検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部

【お問い合わせ先】

東邦大学医療センター
大森病院 臨床検査部

〒143-8541
東京都大田区大森西6-11-1
TEL:03-3762-4151(代表)

トイレの神様

私達は毎日の生活の中で、何気なくトイレを利用していますが、なくてはならない大事な存在です。私が昔よく言われたのは「トイレには神様がいて、口で御不浄を受け止めて下さっているので、決してトイレにはつばを吐いたり、タバコなどを捨ててはいけませんよ。」と。トイレの神様は、それだけではなく、実は私達の身体の大事な情報も教えて下さっているのです。皆さんは、トイレで自分の尿をチェックされていますか。尿の色調や混濁には様々な病気を知る手がかりがあります。
正常な尿は淡黄色で、その色調は腎臓の中の尿細管で産生されるウロクロム色素とウロビリン体によるものです。1回の尿量が多いと薄くなり、尿量が少ないと濃くなります。普通の色調の尿でも、泡立つ時には注意が必要です。毎回泡立ちがあり、なかなか消えない場合には蛋白が混ざっている可能性があるからです。蛋白尿が出る病気には慢性腎炎などが考えられます。腎臓には、腎糸球体という所があって、そこに流れ込んで来た血液が濾過されます。分子量5万~6万以上の蛋白は濾過されず、また濾過された低分子量の蛋白のほとんどは、尿細管によって再吸収されます。しかし、糸球体に病気が起こると多量の蛋白がこし出され、尿細管の処理が間に合わず、尿中に蛋白が出るという事になります。
赤色尿には、血尿、ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿などがあります。肉眼的血尿は、尿1ℓ中に血液1㎖以上を含み、混濁を認めます。顕微鏡的血尿は、試験紙による潜血反応陽性(尿1ℓ中にヘモグロビン0.6㎎以上)で、尿沈渣(顕微鏡)検査で、5個/高倍率視野(HRF)以上が認められます。血尿の原因は様々です。腎臓の糸球体に障害があり出血している場合、または尿の通り道である腎盂、尿管、膀胱、尿道などに出血を起こすような病気がある場合です。俳優の松田優作さんは、血尿と痛みと闘いながら、米国で「ブラックレイン」という映画を撮り、それが遺作となりました。彼は膀胱ガンでした。ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿は、潜血反応陽性ですが、尿沈渣では赤血球があまり認められません。ヘモグロビン尿は、発作性夜間ヘモグロビン尿症などの時に見られます。ミオグロビン尿は筋組織が急激に破壊される時に見られ、ハードな運動をした後に出る可能性もありますが、まれに横紋筋融解症による腎不全である事があります。
濃黄色や黄褐色の時には、ビリルビンやウロビリノーゲンが高い事が考えられます。ビリルビンの約75%は赤血球の破壊によって生じるヘモグロビン由来です。肝臓でグロクロン酸抱合されたビルビリンの一部は、大循環を経て、腎臓に運ばれます。腎臓での排泄域値は2㎎/㎗で、尿中ビリルビンの検出は、初期の黄疸の鑑別診断に有用です。ウロビリノーゲンは、健常者でも0.4~1.0㎎/㎗排出されていますが、著明な増量となる原因として、肝機能障害、溶血性疾患、過度の便秒などがあり、逆に陰性化する原因は、完全胆道閉塞があります。
尿の混濁を生じるときには、多数の細菌や真菌、血球、塩類などが出ています。痛みが伴う時には、膀胱炎や尿路結石の可能性があります。
尿の不思議と、そこから発信される危険信号を私達は敏感に受け止めてゆかなければならないと思います。そして今日、尿が出る事に感謝、トイレを使わせて頂ける事に感謝、当たり前がどれほど有難い事かにも感謝し、生かされている命を大事にしていきましょう。

一般検査室 加藤弘子