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大腸がんの早期発見のために「便潜血検査」を受けましょう!
今回は、大腸がんを見つける「便潜血検査」についてお話します。大腸がんは、近年急増中で罹患数(新たに大腸がんになった患者数)は毎年10万人を超えています。2020年には、胃がん、肺がんを抜き、男女共にがん罹患数で1位になると予測されています。
大腸がんの原因は、欧米の生活習慣(特に、肉食中心の食生活)の影響が大きいと考えられ、加齢(40歳以上)や肥満、飲酒、喫煙も発症リスクを高めると言われています。
それでも、大腸がんは、「早く見つければ、早いほど治りやすいがん」でもあります。早期がんで見つけて治療を始めれば、ほとんど治癒(90%以上)が可能となります。しかし、がんの初期では自覚症状がみられないことが多く、症状が出てから病院にかかっても、進行がんなら死亡率も高くなります。このことから、大腸がんの早期発見には、微量な消化管出血を見つける便潜血検査を行うことが推奨されています。
大腸がんで腸管にできた腫瘍や潰瘍から出血した場合、排便時にその部分がこすられ便に血液が混入します。便潜血検査では、この便に混じったわずかな血液を検出することで、大腸がんを見つけます。検査の原理は免疫法というものであり、これは血液中にあるヘモグロビンというタンパク質だけに反応するようになっていますので、検査前に食事制限をする必要もなく簡便に行うことができます。誰でも簡便にできるこの検査は、大腸がん検診に用いられており、スクリーニング検査として活用されています。スクリーニング検査とは、「症状がない集団の中から、感度の高い検査法で異常な人を拾い上げること」であり、大腸がん検診の目的である「一定の集団の中から、がんで亡くなる人の割合を減少させること」と合致しています。もし、検査で「陽性」と判定されても、直ちにがんと診断されるわけではなく、精密検査を受けるよう勧められます。精密検査には大腸内視鏡検査があり、この結果によって確定診断されます。また、「陰性」だからといって安心はできません。この検査には注意点があり、便の取り方によって検査結果に影響を与えるということです。即ち、正しく採便できなければ、たとえがんがあっても陰性と判定されることもあると言う事です。血液は便の中で均一に混じっているわけではなく、腸管からの出血は主に便の表面に付着しますので、正しい採便方法としては、採便容器のスティック(ブラシもあり)で「便の表面のあちこちをまんべんなくこすり取る」こと。これで、正確な検査結果が得られます。また、早期がんでは絶えず出血しているわけではなく、検査を受けても見つからないこともあります。このため、通常は連続2日間採便をする2日法で行い検出率を上げるようにしています。
ところで、皆さま(とくに40歳以上の方々)、毎年大腸がん検診は受けておりますでしょうか?「自覚症状がないから」「仕事が忙しくて行けない」「めんどくさい」「がんと言われたら怖い」などの理由から欧米(70%以上)に比べ、日本の検診受診率(20%程度)は低いのが現状です。
大腸がんは「早く見つけて、早く治療をすれば治るがん」です。検診を受けずに放置し、進行がんになってから入院して高額な治療費と身体的苦痛を考えたら、年に一回でも便潜血検査を受けて早期発見・早期治療を行うほうが合理的な考え方ではないでしょうか。
一般検査室 佐藤信博
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