検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部

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東邦大学医療センター
大森病院 臨床検査部

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食生活を見直そう!

日本人の食生活は、魚中心の和食から離れ、ファストフードなど手軽に高カロリーを摂取できる食べ物がとても身近になりました。ハンバーグやスパゲッティ、カレーライスなどは、家庭でも簡単に作ることができ、また子供も喜ぶことから食卓に並ぶことが多いのではないでしょうか。

~食生活と生活習慣病~

食の欧米化と共に日本人における生活習慣病が増加し、虚血性心疾患や脳血管障害が社会問題になっています。数多くの研究から、食事による脂肪酸摂取が影響を及ぼすことが明らかになっています。魚介類を主食とするイヌイットと、肉をメインにするデンマーク人とを比較すると、イヌイットは虚血性心疾患による死亡率が有意に低かったことが報告されています。両者とも高脂肪食であるにもかかわらず、イヌイットは血中の総コレステロールや中性脂肪が低く、善玉コレステロールと呼ばれるHDL-コレステロールが高く、摂取された脂肪酸の質の違いによるものとして着目されました。

~脂肪酸とは~

脂質の主成分である脂肪酸は、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸に分けられます。この多価不飽和脂肪酸には、ω6系多価不飽和脂肪酸(ω6系脂肪酸)やω3系多価不飽和脂肪酸(ω3系脂肪酸)があります。これらの脂肪酸は食品にそれぞれ異なった割合で含まれていて、それぞれ体の中での働きが異なっています。

~飽和脂肪酸~

乳製品、肉などの動物性脂肪やココナッツ油の油脂に多く含まれ、貯蔵脂肪と呼ばれ重要なエネルギー源となります。飽和脂肪酸の摂取量が少なすぎても多すぎても生活習慣病のリスクを高くします。少なすぎると脳出血をおこす可能性があり、一方、多すぎると虚血性心疾患、肥満、糖尿病をまねく可能性があります。

~多価不飽和脂肪酸~

植物油や魚に多く含まれ、生体内で合成できない必須脂肪酸もこのなかまです。 日本人が摂取するω6系脂肪酸のほとんどはリノール酸です。リノール酸は、大豆油、コーン油などに多く含まれています。摂り過ぎはアレルギーなどの炎症と関係することから、適度な摂取が大切です。ω3系脂肪酸には、調理油などに含まれているα-リノレン酸、魚類に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などがあります。ω3系脂肪酸の働きは、中性脂肪の低下、血液の粘性を抑え動脈硬化を防いだりすることなどがわかってきています。最近の研究では虚血性心疾患の抑制のみならず認知症の予防にも効果があることがわかってきています。

~脂肪酸の代謝~

生体内において脂肪酸はそれぞれの特異な代謝経路を持っており、それぞれの代謝はお互いに影響を受け合っています。そのため、脂肪酸摂取の量及び質の変化は、それらの代謝経路に影響を及ぼすとともに生体内分布の偏りをもたらすことになります。
血液検査では、総コレステロール、HDL-コレステロール(善玉)、LDL-コレステロール(悪玉)、中性脂肪を測定することができます。高脂肪食を摂り過ぎていると、総コレステロール、中性脂肪、悪玉コレステロールが上昇します。逆に、脂肪の摂取をさけると総コレステロールが低下します。摂取する脂肪酸の質からみると、ω3系多価不飽和脂肪酸は中性脂肪の低下させる働きが認められており医薬品としても利用されています。 血液中のこれらの脂肪酸は、ガスクロマトグラフィーという特殊な検査で測定することができます。代表的な検査として、ω3系脂肪酸〔エイコサペンタエン酸(EPA)〕とω6系多価不飽和脂肪酸〔アラキドン酸(AA)〕の比率を計算するEPA/AA比検査(基準範囲:0.11~0.50)があります。他にも24種類の脂肪酸を測定する脂肪酸分画検査などがあり、いずれも当院にて検査が可能です

~食のバランス~

健康の維持・増進のためには、様々な働きをする脂肪酸をバランスよくとりたいものです。そのためには、まずは脂質の摂取量全体を適切な量になるよう配慮した上で、魚を1日1回ほど食べ、油料理をする際は植物油にするなどして、肉や乳製品からの動物性脂質ばかりに偏らないようにすることが大切です。

血液検査室 田中学