検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
 
コラム ~検査にまつわるお話です~
基準範囲一覧
東邦大学医療センター大森病院 臨床検査部 関連リンク

【お問い合わせ先】

東邦大学医療センター
大森病院 臨床検査部

〒143-8541
東京都大田区大森西6-11-1
TEL:03-3762-4151(代表)

「黴」 この漢字を読めますか?

「黴」この漢字を読めますか? では、「黴菌」であればどうしょう?
漢字が苦手な方でも(私もですが)、バイキンと読むことが出来たのではないでしょうか。「黴」という漢字は音読みで「バイ」、訓読みで「かび」と読みます。細菌やカビ、ウイルスなどの微生物をまとめた言葉が「黴菌(ばいきん)」です。
今回は、カビ(黴)の話をしたいと思います。
カビというと、放置した食品、衣類、壁などに青、赤、黒などの様々な色あいで発生しているのを見かけたことがあるでしょう。そんなカビが多くみられる季節といえば「梅雨」が思い浮かぶと思います。この時期はジメジメしておりカビの発育に適した環境になるため、油断すると様々なものがカビてしまいます。そのような雨の多いこの時期は、元々は黴雨(ばいう)と呼ばれていましたが梅の実が熟する時期であり発音も同じことから、しだいに黴雨から梅雨へと変わっていったようです。
このカビ、人間に悪さをすることがあります。その1つにカビ毒があります。食中毒の原因となるものや発ガン性のあるもの、神経や内蔵にダメージを与えるものなどが確認されています。そして忘れてはいけないのが感染症です。皮膚・粘膜の傷害でカビが侵入しやすい状態になった場合や免疫力が弱くなった場合に感染症を引き起こすことがあります。皮膚の感染症で一般的なのは水虫や頭部白癬、いんきん、たむしなどですね。これらの原因となる白癬菌はヒト、動物や土壌などの自然環境に存在しており、皮膚や毛髪に含まれるケラチンが大好きです。ですから、ケラチンが豊富な体の表面の感染症の原因となります。これに対して、体の内部に感染症を起こすカビも存在します。
髄膜炎という重篤な感染症の原因にクリプトコッカスというカビが知られています。鳩などの鳥の糞に潜んでおり、砂埃と一緒に空気中に舞い上がったクリプトコッカスを吸入してしまうことにより体に侵入してしまいます。恐ろしいカビではありますが、多くの健康な方は免疫の力で無症状のまま終わってしまいます。しかし、免疫の弱まった方は体のなかで増殖して呼吸器感染症や髄膜炎となってしまう可能性があります。他にもアスペルギルスというカビも肺などの感染症の原因として知られていますが、これも免疫力の弱まった方や過去に結核を煩った方が環境中に存在するカビを吸い込んでしまった場合に感染してしまいます。これらはほんの一部で、多くの種類のカビが様々な感染症の原因となります。それらの感染症の原因となるカビを調べるためには感染部位からカビを培養したり、顕微鏡での観察を行います。また、血液中に存在するカビの成分の一部(β-D-グルカン、アスペルギルス抗原など)やカビに対する抗体を調べたりします。
病気の原因となってしまうカビって怖いですね?
いえいえ 怖がってばかりではいけません。人類の役に立つカビもたくさんあるのです。ビールやパンを作るときのイースト菌(酵母)もカビですが、これがないと作ることは不可能です。味噌や醤油、日本酒を作るには麹カビというアスペルギルスの仲間のカビが必要です。ふだん口にしている「きのこ」もカビの仲間であり、食生活とカビは切り離せないほど身近なものです。そして、細菌に感染したときに助けてくれる抗生物質も多くはカビから見つかったものです。ペニシリンやセファロスポリンは病院でよく使われる抗生物質ですが、それぞれペニシリウムという青カビ、セファロスポリウムというカビから発見されました。
人類はカビによる病気で苦しむだけではなく、古来から現代に至るまで上手にカビを利用してきたのですね。

微生物検査室 佐々木雅一