検査を通して患者さんのクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献する臨床検査部
『血尿』
血尿には目で見て血液が混じっているのがわかる「肉眼的血尿」と見た目ではわからない「顕微鏡的血尿」があります。見た目では何とも無いのに、学校や職場の健診で「尿潜血が陽性です」と言われる場合が「顕微鏡的血尿」にあたります。尿潜血反応は尿に試験紙を浸して、赤血球の成分であるヘモグロビンの量を試験紙の色の変化で判定する簡易的な検査法です。
赤血球がどれくらい尿に出てきているのか、詳しく知るためには尿沈渣を調べます。尿を遠心分離器にかけると試験管の底に尿中の有形成分が集まります。これを尿沈渣といい顕微鏡で観察します。潜血反応が陽性になるのは顕微鏡1視野(400倍)の中に5個以上の赤血球が認められるときです。1μL中の数にすると20個となり、血管を流れている血液1μLあたりの赤血球数400~500万個と比較するとわずかな量ですが、腎臓や尿の通り道である尿管、膀胱、尿道で出血がおこっていることを知らせる重要なサインとなります。ときに尿潜血反応が陽性なのに尿沈渣ではほとんど赤血球が認められないことがあります。これは薄い尿のときに見られる現象で、赤血球が壊れて見えなくなっているのです。逆に、尿潜血反応は陰性なのに尿沈渣ではたくさんの赤血球を認めることがあります。多くはアスコルビン酸(ビタミンC)を含む飲料などをたくさん飲んだときにおこる現象で、化学反応が阻害されて偽陰性となります。このような潜血反応と尿沈渣の結果の食い違いは他の要因でもおこることがあり、複数回の検査が必要となる場合もあります。
顕微鏡で赤血球を観察するときには、数だけではなく形も見ています。大きさが均一で形態変化も単調な赤血球であれば、尿管、膀胱など尿路系下部からの出血が疑われます。原因としては、たくさんの白血球も一緒に認められる場合は炎症が考えられますし、剥がれ落ちてきている上皮細胞が腫瘍細胞の特徴を有していれば、膀胱癌など悪性腫瘍による出血が疑われます。結石によっておこる出血もあります。一方、大小不同で、ねじれがあったり、コブがついていたり、ドーナツ状など多彩な形態をしている赤血球は腎からの出血です。変形がおこる原因は、腎の糸球体というところから出てきた赤血球が、次の通り道である腎尿細管という細長い管を通過する間に浸透圧の変化や物質濃度の変化にさらされるためだとされています。腎由来の赤血球がたくさん認められ尿蛋白も陽性だとIgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎などの腎炎が疑われます。
このように血尿は尿路系の病気の重要なサインです。検査をおこなっても原因がはっきりしない血尿もありますが、症状がなくても定期的な受診は大切です。また、激しい運動の後などでは一時的に血尿が認められることがありますので、健診や検査を受ける前の運動は控えめにしましょう。女性の場合、生理中を避けることはもちろんですが、採尿前に外陰部を清拭することも正確な検査を行う上で大切です。
一般検査室 桑村自奈子
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