検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
最近海外旅行には行かれましたか?
法務省のHPによると平成24年の日本人出国者数は1849万人となっており過去最高を記録しました.しかし,わたしたち日本人の海外渡航者は欧米人に比べて海外渡航時の健康管理には無頓着であり,その知識や対策が不十分であることが以前から指摘されています.
今からある共通点を持つ地域を挙げますが,それがなにか想像できるでしょうか.台湾,アイスランド,オーストラリア,ニュージーランド,フィジー諸島,ハワイ,グアムの7つの地域です.実はこれら地域は狂犬病の危険性がないと農林水産省が認めている地域であり,2013年現在ではその地域は世界でわずか7か所しかありません.狂犬病という病気は,日本人にはヒトの病気としてあまり馴染みのない病気だと思われますが,その死亡者数は世界で年間55000人以上にのぼり今でも増加の傾向にあります.日本においては2006年にフィリピンでイヌに咬まれた男性2名が帰国後に狂犬病を発症して亡くなっており,海外との人や動物の交流が絶え間ない今日では,決して侮ってはならない病気なのです.
狂犬病は犬に限らず狂犬病ウイルスに感染している動物に咬まれることで,その唾液から感染します.発症するまでの潜伏期間が平均1~2ヶ月と長いという特徴がありますが,その間に適切な処置をしなければ発症後わずか1週間程度で命を落とすといわれています.医療が発達した今現在であっても,発症した際の致死率はほぼ100%とされ,あのギネス・ワールド・レコードにも「最も致死率の高い病気」として記録されている恐ろしい病気です.そのため,狂犬病は感染の早い段階で治療を開始し,いかにして発症を防ぐかが重要な病気だといわれています.
それでは狂犬病への感染が疑われた場合どのような検査が行われているのでしょうか.実は狂犬病ウイルスに感染しているかどうかを感染の早い段階で知る検査法というものは今のところ存在しないのです.現在の狂犬病の検査には,患者さんの唾液や皮膚の組織からウイルスを調べる方法があるのですが,どの検査も狂犬病の発症直前でなければ陽性にはなりません.感染の早い段階で感染をみつけるということは困難であるというのが臨床検査医学の現状です.この狂犬病に限らずとも,まだまだ早期診断が求められている病気は数多く存在します.私たち大学病院の検査技師は臨床検査データを診療側に提供するだけでなく,新たな検査法の開発や病態の解明など研究面でも貢献することを責務とし,日々検査の迅速化や精度改良に向けた研究活動にも取り組んでいます.
最後にですが,日本国内では50年以上前から狂犬病の発生がないために,私たちが狂犬病の怖さを忘れ,警戒心が薄らいでいることが最も危険なことではないかと私は思います.今回のテーマの狂犬病は世界的にみて,まだまだ決して過去の病気ではありません.そして狂犬病は早期に治療すれば防ぐことのできる病気だと認識しておいて頂きたいです.狂犬病の疑いがある動物に咬まれた際には,すぐに傷口を石鹸水で洗い消毒をし,速やかに医療機関に相談することを心に留めておいて下さい.
臨床化学検査室 安井優太郎
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