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ピロリ菌の除菌効果と胃がん

「日本人で最も多いがんは胃がんである。」と国立がん研究センターの最新統計データは示しています。この胃がんとピロリ菌の関係はすでにご存知の方も多いと思われますが、胃がんや胃潰瘍など胃疾患の原因の大部分がピロリ菌だといわれています。ピロリ菌発見当時は、この菌が胃潰瘍の原因であるという学説が受け入れてもらえなかったため、発見者のマーシャルは自ら菌を飲み込むという人体実験のはてに急性胃炎を起こすことで、この菌が病原菌であるということを証明したという話は有名な話かもしれません。
胃がんの発症リスクを抑えるためには胃の中に生息するピロリ菌を除菌することが推奨されています。しかし、除菌治療はその行う時期によって胃がん予防効果に明らかな差が生じているという報告があることはご存知でしょうか。ピロリ菌は1度感染すると除菌でもしない限り一生持続感染します。胃粘膜が菌の毒素に曝されることによりいわゆる慢性胃炎の状態になり、炎症が繰り返されるうちに胃粘膜が萎縮し萎縮性胃炎へと進行します。この段階まで進むと、胃粘膜に除菌をしても元には戻せない不可逆的な変化が生じているとされ、除菌による胃がん予防効果が極端に下がることが報告されています。つまり胃がんにならないためには萎縮性胃炎まで進行させないことが重要であり、そのためには感染が分かれば早い段階で除菌をすることが大切だと考えられます。
ピロリ菌感染を調べるには現在6つの検査法があります。内視鏡を用いる〔①培養法②鏡検法③迅速ウレアーゼ試験〕の他に、血液や尿を用いる〔④抗ピロリ菌抗体測定法〕、便を用いる〔⑤便中抗原測定法〕、特殊な診断薬を飲んで呼気を調べる〔⑥尿素呼気試験〕などがあり、検査に用いる検体も多岐にわたり各検査の利点・欠点により日常診療では使い分けられています。
2013年2月にはピロリ菌感染に対する検査、治療の保険適用が慢性胃炎にまで拡大され、感染早期での診断と治療が可能となりました。また、近年では、ピロリ菌感染者のとくに若い女性を中心に「鳥肌胃炎」という極めて胃がん発症リスクが高い胃炎を起こすことが報告されてきています。一昔前まではこの菌の感染経路として井戸水が挙げられていたのですが、最近の報告では乳幼児期の親からの口移しがピロリ菌の主な感染経路ではないかといわれています。ピロリ菌は感染しているのにも関わらず症状がないことが多く、極めてやっかいな細菌です。ここのところ何となく胃の具合が優れない方や、両親など身近な人がピロリ菌に感染していたと聞いたことがある方は、一度早い段階でお近くの医療機関で相談されてみてはいかがでしょうか。

一般検査室 安井優太郎