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溶血性レンサ球菌感染症のお話し

A群溶血性レンサ(連鎖)球菌をご存じですか?たまにメディアで取りあげられているのでご存じの方もいらっしゃると思います。今回は、この菌が原因となって引き起こされる感染症のお話をさせて頂きます。
溶血性レンサ球菌は、顕微鏡で観察した時に、丸い菌が連なって見える事が多く、血液を加えた培地で培養すると溶血を起こす事から名付けられています。また、細菌壁を構成する多糖体の抗原性の違いによってA~V群(I,Jは除く)に分類されており、A群溶血性レンサ球菌はA群に属しています。
この菌は自然界に広く存在しており、しばしば、のどや皮膚からも見つかります。菌を持っていても何の症状もない場合もありますが、体の抵抗力が低下した時や、傷口から菌が侵入した場合には、感染症を引き起こします。侵入部位や組織によって多彩な臨床症状を引き起こしますが、よくみられる疾患としては急性咽頭炎、膿痂疹(とびひ)、蜂巣織炎、猩紅熱があります。その他にも肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、骨膜炎などもあります。また、菌の直接の作用でなく、免疫機序を介してリウマチ熱や急性糸球体腎炎を引き起こす場合もあります。感染症の発生時期は、春から夏及び冬季に流行することが多く、ヒトからヒトへの感染経路は、保菌者のせきやくしゃみ、つばなどのしぶきに含まれる菌によって感染する飛沫感染、排出された菌が手などを介し口に入ることによって感染する経口感染、皮膚から感染する接触感染があります。
近年では、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が報告されています。本症は、発症から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、多臓器不全を起こしショック状態から死に至ることも多くあります。日本での最初の症例は1992年に報告され、現在までに200人を超える患者が確認されており、このうち約30%が死亡しており極めて致死率の高い感染症です。その原因菌は A群溶血性レンサ球菌が多いですが、B,C,G群溶血性レンサ球菌による例も報告されています。
A群溶血性レンサ球菌感染症の検査は、咽頭ぬぐい液を採取して迅速診断キットを使用する方法や、細菌が出す毒素に対して産生される、抗streptolysin‐O(ASO)抗体、抗streptokinase(ASK)抗体などの抗体の上昇を見る血清学的方法などがあります。細菌検査は、咽頭ぬぐい液を材料として培養により細菌を分離し同定する他に、血液、骨髄液、胸水、腹水などの通常無菌的な部位、生検組織、壊死軟部組織などからの細菌の分離、同定を行います。
本感染症の予防には、うがい、手洗い、マスクの着用等が有効です。外から帰って来たら、うがい、手洗いをしっかりして感染予防をこころがけましょう。

微生物検査室 榎園恭子