#28 妊婦健診について(6)風疹ー風疹ワクチンの歴史と先天性風疹症候群

風疹

#19 妊婦健康診査について(1)で、妊婦健診とはなにか、というお話をしました。久しぶりの投稿ですが引き続き妊婦健診の検査項目について解説します。
妊娠が確定すると,妊婦健診が始まります。
妊娠初期に行う血液検査には,様々な種類がありますが,風疹抗体検査を行います。
「なぜ検査が必要なのか?」という疑問への回答の前に、風疹とは何か、そして、我が国における風疹の流行とその対策の歴史について概説します。

風疹とは

風疹(ふうしん)(英語名:rubella)とは、発熱、発疹とリンパ節の腫れを特徴とするウイルス性疾患です。
風疹を引き起こす風疹ウイルスはRNAウイルスに分類されます。
感染して2〜3週間(平均では16〜18日)の潜伏期間を経た後に、発熱、発疹、リンパ節腫脹(耳の後ろ、後頭部、首)が現れます。ただし、約半数の患者さんは発熱を認めず、症状を欠く“不顕性感染”が3割程度に存在します。多くの発疹を伴う感染症と類似した症状となるため、確定診断には検査が必要です。
つまり、風疹に感染しても2−3週間は症状がありません。ですので「あ、風疹かもしれないから学校や仕事を休まないと」という行動にはなりません。
ですので、症状が出たので他の人が感染しないようにする、ということができない感染症です。

ただし、風疹自体は予後良好な疾患で、発熱などに対する対症療法(解熱鎮痛剤)によって経過観察します。
風疹ウイルスに対する特別な薬はありません。

風疹の最大の問題ー先天性風疹症候群ー

風疹の最大の問題は、妊婦が感染した場合に風疹ウイルスが胎児に及んで引き起こす先天性風疹症候群です。
妊娠20週頃までに感染し胎児への感染が成立した場合、先天性心疾患、難聴、白内障などの先天異常を引き起こすことがあります。
子どもや大人が感染しても、ほとんどの場合は経過観察や解熱鎮痛剤の投与で治るので、その場合は問題ないのですが、妊婦さんが感染すると、胎児が先天性風疹症候群になるかもしれない、という大きな問題があります。
先天性風疹症候群がはじめて報告されたのは1940年にオーストラリアからと言われています。
詳細な検討によって、妊婦の感染が妊娠初期であるほど、重度の合併症となることが判明しました。
1960年代になると、世界的に風疹のパンデミックが発生しましたが、この頃はワクチンは開発されていないため予防法はなく、数多くの先天性風疹症候群のお子さんが出生し、また、人工妊娠中絶も数多く行われたと言われています。
 

風疹ワクチンの歴史と課題

1969年、ようやく弱毒化ウイルスのワクチンが開発・認可されました。
そして、日本では、1977年に女子中学生(1962年4月2日生まれ以降)を対象に風疹単価ワクチンの集団接種が開始されました。
集団接種というのは、学校など接種会場を設けて、集団でワクチンを打つ方法です。この時、男子中学生はワクチン接種の対象外でした。
私は、この頃に中学生でしたので、今でも女子だけが学校に集められてワクチンを打っていたのでなんとなくその状況を覚えています。
女子だけに接種するというのは、先天性風疹症候群を防ぐということでは理にかなっているのですが、男性が感染すれば、結局、集団に感染を拡大するという点では不十分な対策だったと思います。
1988年、新三種混合ワクチンとして、麻疹、おたふく風邪、風疹の3つを対象にしたMMRワクチンがはじまりましたが、おたふく風邪のワクチンによる無菌性髄膜炎の副反応が問題となり1993年に中止となっています。ちなみにこの時は「男児の風疹感染を予防するぞ!」という戦略ではなかったようです。
1994年、ようやく男児をも対象にした接種がはじまりました。満1歳(1993年度生まれ以降)〜7歳半(1988年生まれ)の女児だけでなく男児にも個別接種で風疹単価ワクチンの接種が開始されました。また、同時に中学生男女(1979年度生まれ以降)に対するワクチン接種も開始されました。
ちなみに個別接種というのは、接種券などを配布して、医療機関に本人が個別に受診して接種する方法です。
2006年からは、MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)として、満1歳と就学前の2回の接種が開始されています。

少しややこしい説明になりますが、1962年4月1日以前に生まれた女性1979年4月1日以前に生まれた男性はワクチン接種が見込めない世代となります。
特に、社会経済活動を活発に行っているであろう世代である1962年度(昭和37年度)から1978年度(昭和53年度)生まれの男性は、風疹への免疫がない可能性が高い年代です。今が2024年ですので、46歳から62歳の男性があてはまります。

このように風疹への免疫がない可能性(抗体がないか低いか)の集団が存在すれば、その集団がウイルスに感染を起こすことで流行を継続させる可能性が高くなります。
私もこの世代ですが(汗)、この世代だけでなく、人口全体において、風疹抗体の獲得率が低ければ(免疫のない人が多ければ)、風疹感染がどこかで発生して伝わっていく、つまり、我が国では風疹の流行がずっと続くことになりますし、時に爆発的な流行を引き起こす可能性があります。
ちなみにアメリカでは、ワクチン接種率が90%を超えており2015年に風疹排除達成が宣言されています。
残念ですが、日本では、2012-2013年の流行によって先天性風疹症候群のお子さんが45人、2018−2019年の流行で2人が報告されています。
少しでも早く日本での集団免疫が達成できて、風疹排除宣言がなされることを期待したいです。

次回は、妊婦に行う風疹抗体検査とその意義などについて解説します。


投稿者:教授

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