検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
ヘモグロビンA1c(HbA1c)のお話
ヘモグロビンA1c(以下:HbA1c)は、赤血球に含まれるヘモグロビンと血液中の糖が結びついた糖化タンパク質です。ヘモグロビンは血色素とも呼ばれ、血液中の赤血球に含まれているタンパク質の一種であり、酸素と結合して全身に送る役割を果たしています。このヘモグロビンは、血液中の糖と結合(糖化)するという性質を持っており、結合した物がHbA1cと呼ばれています。このHbA1cは過去1~2か月間の平均的な血糖値を反映するため、日常生活や症状を把握することができ、血糖管理が良好であるかの判断には欠かせない検査となっています。また、HbA1cは血糖値と異なり、食事の影響を受けないために食前・食後を問わずいつでも検査ができます。
通常、赤血球の平均寿命は120日(約4か月)と言われています。その間に赤血球は血管の中を循環し、血糖が結合していきます。高血糖状態が長く続くとヘモグロビンと血糖が、どんどん結合して行きます。つまり、血液検査の結果で、HbA1cの値が高ければ高いほど平均的な血糖値は高いことをあらわしています。
それでは、なぜHbA1cが1~2か月程前の血糖値をあらわしているかですが、骨髄で産生された赤血球が全て4か月間体内循環しているわけではありません。赤血球は、血液1μL中に男性で約500万個、女性で約450万個あり、体内に20兆個も存在しています。この内、寿命を迎えた赤血球は1日当たり250万個ずつ脾臓で破壊され、これと同数の赤血球が骨髄で産生されて体内循環に入ります。このため、3~4か月前の赤血球は全体の10%程度と少なくなるため、HbA1cは概ね1~2か月前の血糖値を反映する事となります。ただし、貧血などで赤血球寿命が短かくなった場合には、HbA1cの値が低値になる傾向がありますので平均血糖値の指標としては使用できません。したがって、血液中のタンパク質であるアルブミンが糖化したグリコアルブミン(GA)や、1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)などの関連検査を併用する必要があります。
一般的なHbA1cの測定法には、①高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)、②免疫法、③酵素法があり、当院検査室では、HPLC法を用いて測定を行っています。この測定法は、赤血球を溶血させてヘモグロビン成分を分画し、HbA1cがヘモグロビン全体の何%であるかを測定します。また、ヘモグロビン成分を各々測定するためHbA1cの他にも胎児性ヘモグロビン(HbF)や変異(異常)ヘモグロビンなどを検出することができます。
HbA1cは患者さんの生活習慣(食生活など)を医師が知るための大切な指標です。当院検査部ではHbA1cの測定の他にも、グリコアルブミン(GA)や1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)、そしてもちろん血糖値も迅速に短時間で測定し、診療前緊急検査として精度の良い結果を報告しています。
臨床化学検査室 村上英一
コラム
- 男性不妊症と精液検査
- ビタミンが止血に関与??
- 花粉症とともに
- CAPD管理に有用な臨床検査
- 水ぼうそうと髄膜炎
- アキレス腱は家族性高コレステロール血症のシグナル
- 「似て非なるもの?」
- 夏場は特にご用心! —本当にあった痛い話—
- ウイルスと異型リンパ球
- がんの原因は一人ひとり違うからこそ、必要ながんゲノム医療へ
- COVID-19診断に関わる臨床検査技師
- 意外と知られていない甲状腺疾患
- コロナウイルスと臨床検査
- AIと医療機器
- 卵の数はどのくらい?? -AMHについて-
- かつて亡国病とも言われた結核の今
- ウコンと肝障害について
- RSウイルス感染症とは?
- スポーツと貧血
- プールに潜むウイルス-アデノウイルス-
- 脂質の摂り過ぎにご注意を
- 知らぬ間に腎臓病・・・?
- “がん”とは・・・ -がん検査と近い未来-
- 曲がった細菌と胃腸炎
- 寒いと赤血球が凝集する? —寒冷凝集素—
- 血液中に細菌?
- お酒も飲まずに肝臓病!? NASHのお話
- 「いつのまに!!」 あなたの骨は大丈夫ですか?
- 妊娠検査薬で妊娠判定が出来るのはなぜ? —hCGについて—
- 首都圏で大流行!『風疹』
- ドーピングとエリスロポエチン
- 痛風と偽痛風
- AICSって知っていますか?
- 再び流行!?麻疹について
- 中性脂肪が気になるあなたへ
- 「Nightmare bacteria(悪夢の細菌)」-悪夢をもたらす恐怖の細菌-
- 大人の白血病?成人T細胞白血病のお話
- 抗生物質リストセチンと臨床検査
- O157について
- 糖尿病腎症と微量アルブミン
- 膵臓がんの現在とこれから
- 実は身近な横紋筋融解症
- 肺がんと腫瘍マーカー
- いろいろな採血管
- ストレスと月経不順
- 蛇の毒
- 胃壁に寄生虫が噛みついていませんか?魚介類の生食に注意しましょう
- 冬の脱水と電解質
- モンキーフェイス
- α‐リポ酸とインスリン自己免疫症候群の関係について
- 尿の色
- 本当はこわいカビ
- pHってなんだ?
- 奇跡のランナー
- アメーバ赤痢
- エンターテインメントとしての遺伝子検査
- 伊勢志摩サミットと薬剤耐性菌
- 「尿酸値」~足の親指の付け根が急に痛み出したら、「痛風」を疑いましょう。
- 「糞便移植」
- ノロウイルス変異で大流行!?
- *クドア食中毒*
- 「糖尿病と認知症(アルツハイマー病)」
- 「秋の花粉症」
- ヒトヘルペスウイルスと疲労度測定
- 『On the rice!』~白いご飯の上に乗せて食べたいおかず
- 『血尿』
- 「黴」 この漢字を読めますか?
- If the gut works,use it!(使えるなら腸を使え!)
- 寄生獣 VS 寄生虫
- 巨赤芽球性貧血
- ドーパミンとパーキンソン病
- クラッシュ症候群をご存知ですか?
- ノロウイルス感染症にご注意を!
- インスリンとインクレチン関連薬
- 幸せホルモン「セロトニン」
- デング熱について
- あなたはホントに健康? 健康診断“新基準値”について
- 大腸がんの早期発見のために「便潜血検査」を受けましょう!
- 更年期?いえ甲状腺機能障害のお話
- 溶血性レンサ球菌感染症のお話し
- マラリアのお話し
- 東京オリンピック開催決定!オリンピック病って…?
- トイレの神様
- 肺炎と肺炎球菌
- 深部静脈血栓症
- ピロリ菌の除菌効果と胃がん
- 「寄生虫今昔物語」
- ヘモグロビンA1c(HbA1c)のお話
- 食生活を見直そう!
- 最近海外旅行には行かれましたか?
- 葉色(はいろ)
- 流れる大捜査線!
- 暑くなる季節・・「かくれ脱水」に要注意!!!
- 「不妊症かもしれない?」と思ったら・・・
- 待ったなし!ウイルスハットトリック
- 酒は飲んでも飲まれるな