗体検査
- 血糖検査−妊娠初期に1回、妊娠24週から35週までの間に1回
- 血算検査-妊娠初期に1回、妊娠24週から35週までの間に1回、妊娠36週から出産までの間に1回
- HTLV—1抗体検査 -妊娠初期から妊娠30週までの間に1回
- 子宮頸けいがん検診(細胞診)
- 超音波検査−妊娠初期から妊娠23週までの間に2回、妊娠24週から35週までの間に1回、妊娠36週から出産までの間に1回
- 性器クラミジア検査 −妊娠初期から妊娠30週までの間に1回
- B群溶血性レンサ球菌(GBS)検査−妊娠33週から37週までの間に1回
・甲状腺ホルモン検査は含まれていない
・超音波検査は毎回ではないんだ
・トキソプラズマやサイトメガロウイルスの検査は含まれていないんだ
ということです。
他にも、医療機関によっては独自の検査項目を設定している場合が多いですよね。
今後、上記の項目については、別に詳しく解説していきたいと思っていますが、今日のところは、妊婦健康診査の成り立ちとその大まかな内容について解説しました。
投稿者:教授
カテゴリー:医学・医療