検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部

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待ったなし!ウイルスハットトリック

ウイルスハットトリックと聞いてピンと来た方もおいでかも知れませんが、RSウイルスとノロウイルス、インフルエンザを中心にお話します。
昔から風邪は万病の元と申しますが、現在もそれに変わりはありません。風邪が原因となって発症する可能性のある病気は多く、肺炎、髄膜炎、腎盂腎炎、中耳炎などがあります。特に抵抗力の弱いお年寄りやお子さんは注意が必要です。私たちは、昨年、早くから流行したRSウイルスとそれに引き続きノロウイルス、そしてこの冬は、インフルエンザウイルスと戦っています。それぞれのウイルスによる感染症の症状は細かくみると違いはありますが、RSウイルスとインフルエンザウイルスによる感染症は症状がいわゆる風邪に似ているため、軽く考えがちです。
RSウイルス感染症は通常、冬季に流行し、2歳までのほぼ全ての乳幼児が一度は感染すると言われています。しかし昨年はこのRSウイルス感染症が夏場から大流行しました。原因は明らかになっていませんが、ウイルスも生き残ろうと必死なのかも知れません。通常RSウイルスは、感染してから一週間程で鼻汁等の症状が数日続き、多くは軽症で済みますが重くなると咳がひどくなり、喘鳴・呼吸困難などの症状が現れ、場合によっては細気管支炎や肺炎へと進展します。感染力が非常に強く、重症化しやすいRSウイルスの感染を防ぐには、予防を行うことが重要です。このウイルスは、おもちゃ等に付着してから最長で7時間も感染力を維持することができると言われています。うがい・手洗いを小まめに行う習慣をつけることが特に大切です。
次にノロウイルスについてですが、これはRSウイルスやインフルエンザウイルスとは違い、その感染症の主な症状は急性胃腸炎です。下痢だけでなく、嘔吐を伴うことが特徴とされています。そのため、感染した人の嘔吐物中に存在するウイルスが空気中に飛散し、それらを吸い込むことで多くの人が感染します。ここで大事なことは、消毒の方法です。下痢だけであればウイルスはトイレから下水に流されるので広がりにくいのですが、嘔吐物は適切に消毒・処理しないとウイルスが床に残ります。嘔吐物を処理するときには、必ずビニール手袋を着用した上で、家庭においては市販の塩素系消毒剤(ハイター等)を薄めたもので消毒しましょう。薄め方の方法の一つとして、ペットボトルを使うことで簡単に調整する事ができます。500mℓのペットボトルにペットボトルキャップ1杯のハイターを入れ、これを約2倍の水で薄めれば、嘔吐物や床の消毒に適した消毒液になります。
液に浸したキッチンペーパーやタオルなどを置き、5~10分間放置した後は、ビニール袋などに入れて密封して捨ててください。他のウイルスはアルコール消毒が効果的ですが、ノロウイルスにアルコールは効きません。したがって、ノロウイルスの消毒には必ずハイターを使用しましょう。もしノロウイルスに感染した場合、今のところ有効な治療薬はないので、適切な対症療法が必要となります。脱水症状が起きないように水分の補給を十分にしてください。脱水症状がひどい場合は、病院で点滴治療が必要となります。いずれにしても、ノロウイルスの感染を予防するためには、RSウイルスの予防と同様に、うがい、手洗いが大切です。
三番目は、現在流行真只中のインフルエンザについてです。インフルエンザウイルスによる感染症は、急に38℃以上の発熱・頭痛・関節痛・倦怠感等の全身症状が強く、併せて喉の痛み・鼻汁・咳などの症状も見られます。
これらの他にも、私たちの周りにはたくさんのウイルスがいます。いわゆる風邪は、ライノウイルス・コロナウイルス等、様々なウイルス感染によって引き起こされる上気道炎の総称です。症状は、喉の痛み・鼻汁・咳・くしゃみ等が中心で、一般的に軽症です。 また、SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)は、日本では重症急性呼吸器症候群と呼ばれる新しく見つかった感染症です。インフルエンザに似ていますが、インフルエンザウイルスとは異なり、新しく見つかったコロナウイルスに感染して発病します。このコロナウイルスの感染力は極めて強力なので、感染した人は隔離するのが第一です。さらに、今までヒトからヒトへの感染が殆どなかった鳥インフルエンザや、3年前の大流行で連日メディアを賑わせていた新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)など、私たちはいつもウイルスの脅威にさらされています。
当検査部では、それぞれのウイルスを検出できる診断キットを準備しており、それを使うと、15分程度で検査結果を得ることができます。特にインフルエンザは、発熱してから48時間以内に服用すれば早く解熱すると言われている、抗インフルエンザ薬があります。したがって、迅速に結果を得ることのできる検査はとても重要です。 インフルエンザの可能性があると思ったら、できるだけ早く医療機関を受診して検査を受けましょう。
この時期、ウイルス検査が特に目立ちますが、私たちの日頃の業務は、感染症が疑われル部位から採取された様々な検体から、病気の原因となっている病原体を見つけ出すことです。さらに、見つけ出された病原体による感染症の治療に効果が期待できる抗菌薬に関する情報を、臨床医に報告して治療に役立ててもらう事です。また、抗菌薬がほとんど効かない耐性菌への対策や、院内感染の早期発見および病院環境の調査、抗菌薬の適正使用への貢献、最新の感染情報の収集と関係各所への速やかな情報提供など、感染制御に関わる役割もあります。
現在流行しているノロウイルスについては、病院内でのウイルスの蔓延(院内感染)といった事象が立て続けに報道されました。同様のことは、いつでも、どの医療施設でも起こりうることなので、それらを最初にキャッチし、速やかに正しい情報を伝達する部署として、検査部の責任は重大です。感染症の拡大を水際でくい止めるべく、感染管理部、医師、看護師、薬剤師とともにチーム医療を実践しています。

微生物検査室 安井久美子