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「寄生虫今昔物語」

WHOの記章には、棒に蛇が巻きついているシンボルマークが見られる。
これは旧約聖書の記載に由来し、アポロンの息子で医術の神・アスクレピオスが掲げていたものとされている。浜松医科大学の寺田譲教授によると、本当は蛇ではなくて旧約聖書の舞台となっているアラブ地方に多い寄生虫のメジナ虫で、このマークは皮膚の丘疹から棒を用いて虫を引き出す治療行為をデザイン化したものということである。
寄生虫学の藤田紘一郎先生の著書によると、西洋人は太古の昔からヒトと共生してきた「虫」を病原因子のパラサイトとして認識し、寄生虫を扱う学問であるParasitologyが医学における重要な分野として発達した一方、東洋人は病気もヒトと一体として考え、虫を西洋人のように「寄生虫」としてヒトと切り離して扱うことをしなかったようである。   日本においては、奈良の藤原京トイレの遺跡の土壌から、回虫卵が多数見つかっている。このことは、この時代には下肥を利用した野菜の栽培が盛んに行われていたことを意味している。その他に肝吸虫、肺吸虫、横川吸虫、などの寄生虫の卵が見つかっており、肝吸虫はコイ科の淡水魚に、肺吸虫はサワガニ、モクズガニなどに、横川吸虫はアユ科の淡水魚などにそれぞれ寄生するから、いずれも完全に火を通さずに食べていたと考えられる。このように寄生虫卵の殻によって、当時の人々の食文化、農耕 、衛生状態まで把握でき、考古学領域まで広がりをみせる。回虫の感染率は江戸時代から第二次世界大戦まで高率のままで推移してきたが、集団検便、集団駆虫、トイレの水洗化などで1980年には0.02%と急激に減少した。
当検査部では一般検査室が虫体や虫卵の確認検査を行う部門として検査業務にあたっているが、回虫ならその虫体は1999年、虫卵は2006年以降検出されていない。また、日本海裂頭条虫は、年に2~3件の割合で虫体が提出されている。日本海裂頭条虫(広節裂頭条虫)は、サケやマスなどの魚の生食によってかかるサナダ虫である。長い真田ひものような外観をしているので、昔からサナダ虫とよばれてきた。「真田ひも」そのものを知る人も少ないと思われるが、主に茶道具などの木箱にかける平たい織紐のことである。虫卵→コラシジウム(幼虫)→ケンミジンコ→体内にプレロセルコイドをもつサケ・マスなどを生食→胃→腸粘膜に固着して成育。このようにいくつものステップを踏んで感染後一ヶ月で5~7mの親虫となる。だから卵をヒトが飲み込んだとしても感染は起こらない。北海道や東北で、おしりから、白いひもをブラブラさせたクマを昔よく見かけたらしいが、それがこの広節裂頭条虫である。
日本語には「虫がいい」にはじまり、「虫のしらせ」「虫が好かない」「虫を起こす」さらに「虫がつく」に至るまで「虫」と結びついた慣用句がたくさんある。
自然と一つになって生きてきた我々日本人、ここにヒトと寄生虫との「共生」の思想を見ることができるのではないだろうか。また多くの感染症の中でなぜ?寄生虫感染だけが宿主であるヒトにIgE抗体の産生をおこなうのか、この抗体産生機構の解明は、今後の「アレルギー病」の予防と治療について重要な示唆を与えるものと思われる。

一般検査室 菅原 久美子