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インスリンとインクレチン関連薬

近年、食生活の変化などにより生活習慣病の増加が問題となっています。わが国における糖尿病患者および糖尿病予備軍は、合わせて全人口の約27%と推計され、年々増加しています。糖尿病は「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝異常疾患群」と定義されています。インスリンは糖の代謝に密接に関わっており、血糖値を下げる唯一のホルモンです。そのため、分泌が減少すると血中のブドウ糖を処理しきれず高血糖状態が続くのです。日本人は欧米人に比べ、インスリンの分泌が少ないため、軽度肥満でも糖尿病になりやすいと言われています。
インスリンは膵臓のランゲルハンス島β細胞で合成・分泌されます。そして肝臓を経由して全身へと送り込まれる際に、インスリン受容体と結合し、ブドウ糖の細胞内への取り込みおよびエネルギー源としての利用、グリコーゲンや脂肪としての貯蔵促進などに働きます。1型糖尿病では、このβ細胞の破壊・消失によりインスリン不足が生じた結果引き起こされます。一方、2型糖尿病は遺伝因子や肥満・運動不足などの環境因子によりインスリン分泌低下やインスリン抵抗性増大をきたすことにより起こります。
インスリン分泌能および抵抗性の指標としては75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)によるインスリン分泌指数や、早朝空腹時の血中インスリン値と血糖値から算出されるHOMA-R 、HOMA-βなどが用いられます。インスリン分泌能が保持されているかの検査には、主にC-ペプチドが利用されます。インスリンはβ細胞からC-ペプチドと対になって分泌され、別々に分かれます。インスリンは血中で速やかに代謝され、無くなってしまいますが、C-ペプチドは血中に残り尿中に排泄されます。尿を一日分貯めてから、その中のC-ペプチドを測定すれば、一日のインスリン分泌量を推定出来ます。インスリン分泌能は、空腹時の血中C-ペプチド値と併せて判断されます。
糖尿病薬物療法では、インスリン製剤や経口血糖降下薬などが用いられますが、近年注目を集めているのが「インクレチン関連薬」です。インクレチンとは、食事摂取に伴い消化管から分泌されるホルモンの総称で、GLP-1とGIPがあります。食事を摂取し血糖値が上がると小腸下部からGLP-1、小腸上部からGIPが分泌され、膵臓に作用してインスリンの分泌を促進すると共に、血糖上昇作用を持つグルカゴンの分泌を抑制します。インクレチン分泌は血糖濃度に依存し、濃度が上がると増加し、低い場合には抑制されます。また、インクレチンは分泌後、DPP-4という酵素によって速やかに分解され生体内での活性を失います。これらの作用を利用した血糖降下薬がインクレチン関連薬であり、経口薬のDPP-4阻害薬や注射薬のGLP-1受容体作動薬があります。どちらも血糖濃度が高いときにだけ働き、単独投与では低血糖のリスクが少ないとされています。他にも、食後の急な血糖増加を防いだり、体重増加を抑えたりという利点が挙げられます。また、β細胞を刺激することでインスリン分泌を増やすような従来の血糖降下薬では、β細胞の減少や機能低下が起こることがありましたが、インクレチン関連薬ではβ細胞の保護作用が期待されています。
現在、多くの糖尿病治療薬が開発されている中で、インクレチン関連薬はさまざまな点において期待され臨床応用されています。糖尿病では、食事療法や運動療法に加え、必要に応じて病態にあった薬物療法を行うことで適切な血糖コントロールが維持されます。血糖コントロールの指標となる検査項目には、血糖やHbA1c、そしてGA(グリコアルブミン)があります。血糖値は食後に上昇するため、何時測った値か?が重要です。HbA1c・GA値は過去の血糖を反映する値で、HbA1cは約1ヶ月前までの、GAは約2週間前までの平均的な血糖値を示しています。HbA1cは、重い貧血がある場合には値が下がってしまいますので、GAを利用します。また、GAは薬物治療開始後に、血糖値の動きを細かく調べたい場合に用いられます。

臨床化学検査室 迫屋 舞