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クラッシュ症候群をご存知ですか?

クラッシュ症候群をご存知ですか?

今から20年前の1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生しました。この震災における救急医療の現場において、今回のテーマである「クラッシュ症候群」が注目されました。本症候群は「挫滅症候群」とも呼ばれており、その歴史的認知は比較的遅く、第二次世界大戦中の1940年、ドイツ軍によるロンドン大空襲によって、瓦礫の下から救出された人々が発症し、これが最初の症例報告とされています。
クラッシュ症候群は極めて特徴的な病態を示します。倒壊した建物などから救出された直後は、意識も明瞭で、一見軽傷のように見えているのに、数時間後、突然意識が薄れ最悪の場合、死に至ることも少なくありません。

何故このようなことが起こるのでしょうか?

倒壊した建物などに身体の一部、特に四肢が長時間圧迫を受けると、その時間にもよりますが、血流が停滞して筋肉が障害を受け、筋細胞の壊死が生じます。目安としては2時間以上圧迫があった場合とされています。その後、圧迫状態から解放され血流が再開すると、壊死した筋細胞からミオグロビン・カリウム・乳酸などが血液中に大量に漏出します。普段これらの物質は、細胞の中で重要な働きをしていますが、このような状態では数倍から数百倍の濃度になり、毒物となって全身障害を発症させます。
すなわち、ミオグロビンは、腎臓の尿細管を壊死させ、急性腎不全を引き起こします。赤褐色の尿が出始め、やがては尿が出なくなります。カリウムは高カリウム血症を引き起こし、筋肉を痙攣させ、心室細動、心停止を引き起こします。そして乳酸は、乳酸アシドーシス(身体の中が酸性になる)を引き起こし、酵素の働きを低下させます。

どのような検査がおこなわれるのでしょうか?

ミオグロビンは、筋細胞の細胞質に豊富に含まれる蛋白質で、ヒトでは主に骨格筋と心筋に存在します。急性心筋梗塞が発症すると、梗塞部位での心筋細胞壊死が生じ血中のミオグロビン濃度が増加する事から心筋障害マーカーとしても用いられますが、激しい運動や外傷などによる骨格筋障害によっても増加します。「クラッシュ症候群」による増加は、後者の典型例であると言えます。血中ミオグロビンは、始めのうちは尿中へ排泄され特徴的な赤褐色を示します。
カリウムは、正常な状態では細胞内に高濃度に含まれていますが、細胞が壊死し、その後血流が再開されると大量のカリウムが循環血液中に流入し、高カリウム血症を引き起こします。本症は致死的不整脈の原因となります。
ミオグロビン・カリウム・乳酸の検査は、当院ではいずれも緊急血液検査として実施されています。ミオグロビンは酵素免疫測定法を用いて測定します。カリウム・乳酸は電極法を用いて、血液ガスと同時測定する事が可能であり、アシドーシス(酸性化)の状態も検査出来ます。血液ガス検査は迅速測定が可能で、採血後数分で結果が得られます。
以前のコラム(トイレの神様)でもご紹介しましたが、『尿の外観』は重要な情報源となる場合が少なくありません。尿中ミオグロビンの測定は一般的でなく、長い時間がかかりますので、簡便な検査である尿潜血定性検査の結果とあわせ、尿の色調が非常に重要な情報となります

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一般検査室 稲田義信